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父と弟

去年の年末、入院中の父の見舞いができなかった弟。
最後、会いたかったなと言っていた。

父に対して案外手厳しかった弟の印象があったので、
ちょっとだけ不思議に思っていた。

弟は父にお礼を言いたかったのだそうだ。

まだ私たちが幼い頃、数家族で夏休みの旅行で富士山に行った時、
登山だというのにハイヒールで来た奥様がいたりで、
行動がバラバラになってしまった。
弟と父を含む一行は8合目で雨に降られ下山を選択した。
当時はまだ砂走りが使えて多くはその下山を選んだのだが、
登山道から砂走りへ行く道が子供には険しすぎるということで、
父と弟は来た道を引き返すことになったので、
下山にかなりの時間を要した。
二人だけ帰りが遅いことに、母は心配してやまなかったが、
二人は無事みんなと合流を果たした。

そのとき、雨の降りしきるなか、
父はずっと小さな弟の手を握り続けていた。

その手が、とても暖かかったのだと、
その温もりが自分を安心させてくれたのだと、
ずっと言う機会のなかったそのときのお礼を、言いたかったのだと弟は言った。


言えずにお別れしてしまったけど、
伝わってると思うわ。

そんなほんわかエピソード、私も聞けてよかったわ。


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