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銀線細工の雲

 おまえは強いからな、と叔父に言われると私は泣き出してしまった。
「私は強くなんかない」としゃくり上げながら子供の様に泣く姪を、叔父はニコニコしながら見ていた。そして、ゆっくりと泣き止むのを待って言った。
「おまえは強いんだよ、もちろんスーパーマンではない、空は飛べない。それは知っている。逆におまえは知らないだろう、弱い奴の弱さを」
「弱さ?」
「おまえ、人は殺さないだろう?」
「?」
「極論だけどな、弱い奴は自分が助かるためなら平気で人を殺す。貸した物は返さない、隙を見せると盗む。おまえはどれもしないだろう、おまえが普通と思っていることは普通ではない。知人に貸した金が返ってこないことは普通にある、傘立てに立てた傘は無くな
る。弱い奴はその分優しく、強い奴らの犠牲になっているわけではない。小狡く立ち回って生き残っていく。でもそんな奴らばかりだと世の中は腐る。おまえは強い、でも何時までも強いわけでは無い、甘やかされれば、そのうち弱くなってしまう。弱い奴を責めても始まらない、強さは簡単には身につかない、弱いまま生きていくしかない。だから世の中には、強い奴、立派な奴が必要だ。数は少なくてもいい、立派な奴がいるのが良い社会だ。立派な奴というのは、お金持ちだったり社会的地位が高かったりするわけでは無い。でも、見てすぐ分かる。そういう人間になってほしい。おまえには資格がある。甘えると人は弱くなる。気がつくと腐り始める。だから、甘やかすわけにはいかない。強く生きてほしい、そして、出来れば立派な人になってほしいと思う」
 立派な人に、叔父自身は成れたのだろうか?

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