見出し画像

東への旅、5冊の本を抱えて

自分の巣の、好きな所。
朝目覚めると、卵の黄身色の光が注ぐこと。

今朝もそうだった。早起きに成功したのは、この光があったからだ。
部屋がキラキラと笑ってて、そりゃあ瞼を閉じるのが勿体無いと思ってしまうから、二度寝せずに朝を迎えることができた。

今日は2人分のお弁当を詰めた。心の調子がいいと、お弁当もあっという間に詰め終えてしまうのはいつだって不思議。(おかずの詰め方が甘くて、後に雪崩が起きてしまうことを、このときの私はまだ知らない…。)

時間通りに家を出て、無事新幹線に乗った。
今日は本の納品に、東京・横浜へ行く大仕事だ。

新幹線の外、高速で流れていく景色を見ながら、自分が本を届けに行くことに現実味を感じられないままでいた。本当に、本を作って、届けられる日が来るなんて………今でも夢を見ているようだ。




電車を乗り間違えずにたどり着いたのは篠崎駅。この駅の近くにある、とある本屋さんが最初の目的地である。このお店のOさんは、私の本をご自身のラジオで紹介してくださった。
「これはZINEではなく、本です」さらには「いい本」と言葉にしてくれた方。

その日から私は本を紹介する時に、ZINEではなく、「本」と言うようにしている。(少し小声になりながら…)


今日、この本屋さんの前に来て思い出したこと。実は、このお店には3年前に来ている。正確には、お店の前で待ち合わせをしたことがある。なぜかそのときはお店には入らずで。それもやはりタイミングなのだろうなと思う。だから今日が初めての店内だった。


お店の奥には、大きな机といくつかの椅子がある。なんでこう、素敵な本屋さんには決まって「大きな机と椅子」があるのだろう?
私はあまりの居心地の良さに甘えて、2時間も居てしまうのだが……。



Oさんの第一印象は、瞳の水分量が多くて、キラキラしてて、目が綺麗な人。

種類の違うペットボトルのお茶を2本用意しててくださり、「お茶、どっちがいいですか?」と言葉が飛んできたので、私は迷わず綾鷹で…と言ったら「やはり…」などと呟いていたのは何故だったのだろう?と未だ疑問である。綾鷹顔だったのだろうか?次お会いする時に聞こうと思う…😌


いろんな話をした。ちょうどoさんが、私と同じ年齢の時のエピソードの話を話してくださった時は、当時の目まぐるしい感情の動きが、今と重なり、頷きが止まらなかった。

その方は、24歳からの10年間、自分のスタンスというか、在り方を決めたそうだ。
私はまだそんなものはないけど、今日の帰りで考えてみようかなと思った。




1時間ほど経っただろうか、お店に1人のお客さんが来た。Oさんが目をキラッとさせて、その人と私の交互に視線を送る。「著者さんなんですよ」そのご紹介に緊張しながら挨拶をした。


……何が起こったのだろう。
そのお客さんが、私の本を2冊買ってくださるという。予備で念の為に用意していた3冊のうち、2冊だ。

Oさんとお客さんでリズミカルに交換される会話、そして、いつのまにかお会計が終わっていた。

「これも何かのタイミングだから」「人に配りますね」

日頃、人に本をあげているというそのお客さんは、爽やかに風のように帰って行った。透明な心の人だった。

さらに少し話して、女性がお店にきた。どうやら数年前に、お店に訪れた方らしく、かなり久しぶりに来たという。なんでこんなに心が透明なお客さんが多いのだろう。
Oさんはその方にも私の本を薦めてくださった。その方も「何かの縁」という言葉を放ち、私の本を手に取ってくださった。そしてついに、手元にある予備の本は無くなったのだ。



…ハッとする。Oさん、Oさんの本屋さんの中で、私の本を売っていいんでしょうか。私は脳みそがついていきません。そう訴えても、きっとOさんは「ただ場をつなげただけですよ」なんて言うのだろう、そんなことが自然に出来てしまうということは、共通の友人に聞いていた。


「本当にありがとうございました」
これ以上の言葉、その時に持ち合わせていなかった。数週間後に控えている、東京での刊行イベント、頑張ります!とだけ伝えて、いただいた恩を誰かに循環させて行くことを考えた。



ちょっとここらでお空の写真を


篠崎駅を出発し、向かうは横浜。
本日最後の目的地。そう、今日中に大阪に帰る。


横浜の本屋さんに、本を納品しにいく。
正直、かなりドキドキだった。

なぜなら、その本屋さんへの納品は出来ないと思っていたから。詳細は割愛するが、私の不勉強で色々とご迷惑をかけてしまった。そんな中、納品を受け入れてくださった本屋さん。一度ちぎれそうになったご縁が、復活したような体験だった。

郵送でも納品できたが、直接会いたかった。あの温かいやりとりをしてくださった店長さんに会いたかったし、この感謝を伝えたい。ここで会いに行かなければ、違うと思った。

14時。妙蓮寺駅に降り立つと、「やっぱり好きだ」と思った。私は2回しか訪れていないはずのこの街が大好きなのである。数年前、一応近くには住んでいたのに知らなかった街。やはり人生は交わるベストタイミングがあるようだ。

歩いて数分、懐かしい本屋さんがある。実は昨年、まだ本の原稿が書きかけのころ、このお店に来ていた。「来年の春、本を出すかもしれなくて…お店に置いていただくには、どうしたらいいですか?」と訳のわからない質問をした。

「メールでやり取りさせていただいた、小林です」というと、店長さんは今日くることを覚えてくださっていたらしく、ちょっと店先で話しましょうと案内してくれた。

ご挨拶をした時、ああ素敵な人だ、ということは、すぐに感じた。
目をまっすぐ見てくださる方だった。

私は、伝えたいことを、どうにか一生懸命伝えた。納品を受け入れてくださったことの感謝、出版業界への想像力が欠如していたことの反省、この本に関わってくれた方がどれだけ素敵な人たちかを。

ニコニコと話を聞いてくれる店長さんは、丁寧な言葉で一つ一つ返してくれた。
そして、今後に役立つから、とアドバイスをしてくださった上に、本を届けるための貴重な情報をいただいた。

この会話で思ったのは「私を著者としてみてくださっている」
そして自分で言うのは恥ずかしいのだけど「応援してくださっている」ということがとても伝わってきた。


しばらく話し込んでいると

「あ、ちょうどいいね!」
店長さんが私の後ろを見て言う。



振り向くと…

なんと、なんと、なんと、
安達さんが立っていたのだ…!!!!!!!

安達さんとは、「私の生活改善運動」という本の著者さんである。私はこの本が大好きで、文章を書いて行き詰まった時に、よくこの本を開いて読んで、呼吸をしていた。

その安達さんが、目の前にいる。偶然だという。

その店長さんと安達さんが懇意にしていることは、本の内容で知っていたが、まさか本の中の関係性を生で見れるなんて贅沢すぎる時間だった。

それから、しばらく3人で話した。私はもういろんなこと話したい衝動に駆られたが、抑えた。

「またどこかで会える気がするし,多分長いお付き合いになる」そんな夢みたいなことを自然に思ってしまったのだから。


ただ1つ、ウズウズしながら安達さんに伝えた。
「安達さんが本に書いていた、妙蓮寺の街に惹かれたという話。すごく共感で。私も山形から西の匂いに惹かれて引越したんです」

安達さんは「匂い」という単語をきいて、
少し目を大きくした。そしてうなづいてくれた。

この言葉が、通じた…!反応してくれた!!!
とても嬉しかった。


執筆に疲れているという安達さんの姿が、なんだかとてもかっこよくて。ああ私もこんな未来を夢見ているのだなと自覚した。

最後まで心地よかった3人の会話だった。

また、文学フリマで!という言葉で
お二人にお別れした。

先日ちょうど申し込んでいたので、すべてが追い風に思えた。




妙蓮寺駅での滞在1時間は、2倍ほどに思えて、
これまで起きた奇跡の数々に、早足になった。


安達さんの本を贈ってくれた友人と、
本屋さんに納品することを伝えてた友人に、
このことをすぐ伝えた。


帰りの新幹線、知らぬ間に体力を使っていたのか、首が座ってないのではないかというほどに頭を暴れさせながら眠った。


これから、夏に向けて。
少しずつ自分の行きたい方向へ歩みを進めていこう。終わり。

ここから先は

0字
このマガジンだけの共有にしたいと思った、大切な記憶をお届けします。

今日しか感じ取れないかもしれない有限な感性で、日々の感情や記憶の形を残していきます。自分の感性を守っていきたい、思い出していきたい方におす…

いつもサポートしてくださり、ありがとうございます。書く、を続けていける1つの理由です。