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メイちゃんとの通信将棋を振り返る

 lishogiという将棋サービスサイトで、通信将棋という指し方がある。持ち時間が1日とか2日とかの長いもので、好きな時間に指し手を進められる気の長い将棋である。
 そこで今回、大正義メイちゃんと初めて通信を指すことになった。記念すべき対局(?)ということで、それを振り返ってみる。

常盤台メイとは

 今更説明するまでもないのだけど、メイちゃんについて少しだけ。
 ゲーム大好きバーチャルメイド、が一番しっくりくる肩書なんだろうか。本人も遊び相手がメインと言っているので、おそらく怒られるようなことはないだろう。
 Vチューバーによる将棋の大会を筆頭に、将棋に関わっている印象が比較的強い。しかし、毎週木曜日に定期配信をしており、第一週(例えばこれは6月第一週のもの)は気になるボードゲーム月報を発信している。金曜日に、定期か不定期かちょっと不明だけど、エクちゃんとボドゲ配信(こちらも6月第一週のもの)をしていたりもする。また、原神やウマ娘辺りも不定期配信していたりもする。このように、将棋に一定の重きを置きつつも、将棋全振りというわけでもなく、ゲーム全般が好きなのである。
 ゲームからは離れるが、こちらも不定期で朗読配信であったり、謎解き配信(解くほうだけでなく作る方も!)であったりをしていたりもする。懇意にしている鷺宮ローランさんと並んで、サンホラの熱狂的ファンであったりもする。
 と、様々に興味を広げるバーチャルメイド。これが常盤台メイちゃんである。あと、かわいいし、かわいい。なによりも人柄が魅力的。一度配信に遊びに来てちょうだい。

◯通信将棋

 前述のとおり、lishogiのサービスの一つである。切れ負け、フィッシャー、秒読みと、持ち時間の設定の自由度の高さがこのプラットフォームの売りの一つであるのだが、他のサイトにない(わたしはいまのところ確認できていない)ものとして、こちら、通信将棋というものがある。繰り返しになるが、持ち時間が「分」や「秒」ではなく、「日」という単位でできる将棋である。向き不向きはあるところだけど、隙間時間に、じっくりと納得のいくまで考えて指すことができる、オススメのサービスである。
 メイちゃんはこちらの通信将棋で、いろんなひとと対局しているようである。メイちゃんに限ったことではないが、ソノダヨ~アンケでは並行で複数局行っていることが多いようであり、アカウントをもっている同士であれば誘い合ったりで楽しんで貰えれば、というところである。

◯きっかけ

 そもそものきっかけはなにかというと、通信将棋を一時期、途切れずに指していたのを、ここ最近はぱったりとやめてしまっていて、上記のソノダヨ~のアンケを見て、久しぶりにやろうか、いや同時11局以上ってすごいな、メイちゃんもけっこう平行してるって言ってたな、そういや(通信を)指したことないな、どれくらいで一局終わるのかな、からの以下のつぶやきである。

通信将棋にかける、真摯で熱い思いが見られる。

◯本稿の目的

 目的と項目を作ったものの、単に記念なので書いたという側面が強い。
 加えて、わたしが時間の長い将棋でどういうことを考えていたかを表してもいる。
 わたしはどこの将棋サービスでも、だいたい二段前後に相当する棋力で指している。通信将棋は実質時間無制限に近く、本対局は持ち時間5日であるが、実際に5日まるまる使って考えることはない。指し忘れたときの保険の意味合いが強い。一手にかけた時間は、短ければ数秒、長ければ30分くらいだろうか。その時間を使ってどういうことを考えたかのメモだと思ってもらいたい。感想戦は土台にせず、対局中に考えていたことのみを記しているので、正しくないことも散見されると思う。多分一般的な二段前後は、これくらいを考えている、と参考にしてもらえれば。あるいは、二段でこんな程度の読みか、と感じたまだ二段に届いていないひとは、大いに自信を持っていただきたい。直ぐ二段、三段となれる。
 また、これは識者へのお願いでもあるが、思考の癖や方向などで、アドバイスがあればこれももちろんお願いしたい。これは具体的な「こんな手がある(こう進むから良くなる)」という手順を指摘するものでは断じてなく、その指し手を導く土台であったり選ぶ根拠であったりを示してほしい。例えば、こういう方針で考えるのならこちらに目がいくのではないか、こう指すほうが自然ではないか、というようなものだ。ぜひお願いしたい。

◯本局を振り返っていく

 では、本局を振り返っていく。メイちゃんの手の意図も一部は書いていくが、基本的にわたしの指し手の意図について書いていく。予定では、すべての指し手についてコメントする。
 局面図は、何手か進むごとに示すつもりである。筆者たるわたしは後手番だが、符号に合わせ、先手番を手前にする形で表示する。
 また、各指し手項目内で分岐がある場合、①②。。。のように示すことがあるが、これは同項目内に限るものであり、他の項目での分岐には関与しない。
 おおよその序盤・中盤・終盤のくくりはつけているが、ひとによって判断が変わる部分もあると思う。

◯序盤

 だいたい駒がぶつかり合う前くらいまでを想定している。飛先の歩交換は、含めるか含めないかは全体の流れによる。そのまま本格的な開戦となる場合はそれ以降が中盤となるが、それで落ち着き駒組みに戻る場合は序盤とする。

・▲7八飛 △6二銀
 メイちゃんの初手三間明示は、彼女の流行なのだろうか。
 対するわたしは、対抗形か相振りかで悩んでしまう。なのでこれは保留した手となる。相振りの場合、わたしは左玉模様を採用することが多い。居飛車でこの手は普通であり、左玉の場合右銀は5三地点を目指すことになるので、態度保留に都合のいい手となっている。△3四歩も普通。

・▲7六歩 △3四歩
 角道を開ける順当な手。わたしはここでも保留で△5四歩も考えたが、態度保留のこちらに対して、▲6六歩と角道を閉じるかどうかを聞いた意味合いが強い。相振りになる場合、角道を閉じるのは不本意。閉じればそこで相振りを選ぶ。閉じなければ、可能な限りまだ保留して進めるつもり。

・▲6八銀 △5四歩
 ▲6八銀も三間なら指しておきたい一手。
 対抗形なら美濃でいいだろうが、相振りだと美濃はどう評価されるだろうか。相振り三間は攻めが速いのが特徴で、これは美濃囲いと相性がいい。手数と固さで費用対効果がいいのだ。しかし▲3八銀は角交換から△2八角がある。返す手に5五や6六のラインに設置すれば、この瞬間は▲1一角成が受からない。とはいえ、そこまで暴れにいく場面でもないのも確か。
 対するわたしは、やはりまだ保留の手。相手が三間固定ならば△6四歩から△6三銀も、これも居飛車振り飛車どちらにも展開可能ではあるが、▲7五歩まで伸ばされたときに動きにくい側面がある。対抗形で△6三銀をする場合、右四間模様の仕掛けや△6五歩の仕掛けを考えたいが、それらは△7三桂とセット。7五まで伸ばされていると不満。△5四歩は銀の進出の自由度で、より無難であると思う。

・▲4八玉 △1四歩
 先手の玉は右に囲うものなので、美濃を保留で先に玉が柔軟。昨今では美濃囲いにこだわらない金無双型やミレニアムも選択範囲となっている。
 わたしの端歩打診は、この辺りで一度入れてみたい。態度保留をいつまでもは続けられないので、どこかで判断しないといけない。そして、タイミングによっては三間の早い攻め(7筋を伸ばして▲2二角成から▲5五角など)があるので、端歩を無視して速い手があるときは打診にならず一手パスになる。このタイミングでなら、経験上だいたい応じてくる。その場合、端の突き合いはそちらで攻防のある相振りに。応じず囲いに行く場合、端をつめて居飛車にするつもりであった。

・▲1六歩 △5三銀
 応じてきた。端を突きあったとしても、それで攻めるほうが良くなるわけではなく、あくまで攻め味が増える程度。こちらはこれを見て相振りに決定する。△5三銀は、やはり左玉の構想の継続。

10手目△5三銀まで。左玉狙いだが、相手からはまだ居飛車も警戒しないといけない。

・▲3八玉 △4四歩
 ▲3八玉は自然な手。相振りなら金無双を用意できる。対抗形なら、飛先を保留しているので囲いに手を回せる分、先に穴熊形を見られたら振り飛車ミレニアムも選択肢に入る。▲3九玉型美濃で上からが遠いことを主張する戦いがしにくくなることのみが欠点といえば欠点か。ただしその場合、後に見る▲5七銀とは相性がやや悪いので、やはり▲3八玉が柔軟に思う。
 △4四歩は、左玉の命である△4五歩を実現するために必要な手。左玉は三間にすることもあるが、やはり向かい飛車を主軸に考えたいので、△3三角は候補になるが、その場合角交換後に▲5六角がちらつく。飛車を振りにくくなる上に、3四の歩を掠め取られる。手順が前後しても結局指すことになる両者なら、△4四歩が慎重か。
 他の選択肢に△5五歩もあるが、この将棋ではわたしが目指すところではない。

・▲5八金左 △3二銀
 ▲5八金左もここまでの流れ通り、美濃にも金無双にも変化できる手。
 一方のわたしの銀上がりも、左美濃を見せるので、自分の中では作戦は決定ししたものの、保留の態度を見せ続ける手。ただし、この辺りで△4五歩を指しておかないと、▲4六歩とされて位を取れなくなるので、その辺りは少し迷うところであった。

・▲5六歩 △3三角
 三間飛車の特徴の一つは、5七に銀をスムーズに持っていけること。角道を閉じない組み立てを意識しているのだろうか。
 この場合、△4五歩のタイミングを少し考えないといけない。角に紐が付いていないと位を取れないのはもちろん、開けた瞬間に交換が入って即、致命位置に打たれる順があるといけない。△4三銀ならば次に突けるようになるので、そちらが本筋だったか。▲5六歩のせいで▲5六角が消えている瞬間でもある。その場合、
 ▲5六歩 △4三銀 ①▲5七銀 なら △4五歩。スムーズに△4四銀右を目指せる。②▲4六歩 なら △3二飛か△3五歩。左玉は諦め、三間に移行か。そこで向かい飛車に変化しようとすると、矢倉が間に合ってしまうのが不満。▲5六歩、▲4六歩と連動していて先手は満足、△4四歩、△3四歩で後手は不満、だと思う。

・▲5七銀 △4三銀
 わたしがこのまま左美濃であった場合、▲5七銀は四枚美濃を目指せるので、固さ負けせずに生きてくる。後手は△8四歩もまだなので、▲7五歩を急ぐよりも守り重視派なら実戦的。
 ここでは△4五歩は突きにくい。▲3三角成に△同桂は▲2二角があり、同銀は、将来△4四銀右と進みたいのだが、それとバランスが悪い。4三地点の隙を消すために四間に振ると予想するが、そこで▲5五歩のような手が気になってくる。△同歩なら▲6五角。放置して取り込まれて気持ち悪い。
 △4三銀は、次こそ位を取るぞという手。左美濃を放棄(手損で戻ることはなくもないが)しているので、居飛車の線はやや薄くなっている。△4四歩で止めている以上急戦はないし、かといって持久戦にするには固さは中途半端になりがち。
 わたしの左玉を警戒するならば、次に▲4六歩は予想されるところであり、左玉を主軸にしているわたしの課題の一つでもある。右四間、ではないが、その形の攻めを意識した組み立てを、今のところ考えている。

・▲4六歩 △3五歩
 ということで、これも予想通りの位取り拒否。
 対する△3五歩は、先手から▲3六歩まで来られると矢倉が力強く、4三に上がった銀の処置に困る。
 歩と銀を前に進めることが攻めの形を作る上で基本となるが、その際、銀の進出するルートを歩で塞がないようにするのがセオリーである。腰掛銀に構える直前を想像すると良く、4七銀とした場合、5六歩をつくと銀の進む先がない。そういう組み立てはあまり推奨されない。

銀の前方3マスを歩で塞ぐと前に出られない。具体的な狙いがないならあまりオススメではない

 △3五歩は必要な一手と考えている。

△3五歩をつくことで、3四地点に銀が出られる。逆に▲3六歩を許すと4三の銀が立ち往生して、守り駒としてしか使えなくなる。

・▲4七金 △3四銀
 位を許さない▲4六歩とそれを支える▲4七金はセット。多少の手順前後はあっても、いずれ必要になってくる。相振りを意識した場合、後続は高美濃を目指すか▲4八金上で完成とするか。攻めの構想もまだ見えない。▲7五歩▲6六銀のような感じだろうか。あるいは▲9六歩から▲9七角も選択肢だろうか。まだちょっとわかっていなかった。
 △3四銀は先述の通り。4五地点を争点としたいので、割りと効果的であると思っている。ただし、△4二飛を先にするほうが優ったようにも思う。5四地点に銀が一枚多く利いている形のほうが、▲5五歩に対して柔軟に対応できるためだ。△4五歩 ▲同歩 と突き捨ててから△3四銀と出る順もあるので、△3四銀は急ぐ必要はなかったかもしれない。
 この辺りで完全に左玉を放棄し、玉は右(9筋側)に囲うことに決めた。どこまで囲うかは微妙で、候補は7一、7二、6二の3ヶ所。どこがいいかはまだ決めかねていた。
 ところで毎回成功するわけではないが、根本的な考え方として、なんらかの攻める形を作ってから囲いにいくというのが、わたしの目指す将棋である。攻めの手筋、技術が強いと思っているので、防戦一方で勝ち切るのは難しく、先攻、あるいはどこかで反撃をしないといけない。そのためにそれらが可能な形を、囲いより先に作っておきたい。
 左玉は、玉の移動を後回しにすることが多く、この点も上記の考えと合致していて採用しやすいところがある。

・▲7五歩 △4二飛
 いよいよ攻めの形を作ってきた。対してこちらも飛を回って、仕掛けを見せておく。
 しかし、この辺で完全に見えていなかった順があり、▲5五歩と▲7四歩を絡める攻め。単純にすべて同歩で応じると▲5五角が激痛となる。△6四歩は▲5四歩、△6四銀は同角。5三地点が寒い上に、玉の戦場からの遠さの比較で角銀交換でも十分ではないだろうか。なので、素直には応じられない。△4五歩は仕掛けではあるが、二枚で守っているのが固く、▲7四飛が十字飛車で銀を抜く順も見えていて若干怖い。
 これが先の△3四銀を急がなくても良かったと思った点で、△4二飛と△7二金や△6二玉のほうが隙がなく、▲5五歩を一旦無視しやすい面もあり、勝ったように思っていた。

・▲9六歩 △6二玉
 ここではやはり先の▲5五歩と▲7四歩を絡めた順を警戒していた。▲9六歩は端角の準備、だとは思うが、一瞬安心したのはある。なお、わたしは相振りで右に玉を囲う場合、こちらの端歩は基本的に受けない。よほど手がないときや端角をちょうど攻められるなど条件が合えば受けることもある。
 ここでわたしは△4五歩を第一に考えた。
 ①▲同歩は、△8八角成 ▲同飛 △4五飛。ここで▲4六歩なら△7五飛が先手歩切れで受けにくいと評価するが、△4五飛に4七の金が紐つきなので無視し、▲8二角で困りそう。
 ②▲3三角成は、△同桂 ▲4五歩 △6九角 ▲4八飛(4筋に行かないと△4七角成 ▲同玉 △4五銀や桂で怖くなりそう)。△8七角成はややボケていて、△4七角成は4筋に飛がついているので一枚分固く攻められず、また△4五桂の瞬間に▲3三角がちらつく。

図は②の変化を追ったもの。本来なら△5七桂成が必殺だが、角のラインで後手の飛が動けず逆に参っている。

 なのでいきなり△4五歩はうまくはいきそうにないので、やはり自陣整備に手を回すのだが、候補は㋑△7二金㋺△6二玉㋩5二金左。
 左玉を意地でも目指すなら、㋩から△4一玉△3二玉だろうが、上記のとおり4筋攻めに方針転換した時点で放棄している。
 ▲9七角(から▲7四歩)が見えているため、今のうちに銀に紐をつけたい。▲5五歩と▲7四歩の十字飛車もあり、㋑はやや指しにくそう。㋩もやはり7三地点への利きが足りない。㋺が一番無難か。ただし手順前後はまだ許される範囲だとは思う。

・▲4八銀上 △7二金
 ▲4八銀は、意外だった。これで囲いを完成として、あとは攻めるだけにするのか。4筋の攻めが見えているぶん、そこを補強した意味だろうか。
 対して、ここでも△4五歩は考えたが、▲8二角が残っているので消さないとまずい。
 この対局の少し前に、△7二玉と寄る形を指したが、端を散々に攻められ潰された記憶が新しく、本譜の△7二金はその修整である。ただし、5筋に近く流れ弾に当たりやすい。

・▲3九金 △3二金
 相振り飛車で右エルモは、意表を突かれた。
 エルモ囲いとは対抗形居飛車で採用されるもので、もはや周知であろうが簡単に言うと、金銀の連結を良くし、横からの攻めに強いとされている囲いである。反対に上からの攻めに若干弱いが、▲6九玉(本譜は振り飛車エルモで左右逆のため、▲4九玉)と逃げる手を見せてもいる。
 この手を見て、△4五歩を躊躇した。事前の予想では▲2八玉▲3八金であり、先手が攻めを見せるタイミング、具体的には▲6六銀に合わせて4筋が薄くなるときに△4五歩が理想だった。
 本来のエルモは前述の通り、上からには弱いが、今回は金銀でがっちり上部を守る形。おそらく4筋を攻めれば、金銀が剥がされた後で下段の金銀を押し上げ、圧力負けしないようにしてくるだろう。あるいは、エルモの形を意識したというより、4筋の攻防の後で4九地点を支えるのが玉だけ、という状況を避ける意味合いもあったのかもしれない。
 ということは、いきなり4筋を攻めるのではなく、別の攻め、具体的には端攻めや2筋攻めを絡めたほうがいいのではと考え直す。端攻めには持ち歩がないので、2筋を絡めたい。
 ではここでいきなり△2二飛かというと、それは△4五歩が軽すぎて攻めにならず、▲6六銀が早くなりそう。
 では△2四歩はどうか。これは有力だと思う。いずれ後で指すことになるだろう手で、どこかで△2四角を一瞬諦めないといけなくなるのは割り切るところ。
 本譜は△3二金を選んだ。3三地点に紐をつけ、△4五歩 ▲同歩 △同飛 ▲4六歩 △4一飛 から角交換をはさみ、桂跳ねから2筋に回る順でを見ている。手数はかかるが、左桂も前線に出せるのでそれなりではないか、その間に右エルモにしている先手はこれ以上の発展がなく手に困るのではないか。その辺りの判断である。

30手目△3二金まで。仕掛けをあれこれ考えるも、結局おとなしめの変化に。

・▲7四歩 △7四同歩
 先手から先に交換に来た。無視すると▲7三歩成が王手で絶対の先手であり、△同金も△同桂も形が悪く、これは取る一手。先手の左銀はまだ低く、おそらく一歩交換で終わりそう。

・▲7四同飛 △7三歩
 ▲同飛もおそらくこの一手。
 対して、ここで△4五歩はどうだろうか。基本の話だが、△4六歩まで取り込み△4五歩と位を許すと、先手玉への圧力が強く、これで後手悪いはずがないという状況になる。なので△4五歩は基本的に▲4五同歩が前提になる。このタイミングでなら角に紐が付いていないので、▲3三角成 △同桂 ▲4五歩 が予想される。
 これに
 ①△4五同銀では、歩を打たれた手順に下段まで飛を引く順を使えない。
 ②△同飛は有力だが、▲7二飛成といきなり切ってしまう手や▲5一角、▲5二角がちらついた。
 ③△同桂も有力。ただし▲4三歩の叩きを挟んで同様に角打ちのラインその他がちらつく。
 ④△3六歩は、ここでは一手パスになりえる。7八に飛が戻る前提で勝手に進めると、△3六歩 ▲同歩 △4五銀 ▲4六歩 △7三歩 ▲7八飛 △3六銀 ▲同金 △6九角 のような順。実現はしなかったが、このタイミング以外の△4五歩の仕掛けにはこの順も考えていて、後手に歩がない状況では△3六歩に▲同金が力強く、このタイミングで下手に金銀交換につながる手を挟むと、やはり7二の金に先手の飛が直通しているのがどこまでいっても気持ち悪い。
 ⑤△7三歩とここで追い返す手は▲7五飛が気になった。△4一飛を手順でいくためには、△6四銀が必要になる。即座に△4五飛は当然▲同飛で、飛交換は玉周りの差で悪い。
 ここはもっと丁寧に読むべきだったと思うが、結局飛が金駒に直通は許せず、無難な△7三歩となった。 

・▲7八飛 △4五歩
 飛の引くところはいくつかあるが、角に紐をつける7八が一番自然か。例えば▲7六飛であれば、上記の△4五歩以下の変化で、先手の飛が金に直通していない条件で挑める。
 そしていよいよの△4五歩。であるが、本格的な仕掛けのつもりではない。狙いは上述の通り、△4一飛まで引くこと。その間に相手から角交換してくれれば手順に桂を跳ねられるし、交換しない場合、角の処理に困りそう。△2四歩も、ここでも候補ではあるが、3二に上がった金の顔を立たせるために、いつでも角交換できる形を見せたい。

・▲4五同歩 △4五同飛
 やはり△4六歩は許せないので、▲4五同歩はこの一手。
 対するわたしはの手は、本譜の△4五同飛か△8八角成のどちらか。左桂は跳ねたいところであり、可能ならば相手から交換してもらいたいので、一旦△同飛を選択。△8八角成 ▲同飛 △3三桂も有力で、やはり金駒への直通のないまま△4五桂などを目指せる。▲7八飛と戻ると△6九角があり、以下▲8八飛 △4七角成 ▲同銀 △4五桂 ▲4六銀 △5七金 辺りが読み筋。うるさい攻めだと思う。△7八飛は戻りにくいはずで、では飛をどう使うか。8筋を伸ばすのは、ここから手数がかかってくる。今度は△7九角を絡めていくのもあるか。

上記の変化図△5七金まで。こうはならんやろという変化だが、玉の近くの駒をガシガシ削っていけば勝ちやすいと思う。△3三桂から△4五桂はこういう攻めを狙っていた。

 というように△8八角成も有力だとは思ったが、そもそもが速い攻めを捨てて2筋を伸ばすという方針で△4一飛を目指したのがこの進行なので、一旦そちらに従う指し方を選んだ。
 この辺りは、優勢とも不利とも思っていないが、
・攻めの方針がある
・相手からの速攻で潰されそうな変化はなさそう
・速攻以外の相手からの攻めは、少し時間がかかり、こちらの攻めの方針のほうが早そう
 という、優劣とは別に若干指しやすいくらいに考えていた。

・▲3三角成 △3三同桂
 タイミングは多少前後したが、先手から角を交換してきた。次の手を▲4六歩と予想していたが、それに△4一飛と引きそこで▲3三角成でも合流する。先手はおそらく、△8八角成で飛をどかされるのが気になったものと予想する。対するわたしは、当然取り返す一手。30手目△3二金のおかげで▲2二角を消している。
 なお、ここで▲4六歩だった場合に△8五飛もありそうだが、そのタイミングで▲3三角成で困りそう。以下、△同桂 ▲7六角 △8四飛 ▲6六銀。自分の飛を狭くさせ、自身も狭い角打ちだが、この角を取り切るのは難しく、後手の飛は生還が相当難しい。△6四銀以下すぐに取り切られるわけでもないが、△4一飛と引いてじっくり戦う変化で不満がないと判断しているため、わざわざこちらを選ぶことはない、と判断した。

40手目△3三同桂まで。▲4六歩に△4一飛と引いて満足では、と読んでいた。

◯中盤

 歩や角の交換が行われたあとも、盤面が落ち着き駒組みが進む場合は、まだ中盤に入っていない、と捉えることもできる。
 わたしの構想は△2一飛まで周り2筋を伸ばすことだったので、まだ序盤と中盤の曖昧な部分、と捉えたかったのだが、次の一手でそうも言っていられなくなった。
 駒がぶつかりだし、後戻りできなくなるような仕掛け前後以降を中盤とする。

・▲5五歩 △5五同歩
 意表の手だった。完全に頭にない手が来た。単純に△同歩は▲6五角のラインか、▲7四歩からの十字飛車か。▲6五角には△4二飛で耐えてそう。▲7四歩 △同歩 ▲同飛 は、△6五角で暴れるか△6四歩で遮断すれば平気か。
 これは△5五同歩と取って問題ないか。では取らない手はなにかあるか。▲5四歩と取り込まれたときに先逃げの意味で△6四銀くらいだろうか。しかし玉の近くに拠点を作る意味がわからないので、取り込まれるわけにはいかない。やはり△5五同歩だろう。
 ちなみに即座に消したが、△5五同飛は▲5六金があり、さきほどの▲7六角と打つ変化に近い状況で、飛の心配が辛い。
 後から振り返ると、この突き捨てが、本局のポイントになっていそうであった。

・▲7四歩 △7四同歩
 ここも無視した場合、▲7三歩成が王手で絶対の先手。金で取り返しても桂でも、気持ち悪い形になる。
 突き捨てなどの歩突きは基本取り返すものだが、それが玉の近くであればなおさらで、直後に王手を食らってでも先に指したい手がない限り、取り返すものである。△7四同歩しかないはずで、先手は▲7四同飛だろう。
 返す手は暴れるなら先述通り△6五角。ゆっくり納めるなら△6四歩。どちらでも指せる、と判断していた。

・▲7四同飛 △6五角
 やはり▲同飛。そしてこの局面になってから気づく。甘かった。判断が甘かった。△6四歩は利かない。▲5四歩があり、無視も銀引きもまずありえないので、△同銀の一手。数手前は▲6四飛を読んでいて、△6三金で問題ないと判断していたが、ここで▲5三角があった。
 ▲5一角は、34手目△4五歩からの角交換時のついでで読んでいた。そちらは気持ち悪いものの△7一玉で問題はないが、先述通りここは落ち着かせるつもりであった。なのでこの▲7四同飛の局面も、直前まで▲5一角しか見えていなかった。
 ▲5三角ではなにが違うか。遮断のための△6四歩のせいで、▲6四角成が可能になっている。潰れている。つまり、△6四歩では止まらない。

図は上記の変化▲5三角まで。どう応じても後手潰れている。

 △6五角は予定にあった返す手なので、落ち着かせる手がないならこれを選ぶが、不本意である。△4一飛と引いてゆっくりしたいというのが方針だからだ。
 3四の銀を受ける手になにがあるか。
 ①△4三金あるいは銀は▲4六銀で飛が苦しい。飛交換になれば耐えられるが、▲5四歩を挟むと一方的に取られる形になる。これはいけない。
 ②△4四飛とぶつける手は▲5四歩。△同銀は▲5三角、△同飛は▲同飛 △同銀 ▲4四角で合駒に困る。
 ③△5四角は▲4六銀から▲5五銀。
 ④△6四銀は▲5四歩の垂らしがきつい。
 ⑤△6四角は、▲6五角の受け方が難しい。以下、変化はいろいろあるが▲5四歩を主軸に飛をいじめる順があり続け、やはり厳しい。
 ゆっくりした手を選びたいが、ここで3四の銀を受ける手がないことに気づく。△6五角しかなくなる。選んで指すのと、それしかないで指すのでは気分がかなり違ってくる。
 この直前の▲5五歩の突き捨てがなければ、つまり5六に歩が残っていればこのラインが発生しないので△6五角もないが、十字飛車の狙いを実現させるには手間がかかる。そうなると、後手が2筋を伸ばす手が実現しそうになる。▲5五歩が、分岐であったように思う。

・▲3四飛 △4六歩
 △6五角は最終手段。▲4六歩で飛を取り合う変化は、△7四角 ▲4五歩 △4六歩 ▲同銀 △4五銀 ▲同銀 △4六歩 などが一例。飛を取り合ったあとの手番の都合で、後手のほうが飛に弱い陣形ながら攻勢を取れる。
 ▲5一角などもやはりいまいち効果はないので▲3四飛もおそらく絶対手。
 △4六歩も予定通り。先に銀を取られるが、ラインを利用して銀を取り返す順。角道遮断や飛・角取りなどは△4七歩成が強力な先手なのでリードしそう。▲4六同銀が予想される。

・▲4六同銀 △4六同飛
 やはりここは他の選択はなかったと思う。△6五角からここまではほぼ一直線。駒の損得はなし。駒の効率もそこまで差はないと思う。
 対する先手の手は、角道を遮断する手か角に働きかける手。▲5六歩のような遮断は先手になっていないので、飛を引けば△4六歩を見せてそれなり。なので角を催促する手が候補か。具体的には▲7七桂。角が動けば▲5四歩のような手が出てくる。先手のほうがやや楽しみか。
 ゆっくりした展開を目指すつもりが、なぜこうなった感が強い。非常に。

50手目△4六同飛まで。一瞬は駒の効率も損得差もないように思うが、一気にバランスが崩れかねない局面。

・▲5七銀打 △4一飛
 全く頭になかった手が来た。感覚的には、緩いと思った。▲3四飛は駒得できたから鋭い手なのであって、単純に3四地点にいることは負担になりそう。負担になりながら駒を取りにいって、角のラインで駒得を解消されて自陣に埋めると、残るのは負担だけになってしまう。この判断で合ってるかはわからないが。純粋に駒得している状況なら万全を期す好手だったと思う。
 ここで飛を切るのはさすがにやりすぎ。△7六飛は▲7七歩があり、でかしているとは言い難い。引くしかない。候補は△4一飛と△4二飛。
 仮にどちらに引いても、▲7七桂は来るだろう。△8七角成はまずそう。具体的には▲6五角の合わせがあり、△同馬は▲同桂で5三の銀に当たり、△7七馬は▲3二角成がある。飛の紐がついていてもこれは潰れそう。
 ということは▲7七桂には△4七角成しかないことになる。その場合△4四金が発生する。飛を一方的に取り切れれば有利に進められそう。4一まで引けば、▲7七桂 △4七角成 ▲同銀 △4四金 ▲同飛 △同銀 ▲4二歩 △同飛 ▲4三歩 △同飛 ▲5四金 △4一飛 のときに歩が一枚で先手を取る叩きは発生しない。などと考えていたが、△4四金 ▲同飛 に△同飛ならそんな変化ないことにあとで気づく。
 そのような杞憂とは別に、局面が落ち着いたあとを見ても、△4一飛のほうが優るだろうと判断した。下段飛車への信頼。

・▲4六歩 △4五歩
 これも予想していない手だった。上記の読みで後手やれると判断したなら、自陣に駒を使った以上がっちりと受ける方針であろうか。二度目の△4六歩を食らうわけにはいかないのも事実。
 ここで、安全に先手の飛を取り切れないかと欲が出た。単純に△2五銀では、▲3五飛 ①△3四歩 ▲5五飛が気になる。おそらくそれでもやれるだろうが、△2五銀が若干ぼやける。では▲5五飛を許さないように②△4四銀といくと、▲1七角が気になってくる。そのまま飛を取ると▲3五同角が王手であり、持ち駒が飛しかなく、△4四歩と受けるのは▲4五歩と伸ばしてどうかといったところ。合駒をせずに逃げるのは持ち駒の銀と▲7七桂のような手で案外狭そう。
 なら相手の駒で邪魔してもらえばいいか、と△4五歩。無視は当然△4六歩と進められるのでいいはず。▲同歩なら今度こそ△2五銀から△3四歩で飛を取りにいく。5三に銀が残っているぶん、上記の変化よりもしっかりしていると思う。

・▲4五同歩 △2五銀
 今回は予想どおりの進行に。▲3五飛なら△3四歩。飛銀交換なら十分だろう。▲2六歩と桂を取りに来る手は、先手玉の右があくので抵抗がありそう。具体的には△7九飛から桂をとって△2六桂など。
 なので、暴れてくるなら飛が四段目に残っている瞬間だと思う。なにか見落としがあると酷いが、大丈夫だろうと楽観していた。
 局面は、後手が指しやすいと思っていた。

・▲3五飛 △3四歩
 暴れる順ではなかった。想定どおりに進む。

・▲2五飛 △2五同桂
 一直線だと思う。持ち駒を使い切ったが飛を取りきって指しやすいはずと判断していた。が、やはり▲7七桂が不気味に残っている。

60手目△2五同桂まで。飛を取りきったが、先手も持ち駒が多い。後手いいはずだが難しい。

◯終盤

 敵陣に自分の駒が侵入(これは打った場合も含む)して以降を終盤とすることにする。これらの区別は、あらきっぺ氏の著書「終盤戦のストラテジー」(リンク先を迷ったけど、氏の引用リツイートにしておく)を参考にしている。
 この記事をわざわざ読む人ならすでに購入し、読み終わっていることと思うが、念のために、まだ買っていない、買ったけど読んでいないひとにはぜひ勧める。おそらくこの本の知識の有無で終盤の力が、金駒一枚から大駒一枚は違ってくると思う。

・▲2六歩 △7九飛
 先述の通り、△7九飛で桂を取り切り、△2六桂を目指す。が完全に誤算であった。かえて、先に△8七角成は有力だったか。▲7七桂の当たりを避けるどころか、跳ねることじたいを許さない。▲9八角で一旦は消せるが、△8七角で打ち返せば良い。▲7七桂 △9八角成 ▲6五角で合わせるのは、▲6五桂じたいは同じように見えるが、香が入っているぶん後手は手段が増えている。

・▲7七桂 △4七角成
 なぜ△7九飛が誤算であったか。この▲7七桂である。△同飛と取れない。▲9五角がある。この端角ではなく▲6六銀を予想していて、△4七角成で先手を取って迫れるので別の手を予想、というより、手が難しく先手困っているんではないかと思っていた。そこに直前で王手飛車に気づく。
 この桂を取れない以上、そのまま▲6五桂は許せず、かといってどこに逃げても▲6五角の追撃がまずい。3二の金が浮いているので△同角だが、▲同桂が調子づく。△5四角や△4三角なら紐つきになるので、▲6五角を一旦無視できそうだが、どちらも取ってしまって、①5四の場合は▲4四角で合駒が難しく、逃げれば銀からの追撃、②4三の場合△同金なら▲3二銀、△同飛なら▲5四歩などで、後手がけっこう忙しい。こういう後手陣を削る手は、先の▲5七銀打と受けた手を引き継いでいるように思う。玉の周りの金銀は先手のほうが多い、という主張だ。▲6五角に対して無視した次の一手が、上記の攻めを上回る攻めも受けも、見当たらない。
 つまり、もうこの桂に対して手番を渡しながらの角を逃げる手はない。局面が違えば喜んだ△4七角成だが、ここでは指させられた角成だった。

・▲4七同玉 △9九飛成
 取り返すには玉か銀。銀は金の紐が弱くなり、かつ△2七金のように無理やり迫る手もありそうで、候補は▲同玉であった。やはりそう進む。やはりメイちゃん。
 ここで候補は、わたしの中では3つあった。①本譜の△9九飛成、②△4五飛、③△3七桂成である。
 ①は、単純に香を取りたかったことと、▲9七角のラインを避けた意味が強い。後続に具体的な手があるわけではないが、一番無難な手に思えた。
 ②は、王手で歩を持ちつつ、飛の位置を変更する手。3二の金が浮いているのがマイナス気味で、△4二飛に変更したかったが、それでも▲6五桂がきつい。①で回避した▲9七角があるからだ。うまくいかないと判断する。
 ③は、▲同玉がわからなかった。△同銀は3九の金が浮くのでないものとして、▲同桂なら△3五歩と伸ばし、△3六金を予定していた。△4七歩まで実現すればはっきりしそう。△3七同玉が難しい。▲同桂よりも一手早く2筋に玉が逃げられるが、3九の金を質駒と見ればこちらも有力であったか。しかし、具体的に良くする順をみつけられず、選びきれなかった。
 桂を相手にそのまま取られればこちらは一手指せる。自分が桂成として取り替えさせたら、その一手を指せない。①を選ぶ。飛を取りきったのでいいと思っていたが、全然そんなことはなかった。将棋はそんな簡単じゃないですよ、というメイちゃんの声が聞こえた気がした。でも多分メイちゃんも「うーんうーんいやー」とか言ってそうでもある。深みを見せるメイちゃん、悩ましいメイちゃんにデレデレしている。

・▲6五桂 △5四金
 いよいよ先手の切り札がきた。後手の急所は7二の金と5三の銀。バランス型では一瞬の隙は小さいが、これらの駒を先手を取って狙われ続けると非常に厳しい。
 自陣の守りの駒に当たりがきたときは、①無視する②逃げる③補強する(④歩の叩き等の隣接する駒での場合取り返す)のどれかであると思うが、どれが正解かはそれぞれ違ってくる。
 端的には、相手に先に詰めろをかけられ、かつ自分の駒を取られたときに王手にならない場合なら①が正解に近い。この状況で逆に自分の玉から遠い駒を逃げる手は、手番を渡し、追撃が止められなくなることもある。逆に相手に自分の駒を取られたときにそれが王手になる場合、その手を無視できなくなるので、②や③(や④)が正解に近くなる。
 ではこの局面ではどうか。①はない。▲5三桂成に逃げる手はさすがに悪い。△同玉と取り返す手も自陣の金から遠ざかり裸になる。▲5四歩も気になってくる。これに逃げれば拠点から追撃、取れば3二の金とラインになるので▲7六角から厳しくなる。あの金がなくなれば入玉を警戒しないといけなくなる。
 ないと断言したが、実は△4二香は考えていた。△4五香まで行ければ勝ちに近づきそうではある。しかしやはり、▲5四歩が怖い。すぐに▲5三桂成と来るのと違って7三に利いているのが大きく、△4五香以下即詰みか必死級まで追い詰められなければ負けになりそう。これで勝ちきれる力は、今のわたしにはない。

図は、①の△4二香を選んだ場合。▲3六玉からのルートが広く、先手の攻めのほうが速い。桂の利いている地点に歩をさらに利かす手筋は強力。

 ②はどうか。やはりこれも避けたい。手番を渡すことになるのが一番大きい理由だ。②を一番選びやすいのは、その当たりを避けたら相手の攻めが一旦そこで落ち着くとき。そういう場合は駒損を避けられて後続がないので不満がなさそう。しかしこの局面では、△4二銀には▲4四角、△5四銀には▲5三角、△6四銀には▲5四銀。このように、避けても相手の追撃がある場合、②は、盤上(しかも自玉の近く)に相手の駒を増やすための手番を与えることになるので、できるだけ回避したい。
 わたしは③を選んだ。△5四金。桂を取れれば△3五桂が発生する。後手も桂はほしい駒だ。自陣の銀と桂の交換ならこちらも不満はない。③補強を選ぶときは、駒の損得や効率も考えないといけない。この手はさらに、拍子に△4五金と出る手も含んでいる。同じように補強する手でも下からだと、▲5四歩の叩きが発生する。これに銀が逃げても取っても、5三に駒を打ち込む変化が出てくる。攻めが続く。41手目▲5五歩の突き捨てが、毒のようにずっと効いている。
 上から打つことで、先手の持駒に飛び道具が角しかないことから、一旦手番を握れそうか、という判断もあった。

・▲5三桂成 △5三同玉
 もし5四地点を後手が埋めなければ、すぐに銀桂交換にいくのではなく、先述の通り▲5四歩が厳しい。駒がすでに利いているところにさらに追加で利きを増やす、特にこの桂と歩で増やす場合が有力だが、この手筋が強力であった。△5四金はそれを消し、かつ桂への当たりにもなっているので▲5三桂成は仕方のないところ。
 対して△同金はあまり考えない。△4五金の含みを残すためだ。▲7六角のラインも発生する。△同玉と取った局面が、先手の持駒の都合で追撃しにくい形になっている。
 この局面で後手に手番があった場合、△3五桂が必殺級になる。▲3六玉は即詰みがある。▲3八玉は△4七香が厳しい。▲5八玉には△5六香。
 この手番でなにを選ぶのか。

70手目△5三同玉まで。△3五桂が厳しいので、どうやって対処するか。

・▲2五歩 △3五桂
 メイちゃんは玉の可動範囲を広げる手を選んだ。さきの△3五桂に▲3六玉と逃げたときに2六地点を開ける意味合いで、かつ、桂を持ったことで▲6六桂や後手の5四の金がどけば▲6五桂が発生する。桂は先手もほしい駒なのだ。
 しかし、どうだったか。わたしは予定通りに△3五桂から迫る。先手に横に利く駒がないので、玉が9二まで逃げたときに有効な王手がないので一手スキ二手スキのような状況。
 変わる手は、▲4六銀打ちだろうか。△3五桂さえ許さなければ2七地点まで逃げ込んだときに案外捕まえにくい。▲7七角と絡めて▲5五銀と出る手も含み。また▲3六銀もあったか。余裕ができたあとに2五の桂を取りきって▲4六桂を見せている。▲6六桂は7四にも利いているのが強みで、こちらに打つのは後手からの△4六歩などの叩きを消す手厚さや、3四の歩を抜く順を見せた手。
 こう耐えられた場合、後手はどうするべきだったか。それでも△3五桂と敢行した場合、▲同銀 △同歩 ▲6六桂 △3七桂成 ▲同桂 △3六銀 ▲3八玉 △4七香 辺りを予想していた。▲5四桂の瞬間が王手でないのを利用して寄せ切る順を探す。もし見えていない先手からの攻める手があれば、銀で受けられてからの△3五桂は無理であったかもしれない。
 また▲3六銀の場合、△3五桂に逃げる手も有力で▲4七香では枚数が足りているので、先の変化と違って精算したあとに3九の金が浮かない。まだまだ攻めきるには時間がかかりそうである。

・▲3六玉 △4五金
 下に逃げる変化はやはり上述の通り。68手目△5四金の面目が立つ。
 応手は▲2六玉の一手で、そこで質の金を取り詰めろ。ここで先手がどう受けるか、迫るか。

・▲2六玉 △3九竜
 実際にその局面になって、おそらく先手に受けはないなと考えた。2七を受ける手がない。利きを増やす手は▲1八銀や角だろうが、△2七金以下即詰み。
 2七地点を受ける手がない以上、先手玉は部分必死なので、後手玉に迫る順を考える。▲6五桂には△5四玉で王手がない。角のライン王手も簡単に遮断できる。具体的には▲8六角に△6四香。香を手放すと先手玉の部分必死が消えるが、それでも一手いっての状況は変わらない。ここを△6四歩もおそらく大丈夫だろうが、▲同角以下対処を間違えれば即もあり得るので、万全を期して香合いでいいだろう。

・▲5四歩 △6四玉
 唯一懸念していたのが、▲5四銀であった。逃げれば金を抜く。上で部分必死と言ったのは、この上部の金を排除する順があるかもしれないと懸念してのことだった。△同玉に▲6六桂。それでも冷静に対処すれば逃げ切れそうか。斜めで王手できる位置に逃げてしまうと再度の▲5四銀や▲7四角(2九に紐)などがある。
 本譜は▲5四歩。おそらく上記変化をたどるときに銀一枚使わずに済ました計算だと思う。銀から飛び込むにはさすがに駒が足りないと判断したのだろうか。
 △6四玉は、かえて他の手でも問題なかったように思う。ただ、▲5三歩成からやり直しで別の順になるのを嫌がった。ここに上がれば駒を使わないと後続がない。これで安全に9二地点まで逃げ切れれば、最後に横駒がなくて後手勝ち、というのが読みである。

・▲5三角 △7三玉
 ▲5三角は紐つきなので当然取れないが、基本的にここからはすべての王手に対し、横駒がなければ王手が続かない位置を意識しながら逃げる。取り返した手に▲同◯成で続けられると怪しくなる。

80手目△7三玉まで。先手の王手ラッシュを耐えきれば勝ちである。

・▲6二銀 △8二玉
 先手に金がないので、入玉方向に逃げてもおそらく大丈夫だったとは思うが、角銀の連携による見えにくい詰み形をおそれ、9二地点が横Z(Zは絶対に詰まないという意味、◯Zは、◯という駒がない場合絶対に詰まないの意)なので、わざわざ危ないほうに逃げることもないだろうという判断。もともと数手前の段階でも9二まで逃げれば大丈夫と判断していたので、そちらに従った。
 相当な見落としがない限り、勝ちを確信していた。

・▲7四桂 △9二玉 ▲3五角成 △3五同金 ▲1七玉 △2六角 ▲投了
 王手が途切れ、先手は自陣に手を戻すが、△3五同金が王手となり、即詰みである。金から角でも角から金でも変わらない。この辺りはおそらくメイちゃんも即詰みはなく逆転はないと踏んだ上での、形つくり、きれいに詰ませてあげますよ、といったところだろう。

投了図。88手目△2六角まで。どちらに逃げても△2八金まで。

◯対局を終えて

 毎月第二週木曜日に、メイちゃんはリスナとの対局の枠を開いている(例えばこちらは6月二週目のもの)。その枠では81道場を利用している。過去、何度か挑戦したわけだが、内容がまずいものが多く、結果こそ勝ちだが、頓死によるものであるとか、内容ははっきり言って良くなかった。良くなかったというよりも負けであった。
 本局に関しても、やはり完勝というわけにはいかなかった。さすが常盤台メイかわいい、きつい手を選んでくる。局面を完全にリードされてしまうと、長い持ち時間でもあり、そういうリードを逆転させない辛さが彼女の武器であるかわいい。
 わたし自身の課題としては勝負所で見落としたことや、十分な読みを入れずに安易な選択をしたことなどだ(63手目▲7七桂を完全に見落としていたり、52手目△4一飛と下段への安心感で引いてしまったことなど)。
 読みの精度に関しては、おそらく今よりも深くなることはないだろうから、こういう、気付けても良かった範囲での見直しをしていきたい。

◯最後に

 以前noteの記事を書いたとき、とんでもないやらかしをしていた。まったく気づかず、公開直後に、我らが旗頭くりそらさんに指摘頂いたことで、早期に修正できた過去がある。そのため、今回の記事においても、校正作業をお願いした次第である。明らかな日本語のミスは、少なくなっていると思う。さすが団長、団員へのサポートも恙ない。
 将棋の内容についてもアドバイスを頂いたが、目的の項目で触れたとおり、あくまで対局中のわたしの考えを中心としているので、今回の記事には反映させていない。
 最後になったが、対局頂いた常盤台メイちゃん、ありがとうございました。ちゅっちゅっ。またそのうちお願いします。ちゅっちゅっちゅっ。
 並びに、団長、本稿への協力、ありがとうございました。ちゅっちゅっ。そのうち将棋の内容でね、あるいは団員として、返せればいいなぁと思っていますよ。ちゅっちゅっちゅっ。
 以上で終わりとする。18,000字以上となっている。ここまで読んだあなた、さては暇か? 暇ならわたしと将棋指さん? 

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