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1.掃除をサボったときの話

小学2年生くらいだったと思う。同級生にイトウさんという少し癇の強い感じの女の子がいて、とくに仲が良かったわけではなかったのだけど、同じクラスで、同じ班だった。教室の掃除当番にあたったある日、いつもなら教室にいるはずの担任の先生が何故かいない。当然ながら魔が差したぼくらは、誰が先導するでもなく、床のぞうきんがけをサボった。そして当然ながら小2が考えるアリバイ工作はびっくりするほどズサンで、ぞうきん濡らしておくレベルのことすらしなかったから、先生にすぐ見破られた。今にして思えば、これはたぶん作戦で、先生は毎年2年生全員にこれをやっていたんじゃないだろうか。だけど、小2がそんなこと気づけるわけもない。すごく怒られて、謝って、しゅんとなって、班のみんなで掃除をやり直したんだけど、イトウさんがおかしい。ぼくをニラんでいる。掃除後にイトウさんと親しい女の子に聞いたら、彼女はどういうわけかぼくが先生にチクったと思い込んでしまったらしい。違うよ、とすぐ言ったんだけど、信用してくれない。聞いてもらえない。それどころか、これ以降口を聞いてくれなくなった。すごく悔しくって、頭にきた。完全な誤解だよと言いたくて、イトウさんのほうをみると、いつだってニラみつけてくる。なんだよと憤る。これをしばらく繰り返すうちに、だんだんイトウさんのことが好きになってる自分に気づいてびっくりした。気持ちというか感情ってやつはどうやら途方もない方角から、知らないうちにやってくるものらしい、とうっすらながらも自覚したのは、たぶんこのときが最初だと思う。ちなみに彼女とはそのまま二度と会話することはありませんでした。誤解したまんまなのかなあと思うこともあるけど、間違いなくイトウさんは覚えてないでしょう。

(絵・ふじさいっさ)

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