2.甥っ子友だちのお母さん

出身地から離れて暮らしているので、甥っ子兄弟に会うのはお盆と正月くらい。半年ごとに顔を合わせるだけのおじさん(ぼく)は、たいていビール片手に顔を真赤にして酔っ払っているから、彼らはタイムラプスムービーみたいにちょう高速に育っていく感覚になっていて、トテチテ歩きはじめた長男が次の瞬間には中学二年になっていた。小学校低学年のときに将棋の入門書と一手詰めの本をあげたときは全然ピンと来てなかったのに、いつの間にか兄弟そろってプロが指導する教室に通うくらいハマったらしい。もちろんおじさんは速攻で勝てなくなった。「指そう」といわれるたびに、ビールを言い訳にしながら応じて負けるのがおじさんの季節の伝統行事になっている。いつかの正月もそんな感じでビール片手に将棋を指していたら、長男が仲良くしている友だちのお母さんが、ぼくの幼なじみだという話になった。Kちゃんはご近所に住んでいる少し年上の女の子で、もちろん覚えている。何しろ、小学生のぼくに、生まれてはじめてのバレンタインチョコをくれた女の子なのだ。しかも手作りで、大きなハート型だった。そう自慢したら、長男はちょう微妙な表情になって、ひどく戸惑ってしまった。ああ、そうか。中学の同級生のお母さんが、将棋の弱い酔いどれおじさんにバレンタインチョコつくってるなんて想像できないよなあ。でも、そういう時代があったのじゃよ、たしかにあったのだ。君にもいつかわかる。ぼくも気づかなかったのだ。手作りのハートチョコをもらうのが、それが最初で最後になるなんて。でもわかる日はきっと来るものなんだよ。

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