3.キャラメルコーンと蛇

路地に蛇の抜け殻が落ちていて、小学生男子が座り込んで見つめていた。「蛇が脱皮したんだよ」「毒はない?」「ないと思う」といったら、指先でつまんで持っていった。そして予想通り、彼の家からすぐ母親の大きな叫び声が聞こえてきた。ぼくは記憶力が悪いのか、10歳くらいまでのことをあんまり覚えていない。覚えているつもりの記憶も、両親や妹に確認すると「そんなことはなかった」と否定されることが多い。だからきっとこれも嘘の記憶なのだと思うのだけど、3、4歳くらいのとき、住んでいた家の裏で毒蛇が出たことを覚えている。たぶんマムシだった。近所のオトナたちが協力して捕獲することになり、ぼくはひとりで部屋にいた。壁ごしにざわついている様子がわかる。「これを隔てた向こうに毒蛇がいる」と思うとドキドキした。壁をにらみつけながらキャラメルコーンを食べていた。気分が高ぶって、普段は「食べ過ぎてはいけない」といわれていたピーナッツばかりを選んでボリボリほおばった。オトナのいないいまなら気づかれないと思ったからかもしれない。すると鼻血が流れてきた。戻ってきた母親に「ピーナッツばかり食べるから」と叱られた。でも、ぼくはこれは蛇のせいだと確信していたからものすごく悔しかった。これはかなりはっきりした記憶なのだけど、やっぱり思い違いなのだろうか。だとしたら、なぜこんなことを「覚えていよう」とぼくはしたんだろう。ともかく、蛇の抜け殻を見たあと、数年ぶりに鼻血を出したのはホントです。

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