4.夏休みの終り、ぼくらは集まる

小学校の同級生にちょう美少女がいた。たいていの男子はその子を気にしていたと思う。思うというのは、その子のきれいさがあまりにも「ちょう」だったからで、そうなってしまうと「かわいい」とか「好きだ」とかいう言葉はあまりにも陳腐で、相応しくない。だから、そういう言葉は、誰も彼女に対してはつかわなかった。男子は彼女についてほとんど何もいわない。評さない。ウワサもしない。いわないけれど、そこに特別な人がいるとみんなが知っていた。その子の誕生日は夏休みの終りのほうで、クラス名簿に載っていた。その日になると、男子たちは普段遊んでいるのとは違う神社になぜだか集まる。汗をかきかき、自転車を飛ばしてやってくる。「アチい」とか「二学期うぜえ」とかしかいわないけど、みんなわかっている。この神社は彼女の家のすぐ近くなのだ。おめでとうをいえるわけはないし、プレゼントをわたす勇気なんぞあるはずもない。呼び出すつもりはない。それどころか彼女の家の方角から人の気配がすると、ぼくらは一斉に反対側にそっぽを向く。彼女が出てきたら、そして見つかったら困るのだ。それなのに、小学校を卒業するまで、まるで何かの儀式のように、ぼくらは毎年そこでたむろし続けた。当時はバレてないと思っていたけど、いまならわかる、彼女はきっと気づいていたんだろう。もしかしたら迷惑がっていたかもしれない。でもぼくらは最後まで「誕生日おめでとう」とはいえなかった。いえなかったから、いまも覚えているんだと思う。

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