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アナログレタッチの修正

写真の加工

たとえば散歩に出かけて美しい夕日とか素敵な風景に出会ったとします。思わずカメラを向けてこの風景をそのまま切り取るように撮影したいと思っても、大抵の場合映し出された写真を見てもっと綺麗だったのにとがっかりします。もちろん僕の撮影技術がないことやカメラ(スマホ)の性能のせいなのでしょうけど。それとも記憶の中で美しさが増幅されているのかな。見たままを切り取れたらどんなにいいだろうといつも思ってしまいます。
前回ちょっと誤解を招くかもしれない表現「レタッチしなくて良ければそれに越したことはない」みたいに書きました。あくまで網点の滑らかさや階調のなめらかさとかの観点で書きました。撮影したものに満足できていない、それはプロのカメラマンでも同じように感じるのかも。ここをもう少しこうしたらもっと良くなると思ったことを赤字指示として記入されるのでしょう。撮影しても再現しづらい色とかもあるみたいで、昔着物の写真撮影で濃い紫の色の青みががうまく出ない(赤く写ってしまう)と聞いたことがあります。レタッチで振袖とか着物の色修正においてもポジを確認しながら柄を抽出するマスクを切ってそこだけ反転で網点を増やしたり、上から無地網を2重露光で足したりしたものです。着物は全体にすこし濃度を上げてやらなければ印刷した時にボリューム感が出なかった。

マスク焼き込み-1
マスク焼き込み-2
マスク焼き込み-3

アイドルや女優さんなどのシワを弱めたりしみを薄くしたり、肌を綺麗にするのはもちろん、切り抜きの仕方などでアゴのラインの修正とか、ウエストや腕や脚を細くなんてのも普通にやりました。写真の合成や加工などさすがにアナログ時代では難しいことはできませんでしたけれど。もっとも「トータルスキャナ」(のちのCEPS)といった高価な機械でかなり複雑なことはできました。写真分解を外注していた先が保有されていましたが加工で頼んだことなかったかな。ただ作業工賃が高くておいそれと頼めなかった。その会社なのかどうか、また聞きですが宝石の写真にフレアのような光を合成するのに30万円くらいかかると言われたとか。3番目に在籍した会社にはマグナのシステムスキャナがありましたが、オペレーターの未熟さもあり、アナログの方が綺麗で早かったり。そのうちDTPが始まってしまい勿体無い機械になってしまいました。デジタルになった今はなんでもできてしまい、アナログ時代ならこれ以上できないと言えたことが、デジタルになってまだできるでしょうと要求が際限ない気もします。デジタルだから割と簡単にやり直しがきくと思われているかもしれません。それでも最近は自然さを求められるようになり、デジタル加工でも昔ほど極端に加工することは減ったように思います。
いまなら簡単にできる写真のぼかし合成も結構大変でした。そもそもグラデーションを作ることが一仕事でした。まっすぐなグラデーションはマスターフィルムから分解できましたが、形状に指示がある場合はグラデーションの原稿をエアブラシ等で描いてもらってからスキャナーで分解します。当時は「ピースを吹く」と言ってました。(ハンドピースからでしょうか)

炎合成-1
炎合成-2

二つの写真とグラデーションのトリミングを確認しながら、網点の角度をきっちり合わせなければなりません。グラデーションの角度は、網点の版量が一番少ないスミ版を基準に合わせます。(同角目が目立たないので)上のような単純なグラデーションはまだましですが、斜めのグラデーションとかだと角度を合わせるのが大変でした。

ストリップ訂正

レタッチ修正では文字の訂正なども行います。基本的には版下で修正したものを使って、フィルムを反転し直すのですが、ちょっとした文字を修正するときなど、ストリップ修正ですませます。ストリップフィルムは厚いベース面にすごく薄い乳剤面のフィルムが重なった二重構造のフィルムで、薄いフィルムを剥がしてのりで貼り付ける方法です。

スト-1
フィルムセメント

修正する文字をカッターなどでガリガリ削ってしまうと、フィルムが傷ついてしまいストリップフィルムが密着しなくなります。水をつけると多少膜面がふやけるので、カッターの刃で軽くなでるように削ります。またはハイターでも乳剤面を溶かせます。ただし強力なのでフィルムの表面が少しえぐれたようになります。広い面積を消すだけならハイターを使います。一番綺麗なのは減力液の原液で乳剤面の文字の肉乗りを完全に落としてしまう方法です。ちょっと時間がかかるけれど表面も綺麗なままなので仕上がりも綺麗です。修正箇所を確認する方法として、フィルムセメントにコロジオンで色をつけたりしたりもしました。ストリップフィルムが剥がれたりしていないかのチェックもできます。このフィルムセメントは子供の頃自宅で見たことがありました。父親が趣味で撮影していた8ミリフィルムの修正に使っていたのかもしれません。ストリップ修正は基本的に網点のある場所には使用しません。薄いフィルムといってもやはり厚みがあり、その部分に網点があると焼きボケを起こしてしまうからです。でも僕が二番目に勤めていた会社の社長から教えていただいた方法では網点の上からでもストリップ修正ができました。修正する場所のフィルム面が綺麗な状態でないといけませんが、同じようにストリップ修正を行います。完全に乾ききってからストリップフィルムの表面をブチル(たぶん酢酸ブチル)でこすります。こすり続けるうちにフィルム自体の厚みがさらに薄くなり、指でなぞっても段差を感じなくなるまで薄くしてしまうのです。これなら刷版を焼いても焼きボケを起こしませんでした。この方法で無地網部分の網欠けの修正をよく頼まれました。網点の大きさを揃えて、欠けた形にストリップフィルムを切り抜いてだからかなり難易度が高かった。

切り貼り

切り貼り

ストリップフィルムでなく、フィルムの膜面側から直接別のフィルムを貼り付けたりもしました。フィルムを直接貼りこむ場合は周囲に十分な余白がある場合に限られます。ベースのフィルムをくり抜いてしまい、くり抜いた形に揃えて切った修正フィルムをテープで貼り付けることも総じて切り貼りと呼びました。フィルムのベース面からメンディングテープを貼って乱反射させる方法は今の会社で教えてもらいました。

二重焼きとか焼き抜き

これはレタッチ修正というより刷版の方のテクニックになりますが、修正のある部分を別のフィルムで作成しておいて、刷版上で2回焼き付けることで合成する方法です。ベースフィルムで修正する部分を隠しておいて、2回目の露光のときに最初の露光部分を隠して修正部分だけを焼き付けます。切り貼りとかの修正が難しい時に行います。最初のフィルムがベタで焼き込むフィルムが白抜きのとき焼き抜きといいました。

二重焼き

針入れ

丸針を使って網点を形成してピンホールをごまかします。膜面側から行います。針でフィルムに穴を掘る感じになるので、ダーマトで埋めたあとは上からヤレフィルムなどを乗せて、丸針の尻などでしっかり抑えて返りが出ないようにします。

針入れ

きちんとした綺麗な網点というわけにはいきませんが、まあ当時はなんとか通用していました。納得できる修正がなかなかできず難しかった。僕の先輩以前のレタッチマンは筆を使って広範囲に正確な網点を描き込んでたそうです。叶わなかったけれどその技術を見てみたかった。

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