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写真製版 アナログレタッチ(集版)

DTP全盛の時代にアナログレタッチの話をしたところで今の若い人たちにはなんの役にも立たないと思うのですが、今の自分にとってそのときの経験が大いに役に立っていると思っています。僕の時代よりさらに昔のレタッチマンは画家の大先生みたいな扱いをされていたとか。神業のような技術で網点を描画されたそうです。細い筆を使って規則正しく同じ大きさで網点を打つこともできたそうです。アナログレタッチを教わったときに「この技術を身につければ一生食っていける」と言われたものでした。後年DTPが始まり、十数年かけて培ってきた技術がMACを扱えればすぐにできてしまう時代がやってくるのですが‥

印刷物がCMYKの4色に分解された版でできていることを理解されていることを前提に話をすすめていきます。あまり細かく書くと余計わけわからなくなるので。
当時僕が使っていたレタッチの道具は、学会ルーペ(17.5倍)カッターナイフ(普通のOLFAの黄色いカッター)ハサミ(これも普通の裁ちばさみ。重い方が安定してまっすぐ切れる)テープカッター。写真のようにまっすぐカットできるようにカッターの刃が取り付けてあり、遮光テープと透明テープを1本ずつはめていた。遮光テープは6ミリ、12ミリ、24ミリ幅があり、6ミリと24ミリはディスペンサーを使わず、手に持って作業していました。置き型のルーペ(PEAK)、金属製の物差しが30cm、60cmを各個人に、100cmは部屋に2〜3本、レイアウトベース(方眼フィルム)、修正などで使用する筆。僕が使っていた筆は3種の太さがあり、タヌキの毛で作ってあると聞きました。太い黄軸、中間の太さで一番よく使う黒軸、一番細くて扱いが難しい赤軸。ピンホールや修正のためのオペーク。当時は「オペキュー」と呼んでいました。2種類のオペキューがあり、名前を失念したのですがさらっとしたオレンジ色のタイプ、粘度が強いグランバチェラーのSpeedOpaque。ちょうど良い感じになるので僕は二つを混ぜて使っていました。数年後タッチペンといった使い捨てタイプのペンができますが、使い勝手においてはオペキューの方が数段よかったです。タッチペンは揮発性の溶剤でダマになると乾きにくいのに比べ、オペキューは水性で濃度の調整も簡単でした。ちょっとはみ出した時は脱脂綿にちょっと唾をつけてぴっと拭き取ったり。(汚い?みんなしてましたよ)オペキューより広い範囲をざっとピンホールする揮発性のブラック。(後年ライトカットという名前のものを使用)ドット修正やけがき用の丸針、ダーマトグラフ(クレヨン)ストリップ修正に使うフィルムセメントとか、色つけのコロジオン、ドライヤーなどなど。写真はいま手元にあるものとネットでなんとか見つけたオペキューの画像。作業はライトテーブルを使って行います。当時使っていたのは木製のライトテーブルで、縦に深いものでした。

レタッチ道具

材料としての遮光ベース。当時は暗室で作業していたため、濃い赤色でレッドマスクと呼んでいました。のちに明室で作業できるようになるとオレンジ色のアンバー(これを使用)少し濃いめのグリーン、イエロー(これは明るいけど使いにくい)などが出てきました。色が違うのは暗室で使っていたフィルムが可視光(赤色は感じない)で露光するのに比べて、明室用のフィルムは紫外線に感応するためです。ネガやスクリーンチントを貼りこむ透明ベース。(ルミラーと呼んでいましたが、ルミラーは東レの商品名だそうです)

版下撮影

先に書いた製版カメラで版下撮影を行います。例えばこんな印刷物を作ろうと思います。

団員募集

版下は白黒で作られていて、重なる部分は透明ベースなどに貼り分けてあります。白い紙などを間に挟んで下の絵柄が出ないようにカメラで撮影します。

団員募集版下_上
団員募集版下_中
団員募集版下_下

上から順にこんな感じでしょうか。撮影したフィルムを自動現像機に通します。

フィルム自動現像機
団員募集版下_上ネガ
団員募集版下_中ネガ
団員募集版下_下ネガ

出てきたネガはこんな感じです。撮影したネガ3枚をトンボで見当合わせして両面テープなどで貼り合わせ、ぬりたしトンボの外側3センチくらいのところで周囲を綺麗にカットします。そしてパンチ穴を開けます。このピン穴で正確な見当合わせができるようになります。

レタッチ-ピンバー

当初はピンが2点の小さなピンバーだけを使っていました。のちにローラーでスキージするタイプのプリンターに変えてから3点ピンを使うようになりました。最初の会社ではKFP-20型の中と大だけを使っていました。理由は中ピンが正逆兼用できるためでした。ちなみに写真のバラピンのMは僕のイニシャルではありません。

マスク・ネガ作成

版下にはトレペーなどが上から重ねてあり、色アミの%指定や罫線があたりか生きかなどの指示が書き込まれています。または版下のコピーとかに指示されていました。

版下指定

こんな感じです。頭の中で何枚のマスクで製版するかを考えて、必要な遮光ベースとルミラーをネガのサイズに切りそろえて用意します。遮光ベースも透明ベースも基本は1メートルのロールからカットして使います。最初からシート状にカットされたものもありましたがコスト高になります。製版のマスクは仕上がりの階層の上から順番に作っていきます。DTPにおけるレイヤーの上からの感じです。基本文字の色分けが最初になります。

文字マスク

抜きあわせになる色文字と、ノセになるスミ文字を遮光マスクで作り分けます。
あたり罫の部分はどちらにも出ないようにします。白く見えている部分が感光する部分になります。露光する部分が重ねらないよう順番にマスクを切っていきます。
遮光マスクは二層構造になっていて上の赤い部分だけをめくりとると透明のベースになります。カッターを深く入れすぎるとベースに傷がつき露光したときに焼きボケやピンホールの原因になります。手元に端切れがあるので切ってみます。

画像13
画像14

綺麗に切れませんでしたがこんな感じです。同じ要領でマスクを作っていきます。
デュープとあるのは通常のフィルムがネガからポジ、ポジからネガに反転されるのに対し、ネガからネガに反転できるフィルムのことです。カラーポジなどを複製するときもデュープと呼びますがあれと同じです。

団員募集版下_上マスク
団員募集版下_中マスク
団員募集版下_下マスク
団員募集版下_バックマスク
団員募集版下_スミ単独

それぞれのマスクに対して露光する必要のある色の分(アイ、アカ、キ、スミ。アナログレタッチはこの呼び方の方がしっくりくる)の露光用のルミラーを用意します。カラー写真はスキャナーという機械でCMYKの4色に分解されます。

浴衣 [分解]

ピンバーで見当を合わせた状態で、それぞれのマスクにそれぞれ対応した色のネガを版下に指定してある網(スクリーンチント)を伏せていきます。スクリーンチントは5%〜10%刻みの濃度の無地網です。後年使い捨てタイプのものができましたが、僕がレタッチを始めた頃にはマスターのフィルムを反転したものを使っていました。網はきちんと角度を振り分ける必要があります。印刷のことをある程度理解されていることを期待して細かい説明は割愛します。僕は45度に振られた網角度が仕上がったときに綺麗なので、濃い色を45度基準に貼り込んでいました。人によっては角度を振ったフィルムを下に引いて同角になるように作業されていました。ネガやチントは露光するフィルムに密着するように、露光される部分にテープが入り込まないように、ネガが重なって浮き上がったりしないようになど、注意して作業します。1番のマスクのアカ版はこんな具合になります。全て完成すればプリンターで反転作業を行います。当時は暗室での作業でした。

団員募集版下_上マスク_M抱かせ


反転作業

ピンバーでネガ、色分けしたルミラー、フィルムの順に重ねてそれぞれの色版に露光を重ねていきます。抱かせるマスク、版名を間違わないように注意して行います。反転作業は単純なものなら1回で済みましたが、複雑なものになると30分以上も暗室にこもっていることもありました。

暗室プリンター
反転プリンター

上が当時つかっていたタイプです。露光の強さは電圧調整で変えていました。かなりファジーな仕様です。下部からの露光はガラスの端のほうでは少し拡散の仕方が違い、密着反転しても少し毛抜き合わせが甘くなる傾向がありました。それを逆手にとって少し被らせる手段にもできましたけれど。後に下のスキージしながら真空するタイプに切り替えました。暗室タイプと明室タイプの両方があり、露光の強さもカウント入力になりました。自動現像機からフィルムがでてきたら、ピンホール(ゴミ、カケ)がないかを確認し、指定通りに網掛けできているかをチェックします。レタッチ作業の集版に当たる作業がここまでです。
写真部分はカラーポジなど参照してカラーポジに近い色が再現できるかを確認します。修正が必要な場合は修正を行います。網点のコントロールに関してはまた。
ここまで古い昔話を長々と読んでいただきありがとうございました。



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