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写真製版のこと 焼き付け

1979年終わり〜1980年初め多少手先が器用で(と自分では思っていた)何かモノづくりに関われる仕事がしたかった僕は友人の紹介で京都の従業員10人にも満たない小さな製版会社にアルバイトとして就職しました。アナログレタッチ要員として入社したのですが、ライトテーブルが足りずとりあえず焼き付けに。現在ではCTPが当たり前だけど当時はPS版もなく、研磨したアルミ版に感光液を塗って刷版用の板を作ることから行なっていました。当時僕が行なっていた平凹版の刷版作成工程です。

コーチン

細かい砂目に研磨されたアルミ版を水洗シャワー付きの流しで、弾力のある丸いスポンジたわしでゴシゴシ洗い細かい粉やゴミを洗い流します。スキージで軽く水をきりホイラーにセッティング。当時は「ホイラー」と呼んでいましたが今調べてみると「ホエラー」というのが正式名称のようです。中央の板にアルミ版をセットしてスイッチを入れると板が回転します。回転させた版の中央上部から、ビーカーにいれた感光液を静かに垂らし落とします。遠心力で感光液が版の表面に薄く均一に広がっていきます。版の端まで感光液が届けば垂らすのを止めホイラーの蓋をしめて乾かします。大体10〜15分くらい(冬季と夏季で時間が違った)だったと思う。時間が来るとブザー(やたら音が大きかった)が鳴り知らせます。版を取り出して裏に回った余分な感光液をウエスで綺麗に拭き取ります。

ホエラー

焼き付け

コーチンで作った版にフィルムを焼き付けます。
平型の焼き枠では1丁焼きやコンポーザーに入らないサイズの多丁焼きを。平形の焼き枠では、トンボの見当合わせする線を罫書きできるようにアルミ版に送りピッチに合わせて三角の穴を開けて手焼きするためのシートを別途作成します。露光しない部分は赤紙(遮光用の片面が赤く、反対面が黄色い厚めの紙)で保護して焼き付けます。

焼き枠
刷版手焼き

古い縦型のコンポーザーも使用していました。壁の中央に吸着用にバキューム用の穴が空いていて、版をそこにそっと吸着させ周囲をテープで止めて固定します。吸着させる位置も針とかピンがあるわけでなく、マジックで目印がしてあるだけでした。フィルムをセットする部分はガラスになっていて、センター位置がわかる目盛ゲージをセットできるようになっていました。センタートンボを見当合わせするための罫線の入ったマスクシートのセンターをこれで合わせます。自動で殖版できず、ダイヤルのついたハンドルを回して(1回転で1cm)1ミリ手前くらいで止めて、ハンドルを軽くコンコンと叩く感じで微調整しながら慎重に目盛を合わせます。タグとかで48丁とかの多丁焼きで、スミ版差し替えとかがあると、1丁焼いてはフィルム貼り替えで、1版焼くのに恐ろしく時間がかかったものでした。光源はアーク灯方式で、上下の炭素棒の間に放電させて光を発してました。

手回しコンポーザー

水洗して染付

焼き付けた刷版は感光した部分が硬化しています。露光されていない部分を流しでそっと水洗いします。(ヒメロンとかいうパッドを使っていました)そのままでは感光した部分はうすいグレーで、未露光部の境界がはっきりしません。刷毛を使って青い染料(アオバナのような濃い藍色)に染めて絵柄を浮き立たせます。
染料の名前はよくわかりません。(とういうか当時から染料としか呼んでなかった)水洗いしながら焼きボケやピンホールなどがないかを確認します。絵柄のない部分のピンホールは次工程のゴム止めでマスクしてインキが乗らないようにします。焼きボケを見つけたら、小さな刷毛でその部分をつつくように擦りその部分の濃度を周囲と近づけます。焼きボケの原因がゴミの場合中心には露光されれいないため穴が白くあいています。この場合は最終の仕上げの前に補正します。

水洗テーブル-刷版

ゴム止め

染料で染めたあと熱風乾燥機に入れて版を乾かします。後でインキングする際にインキが乗らないように、汚したくない場所をゴムで保護します。フィルムの端や止めていたテープの跡、露光部分のピンホールなどを止めておきます。ゴムを止め終わったらまた乾燥機の中で乾燥させます。

熱風乾燥機

インキング

乾燥した版は感光部分に薄くラッカー(ピンク色、エゲンラッカーというらしい)をウエスで塗り込みます。接着剤の役目になると教わりました。軽く扇風機で乾かして今度はチンクター(黒色、印刷インキがのる部分)をしっかりすりこみます。扇風機で少し乾かします。

剥膜〜仕上げ

インキングした版を剥膜機という機械に通します。刷版自現の様な機械で往復して動きます。入って行くときに茶色の溶剤(過マンガン酸カリウム)に浸して版面を覆います。全体が赤茶色に染まります。戻りは蓚酸に浸しながら戻ってきます。インキングされた画線部以外の不要な染料やゴムが落ちてアルミ版の地が出ます。要らない部分にインキングされていないか確認し、ピンホールなどを浮石棒でこすり落とします。染付した時見つけた焼きボケの中央にできた穴は黒くなっているので、丸針をつかって網点形状につついて補正します。修正、確認が終わったら版の表面全体にアラビアガムを薄く均一に伸ばして引いて乾燥機で乾燥させます。乾燥後、版の淵や裏側にまわったガムなどをウエスで綺麗に拭き取り刷版の完成です。40年程まえの製版工程で、現在と比べれば恐ろしく時間がかかり精度の悪い作業だったと思います。

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