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【掌編400文字の宇宙】ブルー・ノート

 十九歳から二十代、三十代の前半はよくブルー・ノートを聴いていた。最初は先輩の影響で。その後は好んできいた。その頃はあまり歌をきいていた覚えがない。

 今でもジャズは音の嗜好の根幹にある。

 図書館や本屋に行くと、時々、居並ぶ本棚に悲鳴が満ちているような気がする。生まれる、老ゆ、病む、死ぬ。泣声、ため息、妬み嫉み。愛別、発狂、殺人。苦痛。不幸。不運。

 おそらく人はだから書くのだと思う。読む理由も同じかもしれない。

 幸福な子どもたちは作文が大きらい。たのしい話かこわい話はすきだが、そのほかは読まない。おおむね満足している子らは。

 その頃はまだ何もわからなかったので、読むことはできたが、書くことが出来なかった。歌詞が邪魔なので、楽器の音だけを聴いていることがおおかった。

 音の合間に、未だ誰もかいていない言葉があるような気がしていた。そんなものは一文字もないのだが。

 過去に戻りたいとは全く思わない。

#掌編400文字の宇宙
#ブルー・ノート
#四苦八苦
#過去

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