【掌編400文字の宇宙】正月料理の起源
五百年程前の大晦日のまえの日ににわたしが野良仕事から帰ってくると、うちの前に女が立っていた。どこかで見たことがあるおんなだとおもった。
女は右手を差し出した。そこには月桃の葉につつまれた魚のすり身があった。私は受け取って、「おーい」と家の中にいる妻(セチ)をよび、すり身を渡した。
次に女は牛蒡をくれた。「おーい」といってセチに渡した。振り返るとおんなは豆腐をくれた。セチに渡した。
豚肉をくれた。これは月桃の葉に包まれている。
女は何やら黒い皮のようなものを固結びにしてよこした。聞くと「昆布です」と言った。
ぶよぶよの固まりをくれた。「蒟蒻です」。初めて見たし、聞いた。
干した魚を何匹かもらったのでセチにわたした。振り返ると女は消えていた。
女が立っていた場所に小石があったのでこれを拾い、持って家の中に入った。
この石はいわゆる公的な教へというものとはちがう、民間の伝承や秘密の神となった。