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【掌編400文字の宇宙】選手村であったこと(ここだけの話)

 おれの名はJJ。日系仏蘭西人一世だ。というか今月に来たばかりで、日系というか日本人だと思う。OMGという会社に勤めていて、選手村に避妊具を搬入するのが仕事だ。

 その日の納入が終わって、廊下をあるいているといきなり部屋のドアがあいて、男が出てきた。全裸で。「おい、ゴムないんだけど」と男は英語で言った。息が荒い。この選手知ってる、と思った。背後から女、競技服が乱れて「ねえ、時間ないんだけど」と言っている。男に。この選手知ってる、と思う。というかお疲れ様、と思った。

 えっと、ホスピスセンターにあります。とおれは言った。

「どこだかわからない。もってないのか?」と男。

 おれは名刺入れを取り出し、名刺を出した。OMG社の名刺は二重構造になっていて、破ると中に避妊具がある。どうぞ、と渡した。二人はすぐに部屋にもどってはじめた。ドアも閉めない。

 さすがに、元気なんだな。おれはドアを閉めて、廊下を歩いた。

#掌編400文字の宇宙
#415

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