見出し画像

【献上慰霊詩1693文字】慰霊

戦没者へ
謹んで申し上げます

あなたがたは、一度死にました
その大半は畳の上でなく
石とか砂利とか、水溜り、
土の上や草むら、山の中、
洞窟で死にました

覚えてますか
わたしははっきり覚えています
残念ですが

きょうは6月23日です
だから急に、はっきりと思いかえしました
申し訳ありませんが

わたしたちが思いかえすたびに
あなたたちは毎年また死にます
死んだ時の苦痛をふたたび繰り返して
一年に一回は必ず
またほかに思いかえす人があればその度に
その度に苦しんで、死んだ時を繰り返して
また死にます

生きのびたものたちも、また死にました
生き(のびた)たものたちは生きた心地がしないまま
生きて
それでもバトン・タッチをしてすぐに死にました
というかそもそも、こころは死んでいました
このものたちもまたきょう、ふたたび死にます
その生きた心地がしなかったことを、また
繰り返していきを吹き返し、また死にます

残念ですが、それが、
どうにもしようがなくて、ほんとうに、
それが運命なのか天命なのか、
わかりませんがそれが、あなたたちの、
役割みたいのようです

何の罪もないのに
何も悪くないのに
思いかえす人がいる限り、あなたたちは何度も
何度も死に、犯され、殺されます

まったくもう、地獄みたいです
いや地獄、そのものです
どうすればいいのか
わかりません

しかし思いかえすのです
忘れられないのです
世代を越えたトラウマのようにして
わたしたちはわたしたちなりにくるしんでいます

それが、せんそうのうんだ、けっかすべてです
せんそうには、ざんねんながら、なんのいみもありません

意味もなくあなたたちは死んだし
なんの意味もなく、わたしたちはいまだにくるしんでいます
まだ犬でいるほうが、ましでした
犬として死んで、だれからもわすれられて
そのまま消えてしまいたかった
あなたも、わたしも
しかし残念ながら、わたしたちは人間でしたし、
いまも人間のままです

人間なので、覚えています
すべてではありませんが
あなたたちが何度も、何度も繰り返し死ぬ理由は
ふたつあります

ひとつは、後ろめたいのです
なんの理由もなく死んだあなたたちの死に向き合うとき
わたしたちは、やはり理由をもとめます

そのうちの、ひとつの行動形態は、慰霊となります
いま、わたしがやっているこの行為のようなものです
申し訳ないきもちでいっぱいです

もうひとつは、侮蔑というかたちをとります
どうしていいかわからないし、
後ろめたい気持ちはけして消えない
なので、あなたたちの死を、
できるだけ無意味なものにしようとする
できうるならば無かったことにする
これもまた、人情です
ややこしいですが

次にふたつめに言及する、
します
ちょっとややこしい言い方になりますが
構造上仕方がありません

ふたつめの理由は、たたかう準備をすることです
ふたたび

これもまた、ふたつあります

ひとつは、せめいるということです
わたしたちは近所にすむ人たちを、ゆるせません
こわいし、わからないし、にくいのです、だから
がまんができなくて、ころされるまえに、ころそう
というわけです

つぎ、ふたつめ
わたしたちは、ぼうえいします
人間はすくいようがないほどばかなので
つける薬もないし、死なないとなおらないので
なにをしてくるのか、なにをされるのか、
わかりません

だからぼうえいするのです

せんそうにたいしては、
せめるか、ぼうえいするか
たいしょするのはこのふたつの
どちらかだけです

たたかう準備はけして、たしかに、
おろそかにしてはいけないのです
めんどくさいですが

いま、このわたしたちの小さなしまは、
つかのまの平和みたいな感じです
平和ではありません、ざんねんながら
だけどへいわみたいなかんじなのでこうやって
きょうは、あなたたちのことを思い出すことができました

会えて、うれしいです
思い出すことができて、うれしいです
かなしいことですがたしかに
それでも、またこうやって会えたことが、うれしいです

あなたたちは、またきょう、死にます
なので、ごめいふくを、ふかく、おいのりします

かってなおねがいですが
ばかなわたしたちを、みまもってください
どうか、どうかまた来年もいきを吹き返して、
また、ばかなわたしに会いにきてください

それでは、また



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?