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【行間を読む】キッテル「固体物理学入門 第8版 上」p. 44 (構造因子の積分範囲)

キーワード

  • 構造因子

  • 原子構造因子

  • 積分範囲

該当箇所

脚注

(39)から(42)にかけての議論は若干不正確である。(18)の$${n(\bm{r})}$$を格子並進ベクトル$${\bm{R}_n}$$にある単位構造による電子密度$${n_0(\bm{r}-\bm{R}_n)}$$の和に分解できるとすると、(39)の代わりに

$$
F_{\bm{G}}=N\int dV\:n_0(\bm{r})\exp(-i\bm{G}\cdot\bm{r})=NS_{\bm{G}}\qquad(39')
$$

を導くことができる。ここで積分は全空間に渡り、$${n_0(\bm{r})}$$は原点に位置した単位構造による電子密度(40)と同じもの

$$
n_0(\bm{r})=\displaystyle\sum_{j=1}^sn_j(\bm{r}-\bm{r}_j)\qquad(40')
$$

である。(40')を(39')に代入して(41)が導かれる。この時の積分は全空間にわたっている。

疑問点

  • 結局本文の解説の何が問題だったのか

  • 脚注の方法を行うとどのような式変形になるのか

解説

以下では

  1. 本文の方法の解説とその問題点

  2. 脚注の方法の解説

の順に見ていくことにする。なお、積分範囲の$${V}$$は全空間(実際には試料物体全体)を表す。

本文の方法の解説とその問題点

まず(18)に$${∆\bm{k}=\bm{G}}$$を代入し、$${N}$$個の単位構造が並進対称であることを使って

$$
F_{\bm{G}}=\int_V d^3r\:n(\bm{r})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}=N\int_{cell}d^3r\:n(\bm{r})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}
$$

と表すことができる。

図1 原子による電子密度n_j

単位構造内部の$${j\in\{1,2,\cdots,s\}}$$番目の原子によって、原子中心から位置$${\bm{x}}$$の位置に生じる電子密度を$${n_j(\bm{x})}$$とする。描像は図1の通りである。図2に示すように原子中心が位置$${\bm{r}_j}$$にあるとすれば、この原子が位置$${\bm{r}}$$に生じる電子密度は$${n_j(\bm{r}-\bm{r}_j)}$$である。ゆえに、

$$
n(\bm{r})=\displaystyle\sum_{j=1}^sn_j(\bm{r}-\bm{r}_j)\qquad(40)
$$

となる。

図2 格子内j番目の原子からの電子分布寄与

一見この表式(40)は単位構造外部の原子が与える影響を考慮していないように見えるが、その問題はないことを補足しておく。

位置ベクトル$${\bm{r}}$$が入っている単位構造を$${C}$$とラベリングしておこう。ここで憂慮される問題を式によって表現すると次のようになる。

$${C}$$内部の原子$${j}$$が位置$${\bm{r}}$$に生じる電子密度を$${n_j^C(\bm{r}-\bm{r}_j^C)}$$と表せば、隣の単位構造$${C+1}$$内部の原子$${j}$$が位置$${\bm{r}}$$に生じる電子密度は$${n_j^{C+1}(\bm{r}-\bm{r}_j^{C+1})}$$などと表せるはずである。仮に$${C,C+1}$$の2つ以外の単位構造からは影響がないとしても、本来$${\bm{r}}$$に生じる合計電子密度は$${n(\bm{r})=\displaystyle\sum_{j=1}^s\left[n_j^C(\bm{r}-\bm{r}_j^C)+n_j^{C+1}(\bm{r}-\bm{r}_j^{C+1})\right]}$$と表すべきであって、(40)では値が小さく見積もられていると思われるかもしれない。

しかしこの問題は$${n_j}$$の解釈によって解決可能である。まず$${\bm{r}}$$の電子密度を$${s}$$種類の原子に分配する。ここで重要となるのが、あくまで分配するのは$${s}$$種類の原子であって、各原子がどの単位構造に位置しているかを問わない。$${j}$$でラベリングされる原子であれば、$${C}$$の原子$${j}$$からの寄与も$${C+1}$$の原子$${j}$$からの寄与も全て合算して$${n_j}$$を与える。

上の表現を使えば$${n_j(\bm{r}-\bm{r}_j)=n_j^C(\bm{r}-\bm{r}_j^C)+n_j^{C+1}(\bm{r}-\bm{r}_j^{C+1})+\cdots}$$ということになる。この解釈によって、単位構造外部の原子の影響を排除しているという懸念は払拭できる。

とはいえ本文の表現からそれを期待しているものとは思われないし、これが解決されてもなお本文の方法に問題があることに変わりはない。

(40)を使うと構造因子は

$$
\begin{array}{rcl}S_{\bm{G}}&=&\displaystyle\int_{cell}d^3r\:n(\bm{r})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}\\&=&\displaystyle\int_{cell}d^3r\:\sum_{j=1}^sn_j(\bm{r}-\bm{r}_j)e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}\\&=&\displaystyle\sum_{j=1}^se^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}_j}\int_{cell+\bm{r}_j}d^3\rho\:n_j(\bm{\rho})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{\rho}}\end{array}
$$

である。積分範囲は単位格子内部であることに注意

ここで原子構造因子を全空間積分

$$
f_j=\int_{V}d^3\rho\:n_j(\bm{\rho})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{\rho}}\qquad(42)
$$

によって定義すると、

$$
S_{\bm{G}}=\sum_{j=1}^s f_je^{-i\bm{r}_j\cdot\bm{G}}\qquad(43)
$$

を得る。

ここまでの問題点として(42)と(43)で積分範囲が異なることが挙げられる。

脚注の方法の解説

位置$${\bm{r}}$$における電子密度を算出するときに、単位構造が生じる電子密度$${n_0}$$を導入する。単位構造の一角(図3では単位構造を表す黒塗りの正方形左下の点)に原点を定め、位置ベクトル$${\bm{x}}$$の位置に当該単位構造が生じる電子密度を$${n_0(\bm{x})}$$と表す。

図3 単位構造から生じる電子密度

単位構造は格子点上にあるので、その位置は格子並進ベクトル$${\bm{R}_n}$$で表せる。$${\bm{R}_n}$$に位置する単位構造が$${\bm{r}}$$に生じる電子密度は$${n_0(\bm{r}-\bm{R}_n)}$$で表され、これを全空間にある全ての単純構造で足し上げることで、

$$
n(\bm{r})=\sum_nn_0(\bm{r}-\bm{R}_n)\qquad(40')
$$

となる。(18)に代入して

$$
\begin{array}{rcl}F_{\bm{G}}&=&\displaystyle\int_Vd^3r\sum_nn_0(\bm{r}-\bm{R}_n)e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}\\&=&\displaystyle\sum_n\int_Vd^3r'_n\:n_0(\bm{r}'_n)e^{-i\bm{G}\cdot(\bm{r}'_n+\bm{R}_n)}&(\bm{r}'_n\equiv\bm{r}-\bm{R}_n)\\&=&\displaystyle\sum_n\int_Vd^3r'_n\:n_0(\bm{r}'_n)e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}'_n}\\&=&\displaystyle N\int_Vd^3r\:n_0(\bm{r})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}.\end{array}
$$

ただし、最後の変形で$${\bm{r}'_n}$$が$${n}$$によらないダミー変数であることを使った。右辺の積分以降を構造因子$${S_{\bm{G}}}$$と定義する。

今度は単位構造内部の原子が位置$${\bm{r}}$$に生じる電子密度を考えよう。本文の方法と全く同じように、単位構造内部の$${j\in\{1,2,\cdots,s\}}$$番目の原子によって、原子中心から位置$${\bm{x}}$$の位置に生じる電子密度を$${n_j(\bm{x})}$$と定義する。$${j}$$を$${1}$$から$${s}$$まで足し上げることは1つの単位構造内部に存在する原子全てから生じる電子密度を考慮することに他ならず、すなわち

$$
n_0(\bm{r})=\sum_{j=1}^sn_j(\bm{r}-\bm{r}_j)\qquad(40')
$$

である。

(40')を$${S_{\bm{G}}}$$に代入することで

$$
\begin{array}{rcl}S_{\bm{G}}&=&\displaystyle\sum_{j=1}^s\int_Vd^3r\:n_j(\bm{r}-\bm{r}_j)e^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}}\\&=&\displaystyle\sum_{j=1}^se^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}_j}\int_Vd^3r\:n_j(\bm{r}-\bm{r}_j)e^{-i\bm{G}\cdot(\bm{r}-\bm{r}_j)}\\&=&\displaystyle\sum_{j=1}^se^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}_j}\int_Vd^3\rho\:n_j(\bm{\rho})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{\rho}}&(\bm{\rho}\equiv\bm{r}-\bm{r}_j)\end{array}
$$

となるので、原子構造因子として

$$
f_j\equiv\int_Vd^3\rho\:n_j(\bm{\rho})e^{-i\bm{G}\cdot\bm{\rho}}\qquad(42)
$$

を定義すれば

$$
S_{\bm{G}}=\sum_{j=1}^sf_je^{-i\bm{G}\cdot\bm{r}_j}
$$

と表せる。

以上のように、電子密度$${n(\bm{r})}$$の定義域を絶えず全空間に取り続けることで、積分範囲を全空間に維持することができる。

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