100%まごころ

年の瀬といえば大掃除。
人はなぜ、年末に掃除をするのか。
なぜ少ない休みで掃除をしないといけないのか。
もっとこう時間は有意義に使われるべきであ
「いいから手を動かして」

床の掃き掃除や拭き掃除は、この前買ったロボット掃除機くん(まだ開けてない)に任せようという腹積もり。
まずは要らないものを片していくところから。収納それぞれを暴いて、押し込んでいた不用品を掘り出す。あまり無いと思っていたら意外とあったりする。

いつ買ったか覚えない漫画まとめ買いセットは、段ボール数箱分にもなっていた。まとめて売ってしまおう。
と、別の棚をまさぐっていたおねーちゃんが見つけたのは卒アル。僕の。
……またか。

おねーちゃんがどうしてもと言うので、引っ越すときに持ってきた卒アル。
どうも定期的に眺めては「この頃のてーくんもかわいー」とか言ってにやにやしてるらしい。
まあ、おねーちゃんの高校の卒アルは実家で穴が空くほど見て「おねーちゃんかわいい…」とか言ってたのでおあいこなんだけど。
ほらほら手が止まってますよー。

いくつか段ボールを開けて中身を確認して戻す。
もう謎の段ボールが棚にないことを確かめて、残りの1個の確認はおねーちゃんに任せる。
「どうせ似たような並びだろうから、おねーちゃんが要らんやつなら一緒に置いとってー」
次は服を適当に間引くか… とクローゼットを開けた瞬間。

「てーくんー、これ私は要らないけどてーくんには要るんじゃないー?」

呼ばれて戻ると、妙にニヤニヤしたおねーちゃんが件の箱を開けている。
昔読んでた漫画でもあったかな…?と中をチラ見した1秒後、箱の確認をおねーちゃんに任せてしまったことを後悔した。

『姉と仲良くなる100の方法』『もしも姉と二人暮らしすることになったら』『弟の道 姉編』『あねリンガル ~表情から紐解くお姉ちゃんの言葉~』『お姉ちゃんをデートに誘うなら』『姉好みの弟でありたい』『お姉ちゃんに彼氏ができたかも?と思ったときに読む本』『姉弟』

そういえばいろいろ買ってたなあ… と思い出した。
見られずに処分しておきたかった。

「もうこれ持っとかなくていい? 大丈夫?? にしてもほんっといっぱい…」見ちゃった―、とにやにやしていた顔がやがて少し陰る。
「あーでも、今までのてーくんはこういうの読んで、てーくんになったんだって思うと、なんかちょっと複雑だなー…」

いや、あのね、実はそれ
「買うだけ買って、全然読んでないのよ。」

適当に手にとった一冊は、シュリンクが巻かれたまま。
その隣にある本には補充注文カードが挟まっている。
買うだけ買って、読む必要も無いまま箱に戻して棚に突っ込んでたんだった。

「先に何年か一人暮らししてるおねーちゃんと一緒に住むってなってさ、実家に居た頃となんか変わってるかなって心配になっちゃって。」
「機嫌損ねたらやだなってのもあったし、なんかうまくいかないことがあったらどうしようって先に何冊か買ってみたんだ。」
「結局読まずに済んだんだけどね。忘れてたくらいだし。だから要らないよ。最初から。」

去年哺乳瓶バレしたときほど気まずくはならなかったけど、弁解が弁解っぽいのは自覚してる。逆におねーちゃんが『弟と仲良くする10の方法』とか読んでたらちょっと複雑な気持ちになるのでよく分かる。

「今おねーちゃんと一緒にいるのは、本で後付けした思惑なんて無い、100%まごころの弟だよ。安心して。」
だからそんな悲しい顔しないで。おねーちゃんの手を握って、笑いかけてみる。

「そっか!よし!安心した!やっぱりてーくんはてーくんが一番かわいくて好きだよ!さくっとまるっと売っぱらっちゃお!」
ぎゅーーーー、と抱きしめられたので抱きしめ返す。多分もう大丈夫。

・・・

カフェでケーキセット頼めるくらいの額で捌けたので、スペース空いてお腹は満たされてでいいことばっかり。

帰ったらもう一頑張りしようか。

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