これでもちゃんと、見計らってるんだよ。

「…ん。思った通りの味が出た。」

などと言ってはみたけど、トマト缶とコンソメと塩胡椒で思ってもない味が出ることもそうそうあるまい。
鶏肉と野菜をトマト煮するだけ。〆のリゾット用ご飯も準備オッケー。
クリームチーズとクラッカーを少し添えておこうかな。

もうすぐ準備も終わるくらいのタイミングで、玄関ドアが開いた音。
「ただーいまー!」
最近残業続きで疲れてるだろうに、その一言はいつも元気に言ってくれる。
「おかえりー!」
ので、元気におかえりを返す。帰宅即ぎゅーとしたいところだけど、バッグを置いてコートを脱いでまずは手洗いうがいのおねーちゃん。
子供の頃からちゃんとしているから、自然と見習っていた。

「すぐご飯でいい?」
「おねがいー!」
洗面所から返答もきたし、あとはよそって並べるだけ。
お皿どれにしよーかなーと食器を眺めていたら

「えいっ」

「くび~~~~~~~~~~~~~~~~~」

ひんやりをちょっと超えた冷たい感触に首が襲われた。
洗いたての両手で包まれて、びっくりしすぎて部位を叫んでしまった。

「『くびーー』って、そんな驚き方ある?」
笑うくらいならそろそろ離してほしいなー、まだちょっと冷たいよ。
「てーくんの首であっためてー」
「つーめーたーいー」
「あーったかーいー」
子供の頃からこんなふうにされてたなあと、つまりそういう季節かと、冬の風物詩みたいに感じているうちに冷たさに慣れてきた。

「別にいいけど、ついでるときとか切ってるときとかは危ないからせんでよー?」
「今更そんなヘマしないよー。」
お預けをくらっていたと言わんばかりに強めに抱きついてくるおねーちゃん。

「これでもちゃんと、見計らってるんだよ。」
それはドヤ顔で言うことなのか…?

・・・

「帰ってきたらあったかい首があって、あったかいご飯があるって幸せだなー。」
「言い方!!」

夕飯を終えてコーヒーの準備。
「洗い物しとくね~」と食洗機にテンポよく放り込んでいくおねーちゃんにはもう慣れたよ。えらいえらいうれしいうれしい。



隣同士に座って、テレビを見ながら食後のコーヒーで落ち着く時間が、日々のちょっとした幸せ。
おねーちゃんが少し眠くなって肩に寄りかかってきたら、お風呂の準備をする頃合い。…いやちょっと遅かったかも。
「おねーちゃん?お風呂入ってから寝るよー?」
「あと5分…」
「温まってから一緒に寝ないと置いてくよー」
「いじわる…」

職場だとだいぶテキパキバリバリらしい、と一度会った同僚さんから聞いたけど家でのこれを見るとあんまり想像できない、いやメリハリがしっかりしてるってことなんだろうけど。
…お湯が溜まるまであと5分。


「おねーちゃん、お風呂沸いたよ。」
「にゃん…」
「にゃんじゃないんだよ」
起こすとちゃんと起きるので先にお風呂に入れてしまう。
その間に細かい片付けとか明日の準備とかしてしまおう。
おねーちゃんが上がる頃には食洗機も止んでるでしょ。

・・・

「てーくん、上がったよー。」
シャンプーの香りと、頬を挟まれる両手の温かさで目が覚めた。
いつの間にかうとうとしてたみたい。
おねーちゃんと違って寝起きは悪いんだけど、なぜかすっきり起き上がれた。まだ眠りが浅かったからかな。

「これでもちゃんと、見計らってるんだよ。起こすタイミング。」

おねーちゃんには敵わないなあ。お風呂入ってくるね。

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