ぷるるるん うるるるん, look at me

出かける準備と朝ごはんの片付けを適当に交互にやってたら、先にメイクしてるおねーちゃんに呼ばれた。曰く、

「リップあまった~~~~」。

片手には出しきったらしいリップバームのチューブ、いつもより妙につやつやしたくちびる。
これはあれだ、使い切ろうとして思いきって全部出したら思ったより残ってたやつだ…
初めて買ったものでもないのに、どうしてそう見誤ってしまうの…

「あのね、ちがくて、ちょっと多くなりそうだけどなんかこれ余らせても1回分くらいには足りないだろうな~~?って思ってえいって出したら普通にまあまあ出てきて、いつもは『だっるー』って言いながら戻すけど今日はお休みだしまぁいいかな?ってなってるだけだから!」

と、ドジっ子ではないアピールをされても、いかんせんいつもよりつやつやの唇でまくしたてられるのでちょっと笑ってしまった。いや、おねーちゃんの休日ドジを笑ってるわけじゃないから、すねないで。
「はいはい、あとで一緒に買いに行こうね。で?ティッシュ切れてた?」
拭えばいいものをわざわざ呼んでくるので、棚から新しいティッシュ取ってほしいのかなと思ったけど、どうやら違うらしく。

「余ったからあーげーる!」
んー、とくちびるを突き出してきた。
なるほど、今日はそういう感じであたふたさせようと。おおかた、
『な、なにしてんのおねーちゃん、そういうのは冗談でもよくないんだけどっ』
と言いながらティッシュで拭き拭きされるようなのを考えてるんでしょ。


「じゃ、ちょっと貰うね」
くれると言うなら、と臆せず近づいて、そのままかがんでおねーちゃんと目線を合わせる。

艶めく唇とあと数センチ、おねーちゃんの息と小声の「ちょっ…」が漏れたところで、…顔を離して人差し指で両唇を撫でる。
その指でそのまま自分の唇を潤して、まだよく分かってなさそうなおねーちゃんのおでこを軽くつっついた。
「ごちそうさーま。準備できたら言ってね。」

・・・

思い出すとめっちゃ恥ずかしいことをしたんだけどなんであんなことしたんだろういくらなんでもやりすぎた気がする引いてないかなおねーちゃんでもたまには「やるときはやるよ」みたいなのを見せたい弟心ってあるじゃんいつもからかわれてばかりだししょうがないよねいやでも、

ドキドキしたわ。心臓に悪いしもうやめよ。



後日談、というか数時間後の話。
買い物が落ち着いてカフェで休憩中。

「あのくらい煽ったらたまにはやってくれるかなーと思ったらほんとにやってきて、いろんな意味でびっくりしたわー。」

と満足げにカフェオレを一口飲むおねーちゃん。
全部手のひらの上でした。

「ま、たまにはああいうのも楽しいよね~。」
と、傍らには新しく買った同じ香りのリップバーム。
その香りとあの唇が結びつくのは僕だけかな。


…なんかいつもより嬉しそうだね、おねーちゃん。


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