誰よりもずっと、きみのおねーちゃんなんだから。

――ご家族ペア限定スイーツフェア。

あまり見かけない条件のイベントが近くであるらしく、おねーちゃんが意気揚々とスマホでそのお知らせを見せてきた。どっから仕入れたのそんなネタ。

「九州地区弟くん大好きオープンチャットで話題になってたの!わりと近いし行こーよ!」
え?なんて?聞き流しといていい??

ご家族ペア限定…夫婦だったり親子だったり兄弟姉妹、名字が同じで2人組ならいいらしい。片方結婚してたらどうするんだろう。
と思ってよく見たら、関係性は自己申告でいいらしい。ゆるゆる判定じゃん…
おねーちゃんは行く気満々だったらしく、珍しく準備で待たせてしまった。
ってほらほら、マフラー忘れてるよ。

・・・

お店があるのは繁華街から少し外れたあたり。
イベント自体が始まってから多少日が経っているとはいえ、休日だしそれなりに人が並んでいた。
いつもは行列も多少暇そうにしているおねーちゃんだけど、なぜか今日は楽しそう。

「あれは夫婦… あれは兄妹… あれは姉弟… あれも姉弟…」
なんとなく分かるんだよ、と自慢げなおねーちゃん。その特殊スキルが活かせる日は来るのだろうか。
と、折り返す行列の前の方を眺めていると、若々しい面々の中で目立つ初老の2人組。夫婦だろうか?
待ち時間に辟易とした様子もなく、和やかに、にこやかに話している。
いいな…って思ったつもりが、少し声に出ていたみたい。
「なんかいいよね、夫婦でああいうの。年をとっても、あんなふうに2人で出かけたいよね。」
羨ましそうな目で同じ方向を見つめていたおねーちゃん。
あと数十年経つころには、僕たちはそれぞれ誰といるんだろう。お互い、こんなふうに休日を過ごす相手がいるよね。

「いいじゃん、私たち2人でくれば。結婚しててもしてなくても、てーくんは私の大事な弟だし、私は誰よりもずっと、きみのおねーちゃんなんだから。」
…何を思ってもバレてるの、ずるいなあ。

・・・

順番が来て席に通された。フェアメニューを注文すると、
「おふたりのご関係は?」と尋ねられ、すかさずおねーちゃんがにっこりと「姉弟です!」と答える。
カップル割引は嬉々として使うくせに、こういうときに夫婦を自称したりしないのか… いや、何を考えているんだ。

気づけば先程の老夫婦が隣のテーブルだった。
ちゃんと?フェアメニューを頼まれていた。会話はあまりないが、表情がとても柔らかくて癒やされる。
お店の雰囲気もゆっくりでいいなあ、とレモン水を一口飲んだところで店員さんがやってきた。

パンケーキとパフェ、ストローが2本刺さった大きめグラスのドリンク。
…家族向けなんだよね?カップル用じゃないよね?
見回すと、親子や兄弟の組み合わせには出されていないようで、とはいえしかし…まぁ、おねーちゃんが嬉しそうだからいっか。

華やかな見た目に負けず、味も美味しいスイーツセットで大満足。
食後のコーヒーを頼んだところで、件の老夫婦が帰ろうとしていた。


「美味しかったね、姉さん。」
「ええ、美味しかったわ。若い人たちがいっぱいで少し緊張したけど、たまにはこういうおしゃれなのもいいわね。」

見開いた目がおねーちゃんと合った。2人してすっかり思い込んでしまっていたようだ。老夫婦、改め老姉弟の会話が続く。

「それにしても、よくこんなところ見つけたわね?」
「最近、九州地区お姉ちゃん大好きオープンチャットってやつに入ってね。そこで教えてもらった。ま、本番は今度だし。」
「まったく、愛妻家で頼もしいこと。」

そのまま席を立っていく2人を横目で眺めながら、おねーちゃんも少し柔らかい笑顔になっていた。

「ほんと、年をとってもあんな風になってたいね。」

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