おねーちゃんだけがいる日。

「じゃあ、行ってくるね。帰りはまぁまぁ遅くなりそうなんだけど。」
「うん、楽しんできてね。こっちは気にしないで、適当にご飯とか食べとくし。」

今日はお友達と朝から晩までどこそこ遊んだり飲んだり写真撮ったりなんだって。羨ましい…かはともかく、楽しそうにしているてーくんを見るのは楽しい。昨日もうきうきで準備してた。
私は別に、積極的に外に出たいわけでもないし、てーくんさえいれば他に誰かと遊びたいとかもないし、今のままでいいと思ってる。
……なんてことを同年代の同僚と話していたら、「そろそろちゃんとした方がいいよ」とかってたまに(よく)言われるんだけど、乗り気じゃないものは仕方ない。

「……ひまだなあ。」
朝ごはんは一緒に食べたし、まだそんなにお腹も空いてない。
とりあえず洗濯機は回したし、うーん、掃除機でもかけるか。

・・・

「…ひまだなあ。」
掃除機かけたし、なんならウェットシートで床を撫でるまでした。もこもこのやつでテレビとかのホコリも取った。えらいぞわたし。
洗濯物も干したし、毛布とかでもう一周したいけど干すところがないなぁ。
海外ドラマでも見るか。

・・・

「…しまった。」
こんなに面白いとは。お昼を食べるのも忘れて15時を過ぎてしまうなんて。
今食べても夕飯が微妙になるなあ。まぁいいか、どうせ1人だし、適当で。さみしいなあ。
ちょっと前まではてーくんもそんなに外に出るタイプじゃなかったから、休みの日だってだいたい一緒にいたし、いつもより時間かけて一緒にご飯作ったりしてたのに、最近はだれだれさんと遊ぶってこともよくあって、いや別にそれを悪いことだなんて全然思ってないしむしろ良いことだし嬉しいって感じてるけど、それとさみしいのは別だよね、仕方ないよね。

「弟離れ、ねぇ。」
それができない、とは思っていない。いざとなったらどうにでもする覚悟はできている。元より長く続くとは思っていない。いい年した姉弟がふたり暮らしなんて、少なくとも「よくある光景」では無い。
ただ、今のこの家はとても居心地がいい。毎日が癒やし。毎日が楽しい。できることならば、許されるまでは一緒にいたい。

今日は少し早起きだったから、少し昼寝でもしようか。夕飯は適当にパスタでもしよう。ツナ缶がいくつかあったはず。
……なんてことを思っていたら同僚からLINEが来た。休日の夕方なんて珍しい時間にくるものだ。
曰く、『今日の合コン、1人欠席が出ちゃって埋めてくれないかな!?お金は出さなくていいから!』と。
彼女は私たちのことに特に口を出さないタイプで―というか積極的に口をだすような人間は私から関係を切っているのだが―、それでもやはり私をどうにかしようと考えているのだろうか。とはいえ、いつも仲良くしてくれているし邪険には出来ない。
「お酒飲まないし、1次会で帰るから。」
最低限の身支度だけして、案内された場所に向かう。

「同僚に飲みに誘われちゃった。いわゆる合コン的なやつらしいんだけど、飲まないしすぐ帰るから心配しないで。」
てーくんに一言連絡を入れておく。「わかった、気をつけて」ってだけ返ってきた。3分後、「何かあったら迎えに行くから、遠慮しないで」って追記してくれるところが、弟らしい。

(…ひまだなあ。)
たまによく聞くお店で、ご飯が美味しいらしいと評判だったのもあって来たけど(多少心惹かれるものでもないと絶対に行かない)、相手のメンツがどうにもつまらない。
仕事がどうとか収入がどうとか趣味が高尚だとか、さして響かない話ばかり。なのに、なぜか私に話が回ってくることが多い。
適当な相槌と投げやりな愛想笑いで乗り切ろう…にも、また私に話を振るのか。ご飯を食べさせろ。私の隣とその隣の方がよっぽどいい反応してるじゃないか。ご飯を食べさせろ。

なんだかぐいぐいと次に誘いたそうな感じがしてるけど、お腹もほどよく膨れたしもうここに用は無いな。
「私帰るけど、いいよね?」
お手洗いで改めて伝えてから、うーん、迎えに来てもらったほうがいいかなあ。あっちも盛り上がってるかなあ。
『こっち、一旦落ち着きそう。迎えに行こうか?』
ぴったりなタイミングで連絡がきた。甘えちゃおうかな。
「ごめん、ちょうどよかった。駅の近くの、この前美味しいらしいねって話したあの店。今お願いしようか迷ってた。」
返信に地図を載せて、とりあえずお開きの感じになってるテーブルに戻った。

「明日も休みでしょ?まだ早いしもう1軒行こうよ。あんま飲んでないじゃん?」
無理矢理伝票をひったくって、女性陣分を全部持ったからなのか強気に出てきているんだけど、こちとら覚める酔いも無いのに冷めてしまって完全に帰りたい以外の気持ちがない。残り2人は…行くのか、そうか。

…お。見つけた。ナイスタイミング!
「ごめんなさい、お迎えが来たので、このあたりで失礼しますね。」
一番うれしいときの笑顔を最後に振りまいて、てーくんを捕まえてそのままおうち方向へ。
飲み直しは家でやろう。

・・・

「ごめんね、本当に迎えにきてもらっちゃった。そっちは楽しかったところだったのに。」
家で2人して缶チューハイを空けながら、ひとしきり謝りっぱなし。いつもならまだ帰ってきてなくても不思議じゃない時間。

「みんな近くの人だし、またいつでも会えるから、気にしないで。ちゃんと連れて帰れてよかったよ。」
情けない、といえば情けない気がするけど、頼もしい弟につい甘えてしまう。
……いつまでこんな感じでいられるのかな。さすがに彼女とデートしてるときに、迎えに来てなんて言えないなあ。

『今日はまあ、痛み分けってところで。大した収穫でもなかったわ』
同僚に謝罪の連絡を送ると、そんな返事がきた。2次会もさして楽しくなかったのかも。私が先に帰っちゃったのもあって行ってくれたのかしら。…痛み分け、ね。

「今日?酒飲んで酒飲んでご飯食べて酒飲んでちょっと写真撮って酒飲んで、あとは酒飲んでたかなあ」
2本目の缶を開けながら、楽しそうに喋るてーくんを見てる5分は、あの2時間の数倍楽しい。

「…おねーちゃん、ちょっとこっちおいで。」
膝の上に呼ばれて、後ろから軽く抱きしめられて、そのまま頭を撫でられてる。
「ずっと気を張ってて大変だったんでしょ、お疲れ様だったね。」
そっか、まだ家に帰りきれてなかったみたい。外行きのまま抜けきれてなかったのか。ようやくリラックスできた。

「えへへ、ただいま。てーくん。」
楽になっていいと思えた瞬間、身体の力が抜けきった。

あー、離したくないなあ。
私だけの休日も、やっぱり最後はてーくんがいなきゃだね。

あとがき

「・・・っていう感じの日を過ごしてたから、うまいぐあいに書いてよ」
「おねーちゃんの感情描写するの、ちょっと恥ずかしいよ。」

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