上手になったでしょ。もっと褒めてもいいんだよ?

一人暮らし歴はおねーちゃんの方が長い。
というか、僕は就職と同時におねーちゃんと二人暮らしを始めたので一人暮らし歴がそもそも無い。

ノリでやったり教えてもらったりで一通りできるようにはなったと思うけど、それでも全般おねーちゃんには敵わないと思う。
…すぐ結婚できそうなのになぁ、とは言わないようにしてる。

と、何の話かというと今日の夕飯の話である。
「ばんごはん、なにがいいー?」
と訊かれたので、おねーちゃんの得意なので最近食べてないのは…、からの、そういえばもうおねーちゃん、かれこれどのくらい料理してるんだっけ…、からの、おねーちゃんっていつから一人暮らししてたっけ…、というよくある連想の想起。午後三時、もう仕事したくないから仕方ない。

ちなみに二人の得意方面はきれいに分かれていて、煮物、焼き物(お魚)+αが得意なおねーちゃんと、揚げ物、焼き物(お肉)+αが得意な僕という具合。なのでだいたい夕飯のテイストはその日キッチンに立った方による。
炒めものは味の好みがちょっと違って、おねーちゃん曰く「てーくんのは濃ゆすぎる」らしいのであまり作らない。

にものやきものぷらすあるふぁ、と言っておきながらではあるけど、おねーちゃんの作るご飯の中だとオムライスがかなり好き。お店で出るものより好き。あーオムライス食べたくなってきたな、今日はもうオムライスの気分だ。返信したし、もう帰りたいな。

・・・

「ほんと、きれいにつくるよねー。感動するわ。」
「えー、褒め過ぎだって全然そんなことないよー。」
手際よく綺麗な形のオムレツを焼き上げたおねーちゃんを見ながら、ほんのりガーリックが香るバターライスを盛ったお皿を渡す。
なぜか本当に「そんなことない」と思っているようで、一向に調子に乗る気配がない。
乗せたオムレツにおねーちゃんがナイフを走らせると、黄金色に輝くふわとろのお布団がライスを包む。
「今日もきれいだね。」
…え待って今のはおねーちゃんにじゃないからそんな急に照れないで、いやおねーちゃんもきれいだよ!すねないで!表情が忙しいな!

ちぎったレタスとくし切りのトマト、短冊切りの黃パプリカをオリーブオイルとワインビネガーで和えておいたサラダは冷蔵庫から取り出して粉チーズをかけるだけ。
ちょうど沸いたお湯でコンソメスープを溶いて夕飯できあがり。
テーブルの準備をしていたらキッチンからおねーちゃんの声、
「てーくん、ハート何個がいい??」
まかせます!

・・・

テーブルに乗せられたオムライスは、赤いハート三個乗せ。
サイズも間隔も整っていて、真ん中だけ塗りつぶされている。
まるで「♡♥♡」をそのまま印刷したような、はみ出しも崩れもないデコレーション。
というか、表面が平らじゃないところ相手になんでそんな綺麗に描けるの。天才なの?

向かい合って座ったおねーちゃんがいそいそとスマホを構える。
うまいこと二人分を収めて、匂わない匂わせ写真を投稿するんだろう。
「はいはい」「今日も仲いいね」ってコメントが付くところまで見えた。
テーブルを眺めて満足げなおねーちゃん、まだ食べてもないのに
「上手になったでしょ。もっと褒めてもいいんだよ?」
とドヤ顔。味じゃなくてハートマークの話だこれ。

たしかに最初の頃は、線の細さがぶれてたり大きさも不揃いだった気がする。少しずつ綺麗な形になって……ああ。
さっきの写真は、がんばりの記録でもあるのか。
気づいた瞬間、なんだかすごく愛おしくなった。

「めっちゃ上手。芸術だねこれは。食べるのもったいない。おねーちゃん最高。来世も食べたい。」
と褒めてみたら、なんだかとっっても嬉しそう。オムライス上手だねって言ったときよりも喜んでるんじゃないのかな。

「よし!じゃあ温かいうちに食べちゃお!いただきまーす!」

いざ食べるときは遠慮なくハートの真ん中にスプーンを入れるところも、大好きだよ。

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