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自分が出てこない夢の話

 何かのきっかけで異空間に閉じ込められる。純粋無垢な心を持った人はそのまま来れるが、物心ついてる人は視力を失う。
 現実世界は観覧車が猛スピードで回ったり謎の生き物が現れるようになって(凶暴で不衛生な鳥とか)、この世界は穏やかな田舎のよう。逃げるようにこちらへきた無垢な女性。彼女はこちらの生活に直ぐに順応していった。
 外はニューヨークの街並みだった。地下にあるフードコートの中を探し回って居た。おそらく目当ての食べ物を探して。全体を見たあたりで一度外に出る。そしてまた階段を降りて地下に行く。
 ある日雪の穴倉から小道に這い出ると、この世界の住人か旅行客かわからないような、でもかつての知り合いのように思える人がいた。これ食べて!そこら辺にある木の実を渡される。実が透明で小さい。食べられるのか…?少し不安だった無垢な女性は戸惑うふりをすると、渡した若い女性が食べてしまう。そしてまたもう一つの木の実をすぐ脇の茂みから摘んで渡してきた。今度の木の実は、透明なものとそうじゃないものが、奇妙にくっついていた。「でも、食べられるか一応調べてくるね」もうすでに食べてしまった女性はキョトンとした。でも、無垢な女性は念には念を入れたかった。

無垢な女性がこちらへきて数年、数十年経った頃、新たに男性が入ってくる。二十代くらいの若者だった。若い男性は、こちらの世界に来たいと強く切望して居た。しかしながら、無垢でなかったために視力を失ってしまった。最後に見たのは、こちらの世界と現実世界の境の、匍匐前進でしか進めないような雪のトンネル。ただし電気がついてるみたいに明るくて、端には黒い盤に算用数字のデジタル時計がついて居た。
 なんなんだこの世界は。若い男性は衝撃を受けた。この世界では、住民はある一つの秘密を解き明かす準備をしているという。しかしその秘密自体は誰も知らず、ただヒントになり得るものを町から拾い集めては提出していた。若い男性は、まず田舎道に捨てられて居た本のタワーに目をつけた。こう言うのを持って行けば良いのか?本を開くと、中のページはごっそり切り取られて居た。かつての住人がすでに提出していた様であった。若い男性は、浅薄に、絶対的な絶望を感じ始めた。
 若い男性は無垢な女性と出会った。ここはなんなんですか?という問いに彼女は答える。「自分の役目を果たすんだよ。そして繰り返すの。」そして彼女は和室にかかったアナログ時計を指差す。若い男性はその時計を見て悪寒が走った。数字があるはずのところには住人の日々の様子を映し取った写真が貼られて居た。それが問題なのではない。8時の方向に張られた写真、そこに写って居た二、三人の畑仕事をする壮年の男性たちは、さっき本が積まれて居た場所で、白と赤のラインが入った襟の、青いポロシャツを着ていた。それは、今若い男性が着ているものと全く同じだった。繰り返す…。若い男性は自分がとてつもない時間のループに足を踏み込んでしまったと気づく。三、四年したら新しい人が来るだろうし、運が良ければ元の世界に戻れるよ。そう言う彼女は、自らここに残る選択をしている様だった。

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