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素朴という悪口

「ナイーブ」という言葉は英語では基本的に貶し言葉だと、そう知った時のことを覚えている。英語の美術批評を読解する授業だった。たしかドイツ表現主義の絵画を指して言ったのだったか。辞書を参照してみると、


1.〔経験不足であまりに〕世間知らずな、うぶな、ばか正直な、考えが甘い

2.〔考え・言動などが子どものように〕純真な、天真らんまんな、あどけない
3.〔美術の〕素朴派の、素朴な◆一見すると子どもが描いたかのように見える、単純化した技法を使った絵画。アンリ・ルソー(Henri Rousseau)などに代表される絵画を指す。
4.〔動物が〕実験に使われていない
5.〔人が〕投薬を受けていない、~の薬を摂取していない

うぶな人、だまされやすい人◆可算

英次郎 on the web (2024.7.23 最終閲覧)

とある。
一応「純真な、天真爛漫な、あどけない」という意味もあるが、「うぶな人、だまされやすい人」として名詞になっているということは、一番上にある「世間知らず」「考えが甘い」といったネガティブな意味がより一般的なのだろう。

日本語で"naive"に似た意味の言葉は、素朴や繊細といった形容詞になるだろう。「だまされやすい」は完全にネガティブだし、また「天真爛漫」などはポジティブな意味に偏っていて、"naive"のような両義性はない。その点、「素朴」は学術的な文脈では悪口として使われることがあるように思われるし、「繊細」は「繊細さん」「HSP」などの言葉が流布したことで、逆にそれらが悪意をにじませて使われることもある。

私はもともと素朴さを嫌う性格だったのだが、最近は素朴万歳の方に傾いている。それは怠惰なのかもしれないけれど、わたしにとっての「日本画」や「絵」のことを思うとき、素朴さに立ち返らなければ手が動かないということに今さらながら思い至ったからだ。

私の絵を見て「ナイーブだね」と言われて、それはそれとして受け取るが、もし悪意をにじませていたとしても、「ナイーブで結構。私はかくかくしかじかこういうことを考えてこのような作品を作ろうと思い至ったのであって…」と説明する自信がある。これは退行ではなくて成長だと、私は感じている。

戦略のうえでの素朴さは真の意味で素朴ではないけど、真の意味で素朴だったらそれはやっぱり未熟だと思う。結局のところわたしは「ナイーブだね」と悪意をにじませて言ったりする人間なわけだけど、自分にもナイーブさがあることは分かっているんだから、そういう成熟したナイーブさに関しては見逃さないようにしたい。


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