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シン・映画日記『ファミリア』

MOVIX三郷にて役所広司主演、成島出監督作品『ファミリア』を見てきた。


役所広司主演で成島出監督作品というと『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』があったりしたので、しかもあらすじを見るとなにやら国際問題が絡む社会派映画かな、と思って見たら、まあドイヒーな映画でござった(笑)。

あらすじは公式ホムペとかで見て欲しいが、
とにかく、やりたいことが多すぎて何一つまとまらず、感動もピカレスクロマンも社会派としての問題提起の深さもない。

一応、一つ一つのエピソード、というかやろうとしていること・着眼点は悪くない。
両親を早く亡くし、家族というものを知らずに息子を男一人で育てた元ヤン陶芸家。
一流大学を出てアルジェリアにも支社を持つ大手化学メーカーに勤め、赴任先のアルジェリアで社食で働いていたナディアといきなり結婚し、一時帰国して帰ってきた実家で父親にいきなり陶芸家として跡継ぎをしたいと言い出す良くできた息子。
それと誠治らが住む豊橋周辺の在日ブラジル人が半グレやヤクザに絡まれ、誠治に助けてもらい、そこから交流、さらなるトラブルが続出するエピソード。
そして、学とナディアがアルジェリアに戻ったらさらなる大事件に巻き込まれる。

確かにフックがあるエピソードの連続なのだが、テンポ重視なのか一つのエピソードを丹念に描くということをやらないので、感動も刺激もない。
しかも、誠治の若い頃のエピソードや学とナディアの現地での馴れ初めなど全て台詞で片付けられるので、「ふーん、そうなんだー」としかならない。

また、群像劇でありながら繋がりが浅すぎてまとまりがない。いや、繋がりはなくはないんだが、それならばアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『アモーレス・ペロス』みたいに章分けするのが無難だったはず。それをイニャリトゥの『バベル』みたいな国際群像ドラマにしたかったのかもしれないが、脚本、演出、お金、時間など全てが足りない。おまけにラストの取ってつけたような『グラントリノ』要素。色々やりたいことは分かるが、そこスケスケであればあるほど中身がペラッペラになってしまい、よりいっそう変なドラマに見えてしまう。

アルジェリア女性を妻にした息子を受け入れる主人公周りの土壌があるから愛知県の在日ブラジル人コミュニティのいざこざをストーリーに組み込んだのであろう。この題材では既に2011年に富田克也監督が『サウダーヂ』という作品を作っている。今回同じ題材を取り上げた時点で『サウダーヂ』と比べられるが、後半のアウトロー絡みのドラマに落とし込んでいる。もっともっと深掘り出来る題材なのに残念だ。

とにかく、この映画のまとまりのなさとショボさを嘆きたい。
それらは制作費や時間があれば解決できた可能性があるが、それを『ファミリア』製作委員会が木下グループ、フェローズ、ディグ&フェローズの3社しかないという時点で無理でり、酷というもの。
ならば、国際結婚&その後の事件のみか
在日ブラジル人いざこざのみか、 
元ヤン陶芸家のおじさんの渋い映画にするか。
『サウダーヂ』みたいな在日ブラジル人問題がやりたいのか?
東映よろしくなアウトローのピカレスクロマンなのか?
血の繋がりがない異邦人への想いを描いた和製『グラントリノ』なのか?
遠く離れた地での国際問題を描いた『バベル』っぽいことをやりたいのか?
これ、企画の段階でどれかに絞ってないからブレブレなんじゃないのかな。
それか全部盛りにするなら昭和、平成、令和の時代ごとに三部作にするか。
それなら『青春の門』や『とんび』みたいな重厚なヒューマンドラマになったかもしれない。
それと、窯元で食っていくのは大変なのは分かるが、
じゃあ誠治は一体何で食べているのか、いい60代のオヤジが義理の両親のスネをかじっているのか?
この一つをとっても一事が万事で詰めが甘い。

それと吉沢亮の演技が酷すぎる。
孝行息子を演じているが、かなりぎこちない。
戦後の小津安二郎の家族映画みたいな台詞回しが令和の現代にフィットしない。
それと、中盤の河原でのいざこざのシーンもアウトローたちの感情の持っていき方が不自然だし、
リンチにしてもアイデアは『凶悪』みたいな感じだが、人のいたぶり方・展開が変。
おまけに命が軽すぎる。
本当に褒める所がエピソードの着眼点しかなく、
あらゆる面で技術不足を露呈している。

役所広司や佐藤浩市は頑張ってはいるが、本作は明らかな失敗作。
全キャスト・スタッフの黒歴史になるので、
本作で取り上げたエピソードいずれか一つを選び、作り直し、リベンジをした方がいい。

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