「筋膜」に宿る「張力」で安定した姿勢を内部から作っていく
前回、筋肉を意識してそれが自由に動けるようになる方法について語りましたが、実はそれだけでは不十分で、筋肉を包んでいる「筋膜」が自由になることが大事であるということが近年注目されました。
筋膜とは、「筋肉を包む膜」です。いくら中身の筋肉が緩んでも、包み紙の筋膜が固まったままでは、中身もまたすぐ固くなってしまうため、筋肉が緩むには筋膜が緩んでいる必要があります。構造的にはコラーゲンとエラスチンというたんぱく質で形成され、筋肉以外にも骨、内臓、血管、神経などあらゆる組織を包み込み、それぞれの組織を繋ぎとめて身体全体を構造的に支える役割を持っています。身体の動きを考える上で特に大事なのは「身体の各組織のつながりを作る」ことですが、その役割を担っているのが「筋膜」となります。
このように、筋膜は身体全体に張り巡らされたネットのようなものだと考えられ、「張力」で身体の構造全体を支えています。このように身体を見ると、私たちの身体全体を覆う筋膜の張力システムは、特定の場所に受けた情報を全体で受け止める性質を持っています。したがって、身体の一部が過剰に緊張するということは筋膜の網目のバランスがごちゃごちゃになり、うまく「張力」が働かなくなり、身体の構造を支えられなくなるということなのですね。
さて、この「筋膜」なのですが前回の「筋肉」と違って、脳から指令してコントロールする機能は備わっていません。したがって、「筋膜」を自由に動かすことは筋肉と違ってできませんが、筋膜が今どういった状況にあるのかという情報は脳が受け取ることができます。私たちは「筋膜自身がどのような状態かはわかるんだけれども、筋膜自身は動くことができない」ということです。
筋膜による「張力システム」を受けとるトレーニングを行う
筋膜は、全体でバランスを取りながら、その張力を均質に保と言うとする性質がありますが、固く縮んでしまい、そのセンサーが適正に機能しないと、張力システムの存在が身体に自覚されなくなるので、筋膜は固まったままになります。したがって、筋膜にあるセンサーが活性化して、身体が筋膜の存在を自覚することで、身体全体に張り巡らされている筋膜の張力システムのスイッチが入り、筋膜の張力が適正化することにより、固く縮んでいた筋肉が緩んで伸びるという考え方をとります。
背骨をより長く
力は、入れるものではなく、出すもので、重さを伝えるものですので、「入れる」では力みになってしまいます。ここでは「エネルギーを強める」という言い方をします。そして、そのエネルギーを強める際に全身を「より長く&広く」したいわけです。そうすることにより「筋膜」による「張力」が働かせて、身体の構造を支え、そして、エネルギーを強めていきます。
まずは、背骨です。背骨全体をより長くするように動くことをイメージします。丸まる動きでも反る動きでも、常に長くしようと心がけます。背骨一つ一つの骨の間の隙間(関節)を拡げる感じです。全部で26個あります。これだけの数を意識するのは大変なので、まずは肋骨と骨盤を引き離すようにすることがおすすめです。その際、肋骨を上に引き上げるのではなく、骨盤を下に押し下げるようにするのが肝になります。大事なことは、重さを移動させることなので、地面方向へと背骨を伸ばす意識、つまり、骨盤を下に押し下げることです。肋骨を上に引き上げることは楽で、骨盤を下に押し下げることは難しいだけに、肋骨への意識だけだと、背骨が長くなりづらいです。
背骨を長くすることが意識しずらい場合は「お腹を長く」というイメージを使ってみることが良いでしょう。
肩幅をより広く
広くとは身体の横幅を広くすることですが、肩幅と考えて頂いて大丈夫です。よく剣道でも肩を下げようとして、自ら提げてしまうと体幹部分が力むために動き全体が固くなることがあるでしょう。肩が下がるような使い方は重要なのですが、自ら肩を意識的に下げる動作と言うのは、身体にとっては結局不自然で窮屈になってしまいます。肩の力を抜くといった意味でも、肩が自然に下がるといった意味でもこの「肩幅をより広く」使うことで、張力が働き姿勢が安定します。腹筋運動も上体を下げるのではなく、背面方向を拡げるイメージで、かつ、わきの下の幅を広げるイメージとなります。
筋膜は、沈んで、流れて、拡がるイメージ
重さに委ねることによる「沈み」、この感覚に身をゆだねていると自分の身体の内部に意識が向いて不思議な気持ちよさが体験できるはずです、これが「流れる」、そして、流れのあるところ全体が薄いシートで覆われていて、そのシートが身体の外の空間に拡がっていくイメージを持つ事です。
何度も言いますが、筋膜システムは、筋肉と違って、脳の指令で動かせるものではありませんので、しかし、脳に情報を受け取ることは可能ですので、脳で筋膜の情報を受け取る身体を作っていきましょう。
そして、この感覚が手に入れば、剣道の構えも、一見同じような構えに見えるけれども、動きはより柔らかく反応の良いものに仕上がっていきます。
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横隔膜を下げっぱなしにしておく呼吸
このブログでは実際に身体の内側の空間「筋膜」を広げる方法として、横隔膜を下げっぱなしにしておく呼吸を提唱します。このことによって、腹腔という横隔膜・骨盤低筋群・腹横筋によって囲まれたお腹の空間を常時広げておきます。下腹・丹田を常に膨らませておくともいいます。
一般的な呼吸の違いは、胸郭・肋骨の動きを主体としているか、横隔膜の動きを主体としているかの違いです。どちらが良い悪いということではなく、場面に応じて有効な呼吸の仕方があるだけです。全力疾走した後に腹式呼吸をするのはつらいでしょうし、落ち着かなければいけない時に胸式呼吸では役に立たないでしょう。ただ、胸式呼吸・腹式呼吸といっても便宜的に分けているだけで完全に分けられている者ではありませんし、胸郭・肋骨も横隔膜もしっかり動かせるようにしておくことが大事です。
呼吸は「する」ものではなく、「通す」ものです。呼吸を「通す」ことによって動作に対して呼吸を導くようになります。動きに伴って勝手に空気が出入りする。感覚としてはいつも体に空気が満たされている感じです。動きと呼吸を合わせるという意識は全く持って不要になります。一体化しているので、バラバラになりようがないわけです。
呼吸を「通す」具体的な方法ですが、1つ目のポイントとしては喉を開いておくことです。もう一つは、吸う息が胸郭の底から溜まり、吐く息は上から出ていくようにすることです。これをすると、口腔・胸腔・腹腔が常に一体化した感覚になります。これが横隔膜を下げっぱなしにする呼吸です。
呼吸は解剖学的には、胸腔内、肺の空気の出入り出会って、お腹に空気が入るわけではありません。だからといって、胸郭から下は使わないと考えてしまうのは問題です。ただ、横隔膜が下がるわけですから、内臓はその分移動する必要があります。下へ外へ前へと。この動きがお腹を膨らませるので腹式呼吸といわれ、お腹に空気が入っていくイメージになっています。
横隔膜が下がるという事実と共に、腹腔が空洞で空気で満たされるというイメージは役に立ちます。イメージは役に立てば使った方がいいですし、役に立たない者はいくら解剖学的に正しくても使わない方がいいです。
「吸う息が胸郭の底から溜まり、吐く息は上から出ていくようにする」練習方法
おへその下をグッと押し込むようにして、それをお腹を膨らます力で押し返します。お腹を膨らます際に、腰も膨らますようにします。出来る方は、おへそ自体は引っ込めながら下腹を膨らませてください。腰の方は仙骨を後方に押し出す感じになります。骨盤の内側で風船が膨らんで四方八方(上方は不要)を押している感じです。
この状態を保って、大きく息を吸ったり吐いたりしてください。吸う時に張り出す力が弱くなる人は横隔膜が下がってきていません。いわゆる胸式呼吸になってしまいます。吐くときに弱くなる人は、吐く息が胸郭の上からではなく、底から出ていってしまっています。ただし、吐くにしたがって多少は下腹の張り出しは戻ってきます。それは問題ありません。力が抜ける感じがあるかどうかです。
この呼吸を出来るだけ喉を開いたままで行います。のどは空気が通るだけです。喉で呼吸しようとしないように。そして、吐くときに口をすぼめたりしないでください。口は唇に力を入れず、ふんわりとさせておいてください。極端な言い方をすると、吐くときは空気が漏れていくような感じに、こうして呼吸をしていると、本当に喉は空気の通りに道に過ぎないということを実感すると思います。人によってはこの呼吸をしているだけで身体がどんどん熱くなります。しかしながら、呼吸法の練習として特別に取り上げて行うものではあってはいけません。普段歩いている時も行って頂ければとは思いますが、少なくとも、ストレッチや筋トレでも何でもトレーニング的な意味合いで身体を動かす際には、常にこの呼吸でいて欲しいと思っています。