骨盤対策:剣道人は背筋をピンと伸ばして構えるが背筋を正しく伸ばす「技術」を知らないとまったく意味がない
剣道人といえば、特に高段者だと、胸を張って、背筋をピンと伸ばして姿勢が立派なイメージが大きいのではないでしょうか。私はそういうイメージです。そして、私も背筋を伸ばして胸を張って、顎を引いて構えていたのですが、これは、辞めました。辞めた理由と言うのを淡々と語っていく記事になります。そのためにも、骨盤・脊柱の正常な位置というものを自分の身体に当てはめて今一度考えるきっかけになれば幸いです。
骨盤とは
まず、骨盤で覚えて頂きたいのは「骨盤は一つの骨ではない」ということ。
寛骨・仙骨・尾骨の3つが合わさったものであり、特に仙骨・尾骨は骨盤の中央後面を構成していて、元々背骨の続きとして存在していました。背骨には上部から頸椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾椎があり、仙椎は椎間円板や肋骨の退化したものとくっついて、成人する頃には一つの仙骨となります。寛骨と仙骨の間には仙腸関節という関節があり、股関節と骨盤、腰椎の動きに重要な役割をします。
骨盤の傾斜角度が、身体全体の影響を及ぼす
骨盤自体に関節はありませんので、「関節可動域」があるわけではなく、操作するのは、脊椎移行部や股関節、骨盤周りの筋肉の収縮によって骨盤の傾き・角度を調整します。
骨盤の動きで一番わかりやすいのは、前に傾く前傾、後ろに傾く後傾です。前傾はおへそを前方に突き出すような動きで、光景はおへそを引っ込める動きになります。骨盤は左右に傾くこともでき、一方の寛骨を上げる動きを挙上、下がる動きを下制と言います。また、骨盤は回旋することも可能で、前傾後傾・挙上下制・回旋を複合運動も可能です。また、股関節の動きに連動して動くようになっています。
重心は仙骨
ヒトの重心(頭部、体幹。四肢の各部分の質量の中心を求め、合一して得られたもの)、つまり、体重の中心部分ですが、骨盤内の仙骨のやや前方にあります。成人男性では身長の56%、成人女性では55%の高さにあります。女性の重心が男性に比べて低いのは骨盤の形状の違いによるもので、男性の骨盤は細くて深く、女性の骨盤は広くて浅い形状になっているからです。この重心の位置はスポーツをする上で最重要です。何故なら、「重力」を利用した動きは足の接地面と重心を結んだ線の傾きによりどれくらい、身体が前に進むか、または、後ろ、横、ジャンプなどの力の大きさに影響が出るからです。例えば、つま先で接地した場合と、踵で接地した場合では重心と結んだ時に、傾きが踵の方が大きいことがわかるでしょう。
踏み込んだ足の位置によって身体が前に傾く働きが変わる、つまり、重力の力を貰って足を勧められるということになります。ここでの重力というのは、運動方程式の作用・反作用の法則(あらゆる物体はぶつかった反対の方向に跳ね返る)で重力に反する「地面反力(床反力)」を使ったものです。
基本的には重心は骨盤の仙骨のやや前方なのですが、骨盤の傾きや身体の偏りによって、重心が若干ずれたり、意図的に動きます。これにより、身体にかかる負荷の偏りが発生します。別の記事で紹介しますが、剣道の場合は「左重心」を唱えていますが、通常の歩行動作においては怪我防止のために身体の重心を中央に寄せる意識をした方がよろしいでしょう。
姿勢時の骨盤の「過前傾」が一流の課題
怪我をするというのは身体の中の負担に偏りがあるということです。怪我をせずに身体の力をうまくつかうためには従来の骨盤前傾の常識を壊さなければなりません。
ある程度の段位の剣道人にあるのは背筋をピンと伸ばして胸を張った構えをしていると思います。ところが、これが実は「過前傾」であり、ほとんどの剣道人は構えた時「過前傾」であり、臼蓋を大腿骨頂に被せようとします。そして、骨盤が前傾になり腰椎が前弯すると「反り腰」になる。この状態で毎日練習していると、酷い場合は椎間板ヘルニアだったり、ハムストリングスに負荷がかかりすぎて肉離れを起こしたりなど、負荷がかかりすぎてしまうわけです。運動パフォーマンスはたしかに出るので、錯覚が起きやすいのですが、違うアプローチをすれば無理前傾させなくても身体に余計な負荷をかけずに身体が移動させることができます。
逆に一般の高齢者・初心者の剣道家に多くあるのは「後傾」です。股関節は伸展位になり、股関節前方の骨盤の被り(嵌め込み)具合が緩くなります。こちらは荷重時の股関節前面に負担がかかって怪我を負いますし、骨盤との連動性も悪くなります。
骨盤は常に「やや前傾」を目指します。そのためには背骨の構造も理解する必要があります。
骨盤「過前傾」による背骨の影響
直立姿勢を支えているのは脊柱であり、人間は直立二足歩行を始めてから脊柱は他の動物とは違った独自の湾曲を描くようになった。脊柱の湾曲状態をみたところ、脊柱湾曲線の頸椎部最凹点と腰椎部最凹点と脊柱最凸点とを結んでできる角度aをみると、平背a>165度、正常背165度>a>155度、猫背155度>a、脊柱の正常な角度として、真っすぐではなく、15度~25度、曲がっていることを認識しなければならない。剣道の姿勢基礎は、顎を引いて、胸を張るように指導されるために、頸椎部最凸点に凸がなくて真っすぐになってしまっていがが、実際のところ正しい姿勢ではないため脊柱に余計な負担がかかっている場合が多いのだ。例えば、審判をやって長時間立位姿勢を行った後、腰に対して集中して負担を感じる場合は、それはちょっと猫背になった方がいいわけですね。
「過前傾」対策の目安
脊柱湾曲線の頸椎部最凹点と腰椎部最凹点と脊柱最凸点とを結んでできる角度aをみると、平背a>165度、正常背165度>a>155度、猫背155度>a
腹筋に力が入っていない状態の前傾ならば、「過前傾」
何度も画像で確認しましたが背骨というのは決して真っすぐではなくS字カーブの形になっています。そして、必ず「腹圧」がかかるんです。高段者のメタボの人、お腹がぷっくりなっている人は、今の構えは「過前傾」だと考えてください。そして、どう直すかというと、背筋をピンとするのではなく、身体を前に裁く運動をする時こそ、上半身の重みを若干前に置いてしまって骨盤の後ろから身体を押し出す身体の前方に流す推進運動をサポートしてあげます。この時、身体をまっすぐ前に倒した状態にすると骨盤も連動し、脚が後ろ側に運ばれてしまいますので、腹筋にも負担がかかる状態を作ることで、一方の筋肉だけに負荷がかかる状態を少なくします。イメージ的には後傾の状態で身体の上体を少し前に出す形が実は身体を最も負荷がかからず、前に推進します。形としては、少し猫背になって身体の上体を前に倒すに形になります。
歩行・走行・剣道時でも若干前かがみ状態の猫背でよい
腹筋で立てばメタボにならない理由:メタボの構造
あと一番致命的な欠点は「背中が固まってしまうこと」ですね。短期的にはパフォーマンスには問題ないのですが、背中が凝り固まってしまいます。
背筋を伸ばしていると背中全体が凝って硬くなっていきます。凝って硬くなると筋肉の血流がわるくなり、当然エネルギー代謝も下がりますし、基礎代謝が下がって太りやすくなります
対して腹筋はどうか?腹筋は、「遅筋」という瞬発力ではなく持久型の筋肉で構成され、また、腹筋の内側には内臓筋が存在します。内臓筋とは、要するに内臓器官のことですが、心臓が止まったら人は死ぬように、休んではいけません。だから、常に血流を良くしておいて、乳酸をどんどん洗い流すようになっています。
乳酸は、糖質から手っ取り早くエネルギーを取り出すときに出てくる副産物ですが、脂肪酸からエネルギーと取り出せば、乳酸は出てきません。脂肪酸とは、要するに脂肪のことで、身体は余ったエネルギーを細胞の中に脂肪酸として蓄えています。この脂肪酸を利用している「腹筋」は乳酸がたまらないので凝って硬くなることがないわけです。しかし、腹筋は脂肪酸からエネルギーを取り出すには時間がかかるので、腹筋はスピード感がなく、こうした構造の筋肉を「遅筋」と呼びます。
内臓筋には遅筋が多い方が有利ですが、手足を動かす筋肉には、側近が多い方が速い動きに対応できるので有利です
ので、内臓を支える働きがありますので、身体の機能的に常に使わなければなりませんので、凝り固まることがないんですよね。ここの長期的なバランスも影響あります。
丹田は、24時間、腸を温めているので、身体の中でもエネルギー消費の激しい場所です、そのため身体はそれを見越して下腹部に脂肪をためようとします。
背筋を伸ばすとストレスがかかる!?「交感神経」と「副交感神経」の影響
背筋を伸ばすという行動原理は、辺りを見回す→周囲を警戒するという人間の本能からこの行動は生まれております。背筋を伸ばすという行為は危機管理のための行動で、それに伴い「交感神経」にスイッチが入ります。
自律神経のアクセルが「交感神経」でブレーキが「副交感神経」です。
交感神経は、緊急事態神経であり、瞬時に興奮し、次の動作に備えて血圧を上げたり、周りの状況を把握するために眼を見開かせたりします。その反面、必要のない消火器は抑制します。また、ストレスを感じた時も優位になります。また、背筋を伸ばしてたつと、肋骨を動かして行う胸式呼吸を促進します。胸式呼吸は内臓を押し下げる必要がないので、早くて強い呼吸ができますが、交感神経の働きをさらに促進させることになり、強いストレスを感じるようになります。
丹田で立つと、腹筋が肋骨を通して、背骨をコントロールしながら骨盤を持ち上げます。その結果、肋骨を呼吸のために動かそうとしても、動きにくくなります。このため呼吸は、横隔膜という内臓と肺の間にある仕切りを動かす方法に頼ることになります。これを腹式呼吸といいます。
横隔膜を動かすには、内臓を押し下げなければなりませんので、早い呼吸が出来なくなります。すると、副交感神経の働きが促進され、交感神経の興奮が抑えられることになります。つまり、丹田で立っていれば、おのずと腹式呼吸となるので、交感神経という「猛獣」をなだめながら構えることができます。
ということで、背筋を伸ばすと「丹田」の腹式呼吸が出来なくなるよ
骨盤が前傾しすぎて正しい背骨の位置にならず連動性が悪くなる
背中が凝って、腹筋が全く使われないメタボになる
交感神経が常に促進され、一瞬興奮はするがストレスがたまる
背骨は堅い棒ではなく真珠のネックレス
姿勢を作る上で、軸とという考え方があります。この軸を形成するのが「背骨」です。実際、背骨は身体を支える棒であり、背骨がなかったら立てなくなるというイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。そのイメージとは反対かもしれませんが、まず最初に、背骨は棒のように固い物ではなく、ひものように柔らかいモノであるとイメージしてください。背骨というのは1本の棒ではなく、24個の骨が建てに並んでいるだけで、真珠のネックレスのようなイメージが近いです。
先程、背筋を伸ばすなと言いましたが、多くの人は背骨ではなく筋肉で立っているのです。これだと身体全体をドラム缶のように固めてしまうので、動きを著しく制限してしまいます。本来、身体を動かすために使う筋肉を、姿勢を固めるために使うというのは、非常に非効率的と言えるでしょう。では、やわらかい背骨をどうやって軸のように安定させるのかと言えば「引っ張る」のです。ひもを上下にピーんと張った状態になれば、軸として姿勢はピタッ維持できます。背骨の骨と骨の間には、椎間板という平べったいゴムのようなものが挟まれています。ポイントはこの椎間板です。背骨の柔らかさと言うのは、背骨と背骨の隙間、つまり椎間板にあるのです。だから、柔らかい背骨を軸のように強くするためには、この背骨の間をなるべく引っ張って拡げればよいのです。人間は年を取ると身長が低くなりますがこれは決して骨が縮んでいるわけではなく、骨の隙間にある椎間板が狭くなってきたからなのです。この隙間が狭くなれば椎骨同士がぶつかり合うので、背骨全体の柔らかさが失われ、可動域が狭くなってしまいます。
背筋を正しく伸ばすトレーニング
立った状態(座ってもOK)で、背骨を思いっきり伸ばして引っ張ってみましょう。最初は、背骨だけでなく上半身全体に力が入ってもOKです。背骨をしっかり伸ばす力をだしたまま、息を吐きながら肩の力を抜いてください。最初は肩の力を抜くと、背骨を引っ張る力も緩んでしまうと思いますので、もう一度、上半身に力を入れてさらに伸ばします。背骨を伸ばしたら、また肩の力を抜きます。これを繰り返してトレーニングしていくと、段々と肩の力を入れずに背骨だけを伸ばして引っ張るという感覚が分かってきます。背骨を引っ張る力と言うのは、背骨に近い所にある筋や靭帯に力を入れて引っ張るという感覚です。そのため、姿勢を正すというのは、背筋を伸ばすのではあって、背筋を伸ばすのではないということなんです。
注意点:背筋を伸ばすときに、腰や下半身などが緊張しないようにします。これをやると、かえって緊張によって腰椎や仙腸関節などの関節がせまくなってしまいます。
良い姿勢を保つためには背筋ではなく、背筋を伸ばす感覚を身につける
画像引用:なみあし身体研究所
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