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2日間で500冊売れた『Fuzoku実践入門』 著者に聞く売れる電子書籍の作り方

個人での出版であるにも関わらず、Amazonの電子書籍Kindleストアのランキング上位に入った『Fuzoku実践入門: 裏打ちされた知識で正々堂々とデビューする。プログラムの入門書に似せた表紙がネット上で話題となったこの本の著者・村雨秋乃さんは、都内のIT企業で働く30代の会社員だという。

今回は本人に会い、どのようにしてこの本が生まれたのかを聞いた。

■「行きたい」とは思わないが「知っておきたい」欲望を刺激

――『Fuzoku実践入門』は現在、どれくらい売れているのですか。

村雨秋乃さん(以下、村雨):この2日間(11月11~12日)だけで500部以上売れました。当初の販売目標が300部だったので、それを達成することができました。

――どのような経緯でこの本を出版することになったのですか。

村雨:春ごろからソフトの解説書や小説を書いており、電子書籍として出版することを考えていました。しかし、電子書籍を購入するのはIT業界の人が多いのではと思い、彼らをメインターゲットした本が作れないかと考えるようになったのです。

そのなかで、自分が書けるものかつ売れそうな題材を考えたとき、「風俗店」について技術書のように書いたら面白いのでは? と思いつきました。

――勝手なイメージですが、IT業界の人はあまり「風俗店」に行かないような気がします。

村雨:行かないと思います。『Fuzoku実践入門』を読んだからといって「じゃ、風俗に行ってみるか」とはならないのではないでしょうか。ただ、IT業界に多いオタク系の人たちは知識欲がハンパないんです。つまり、「行きたい」とは思わないけど、どんなところか「知っておきたい」とは思う。そんな要望に応えられるものが作れると思いました。

――これまでに電子書籍を出版した経験は?

村雨:ありません。電子書籍を出そうとした時点ではKindleも持っていませんでした。ただ、紙で出版されている本に携わった経験があります。そのときの編集者は「こんな細かいところまで書き直しさせるのか!」とイヤになるほど厳しい方でしたが、今回の執筆・出版にはその経験がとても役立ちました。

書き始めてから出版するまで約2ヶ月。執筆にかかれるのは週末だけだったので、実質10日間ほどで書き上げたことになります。

――風俗店への“取材”にはどれくらいの費用と時間をかけたのですか。

村雨:実は「風俗店」を利用し始めたのはここ数年のことなので、期間としてはあまり長くないと思います。それでも費用としては50~100万円弱かかっています。風俗の入門書を書くと決めてからは、5万円以上のいわゆる「高級店」もチェックしておかなければならないと考え、実際に行きました。それも複数の店を見なければ意味がないとので、この数ヶ月は出費がかさみましたね。

内容に関しては自分自身の経験と、知人やお店での女性従業員との雑談から得た情報などをもとにしています。「性感マッサージ」の章を書くにあたっては、なじみの整骨院の先生に事情を話し、関連する法律について教えてもらいました。

――『警察白書』などの資料にもとづく記述もありますね。

村雨:私もこの本を書くまで知らなかったのですが、『警察白書』は警察庁のサイトで公開されているんです。そこには風俗店の業態や店舗数に関する情報が記載されている。考証として使えるものを探していたので、これを見つけたときはガッツポーズをして読み漁りました

また弁護士などの法律家がサイトやブログで風営法について触れているものがあったので、それも参考にしています。

■最後まで注力したのは「目次」

――プログラムの技術書のようなタイトルと表紙は、どの時点で考えついたのですか?

村雨:作業の終盤になってから悩んだ末に決めました。当初のタイトルは『性風俗実践入門(仮)』だったのですが、知人に見せたところ「直接的すぎる」「SNSなどで知人に紹介しにくい」という意見が返ってきました。ならば「ノリでリツイートしやすい」もので「内容が確実にわかる」タイトルにしよう、と。しかしこの2つは矛盾しているので、難しい問題です。

そこで改めてプログラム関連の入門書を見てみると、『GitHub実践入門』とか『Jenkins実践入門』という風に、アルファベットと漢字が組み合わせからできている本が多いことに気づきました。そこで「風俗」を「Fuzoku」と表現することにしたんです。これならtwitterに流れてきてもパッと見では分からないけれど、読んでみると偽りなく風俗だと書いてあるのでぴったりだと思いました。

――執筆するうえで心がけたことは?

村雨:やはり入門書なので、私情を入れないことです。実は、最初に書き上げた時点では私的な感情が多く入っていたんです。しかし自分で読み直してみたときに「遊び要素」は入れないほうがいい、書籍としての価値があがると判断して削りました。

唯一残っている「遊び要素」は、各風俗ジャンルを紹介する際のパラメータ図です。これは『ジョジョの奇妙な冒険』でスタンドの強さを表すパラメータを意識して作っています。

そうやって本文を2稿、3稿と書き直したのち、組版(レイアウト)作業に数日をかけ、さらにIllustratorで表紙を作って、最後に目次を書き直しました

――目次を最後に書き直したのは、なぜですか?

村雨:書籍を評価してもらう上で、目次が重要だと考えたからです。本文もそうですが、特に目次は読んですぐに内容がイメージできるよう、何度も練り直しました。文章については、作家・北方謙三に憧れている部分があります。とにかくわかりやすいですよ。

――プロモーションはどのように行ったのですか?

村雨:まず「はてなブログ」にブログを用意して、制作終盤の模様を公開しました。ここでは、怪しくみられがちなテーマの書籍であるだけに、そういったイメージを払拭するためにも組版の際に使ったツールを紹介したり自分が詰まったところについて触れたりと、ひときわ真面目に書いています。

書籍イメージの向上とギャップの面白さを武器にして、twitterやはてなブックマークといったSNSでの拡散を狙っていきました。

――今回は「はてな匿名ダイアリー」への書き込みで一気に火がついたと思うのですが、どう思われましたか?

村雨:誰もがそう思って作品を作っているのだとは思いますが、私も内容に自信を持って出した作品なので、一度でも公衆の目に触れられれば、注目を集めてくれると信じていました。

小学生のとき、クラスで突然あやとりのような何でもない遊びが流行することってあったじゃないですか。ネタを仕込めるだけ仕込んで、あとはあらゆる手を使って火をつける。私自身、ああいう遊びを広めるのが得意だったんですが、それと同じ感覚でやっていました。

表立って感想を書きづらい内容なので、はてな匿名ダイアリーで注目を集める結果となったことは、ある意味で自然な流れだと感じています。目にとめてくれた増田さん(匿名の書き込み者)と、@Hamachiya2さんには感謝しています。

――ネットで話題になっていくのを見て、どう感じましたか

村雨:ひとつは、村雨秋乃というネット上で生まれたばかりのパーソナルであったとしても、上質なエンターテイメントを提供すれば、ある程度の結果を生むことが証明できたかと思います。

また結果が出るまでの期間についても、twitterの登場によって驚くほど短縮されるようになったことに深々と感心しました。

今回の件で自己発信の面白さを改めて感じたのですが、企画さえ確かであれば、路傍の石であったとしても面白いことができる世の中なので、私自身まだまだこれからだとは思っていますが、少しでも参考になれば幸いです。

■「紙の本でも『Fuzoku実践入門』を出したい」

――今回の本で「こうしておけば……」と思う点はありますか。

村雨:海外の情報に触れたかったですね。書き始めて1ヶ月ほど経ったときに「11月1日に出そう」と決めていたので、時間的に厳しかったのと、それほど多くを見ていないというのが入れなかった理由です。それでも何も知らない人には役立つものが書けるとは思うのですが。それと、性病についても記載したかったですね。このシリーズで続編を作ることになったら、それらについても書こうと思います。

――今後の活動で、決まっていることは?

村雨:まずはこの『Fuzoku実践入門』を紙の本で出版したいと考えています。これから出版社に持ち込むつもりでいます。また、小説などのフィクションを出版したいとも考えています。会社での仕事も嫌いではないのですが、自分が楽しめないと意味がないですし、他の人でもできるものは、他の人に任せてしまいたいんです

――では、せっかくなので最後に良質な風俗店の見分け方を……。

村雨:新宿・歌舞伎町近辺のお店を利用することが多いのですが、これは初めて使ったお店がたまたま歌舞伎町にあったからです。その店は予約のときの電話応対がとても丁寧で、サービスも充実していました。一方、電話の対応が雑な店はサービスもいい加減になるところが多いように感じています。つまり、予約時点での電話対応で、店の良い悪いを見分けることができます

(了)

※2014年11月13 18:00 一部追記しました。

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