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カリグラフィーのお道具の歴史


カリグラフィーは、ペン軸とペン先、紙とインクというシンプルなお道具があれば始められます。ペン軸にペン先を取り付け、インクを付け足しながら書きます。

紙の歴史は今から約5000年前に遡ります。古代エジプトで草木の繊維を重ねて作るパピルス紙が発明されました。パピルス(PAPYRUS)は英語で紙(PAPER)、フランス語で紙(PAPIER)の語源となっています。
パピルスと同様に使われていたのが羊皮紙です。動物の皮を加工して筆写の材料としたもので、古代から文学や神聖な文書の筆写に使われてきました。羊皮紙は高価だった為、パピルスは手紙や下書きのような日常の書き物によく使われました。
パピルスは中国から紙の製法が伝わるとやがては生産されなくなりました。

紙は1264年、アジアからシルクロードを通ってヨーロッパにたどり着きました。
滲み防止にデンプンを使っていたためにヨーロッパの気候には合わず虫食いにあってしまいました。その代わりに開発されたのが、動物の皮を煮込んで出たゼラチンを使った紙です。
使い古した布を叩いて細かい繊維にしてから紙にするまでの工程は1800年まで機械が発明されるまで手作業で作られていました。
現在では色付きの紙、質感が違うもの、など沢山の選択肢があるので書き味を試すのは楽しい作業です。
カリグラフィーに適しているのはなめらかな紙です。練習用には80g程の薄い紙を使えば、下敷きのガイドラインが透けて見えていちいち線を引く必要がありません。
作品用には重さ250g, 300gの水彩画用の紙などが書きやすいです。
艶のある紙はインクがはじくことがあり、コットン紙は滲む可能性があります。

インクは昔から使われているクルミの殻を煮立たせて作られたものが滲まず細い線が出ます。
その他瓶入りのインクは微妙なニュアンスの色合いが揃っています。その他、ガッシュ(不透明水彩絵の具)、水彩絵の具、固形顔料は筆で水と混ぜ、ペン先に付けて使います。

つけペンの道具は、昔は葦というイネ科の植物の茎を使っていました。
6世紀頃からより柔らかい鳥の羽根が使われるようになり、ヨーロッパでは
よく知られた伝統的なペンです。
ガチョウ、カラス、雄鶏、アヒルの羽根が細かい書き込みに使用され、ハゲタカとワシの羽根が幅広い線の書き込みにと使い分けされていました。
羽根ペンは使っているうちに先が柔らかくなり、頻繁に削ることが必要になります。
19世紀半ばまで、ガチョウの羽の販売はヨーロッパの重要な産業でした。主な生産国はポーランド、リトアニアでした。1830年にイギリスは2400万羽、ドイツは5000万羽を輸入しました。イングランド銀行だけでも年間150万羽の羽を使用しました。
当時の学校では平均1人1日2本の羽根ペンを消費していたそうです。

その後1830年頃に消耗の早い羽根ペンに代わって耐久性のある金属製のペン先が発明され世界に出回ります。ペン先の幅が細いものから太いもの、様々な形のペン先が工場で作られました。
私達は4年前に16000個のヴィンテージのペン先を買い取りました。昔のペン先は丈夫でしなやか、とても書きやすいものばかりです。

1950年ごろになるとボールペンや万年筆が徐々に普及していき、金属製のペン先は使われなくなっていきます。

お店で年配のお客様とお話する機会があると、「私が子供の頃は学校の机にインク壺が設置されていて、毎朝インクが足されてあなたが今書いているようにインクを付けて書いていたわ」とお話を聞かせてくれます。

現在のフランスの小学校ではノートを書くのに万年筆が使われています。それ以前の書き方を知らないフランスの子供たちですが、みんなカリグラフィーを見て興味を持ちます。
ペン先をインクに付けて書く、細い線と太い線の強弱がコントロールできるペン先は万年筆にはない特徴です。

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