【エッセイ】ただのダメンズの話
美女というのは、こちらの準備ができていない時に限って現れる。クリスマス会で和気藹々してる中、女子グループの席の中でちょこんと美女が座っていた。
周囲の平均より明らかに飛び抜けた才能が現れると、その環境バランスは崩壊しやすい。男どもは示し合わせた訳ではないにも関わらず美女に話しかけられない。
(声かけていいんだろうか…?)
(誰も声をかけないぞ…?)
(ていうか、こんな人今までいたか?)
冴えない男たちの心の声が聞こえてくる。かの私もそのうちの一人だ。私は今まで一緒に活動してきた社会人サークルメンバーと「お疲れ様でした!」と言いながら(お酒が飲めないので)オレンジジュースを口の中に流し込むノリで来ていた。困った、心が追いついてこないぞ。この緊張感の中、私は子供の頃を思い出していた。
★★★
ぼくはゲームボーイを両手で持ち、十字キーを操作しながら画面に表示されるマップを移動していた。私は当時ポケモン青にハマっていた。ぼくは「ひでんましん03」を探すためサファリゾーンを右往左往していた。どこに行けばひでんましんゲットできるんだろう?攻略本の存在すら知らずにあちこち行ってはきた道を戻るということを繰り返していた。
突如、草むらの中からクワガタポケモン「カイロス」が出てきた。今となってはネタキャラと化したが、当時のカイロスは出現率が低く「捕まえることに価値がある」とぼくは洗脳されていた。
最低でもカイロスにサファリボールを一度はぶつけるべきなんじゃないか。いや、ここは石を投げて怒らせるのも大事かもしれない。
悩んだ挙句、ぼくはカイロスにエサをなげた。カイロスはエサを食べている。カイロスはにげだした。ぼくはサファリボールを投げなかったことを後悔した。
★★★
今度こそ、美女にサファリボールを投げないとダメな状況なんじゃないか?今私の前にあのときのカイロスのような美女(?)がいる。しかし、私の周りにはお世話になったメンバー達がいて、こちらと話してるのも非常に楽しい。カイロス美女は取り分けてきたエサケーキを食べている。私は完全に既存メンバーに捕まってしまいボールを投げれない。
少し時間が経ち、カイロスが席から立ち上がった。どうやら用事があるらしく先に帰るらしい。私はサファリゾーンでボールを投げることもせず、ただただカイロスの生態を観察していただけだった。
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