【エッセイ】真向かいに座った男

昨日の帰宅途中、私の座席の真向かいに男が座った。特徴は特にない普通の男だ。四人で二人並びに向かい合って座るタイプの座席だったので、男との距離は近かった。

男が急に慌ただしく鞄からA4用紙を一枚取り出して何か書き始めた。ちょっと気になって覗いてみると、5線と音符が書いてあった。きっと良い旋律が急に思いついたのだろう。

アイデアが急に降ってくるというのはよく聞く話だけど、それをちゃんとメモしている人を私はあまり見かけなかったので新鮮だった。しかも楽譜は珍しい。一体何の仕事をしてるんだろうか。音楽関係だろうか、それとも趣味で作曲してるんだろうか。この楽譜をこの先どこかで耳にする事はあるんだろうか。例え聞いたとしても、私はあの時の曲だと聞き分けはつかない。

真向かいの男は作業が完了すると、楽譜を鞄にしまい、虚空を見ながら特に何もすることなく電車の座席に座り続けた。楽譜を書かなくなった途端、男はただのくたびれたサラリーマンに変貌した。

私は前に「人は見た目が8割」という本の広告に目にしたことがある。

私は「見た目に騙される人が8割」なんじゃないかとおもう。


今日は記事を読んでいただきありがとうございます。

身だしなみが大切なのは言うまでもない。

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