【エッセイ】黒い何かとの早さ比べ

まさかこの歳になって早さ比べするとは思わなかった。

最近装置試験のためテレワークではなく会社へ出勤している。そのため私はいつもの通勤路を自転車で進んでいた。いつもと違うことと言えば(朝寝坊したことによる)午後出勤だった。普段なら寝ぼけ眼を擦りながら出勤していたが、今日は周りを見る余裕があったのかもしれない。

林の中の舗装された道を線路に沿って左折し住宅街へ抜け出したとき、花壇の中から突如黒く小さな物体が飛び出した。その物体は私の自転車の周りを飛び回った。私は目を凝らした。

それは蝶だった。

一生懸命蝶が小さな羽を羽ばたかせている。邪魔だなあ。

まだついてくる。蝶はその内自転車と並走するかのように飛び始めた。

私はうっとうしいなあと思っていたがふと気になった。

何故ついてこれる?

この道は直進すると駅に着く。駅に着く途中で左折することができる角が一つあるが、その先はだだっ広い公園くらいしかないので曲がる人はほとんどいない。そのためこの道を通る自転車の大半は真っ直ぐ突っ切ることになる。

この蝶はもしかして自転車の行動を予測してるんじゃないか?まるで蝶が語りかけてくるようだった。「お前もどうせ真っ直ぐ行くんだろ?勝負しようぜ。」

この蝶、おそらく前世は鈴鹿サーキットでとばしてたに違いない。なら私も勝負しよう。私は高校まで足が速い方の部類だった。蝶なんぞに負けてなるものか。いざ勝負!私はギアを上げようとした。

勝負は一瞬でついた。

蝶は私がギアを上げる前に自転車の車輪の鼻先の距離にある花壇に駆け込んでいった。花壇までの距離は蝶の方が僅差で早くついた。蝶にとってはそこがゴールだったんだろう。蝶が背中で語っているような気がした。

「オレの勝ちだな。お前はいつも本気を出すのが遅いんだよ。」

私は蝶に勝ち逃げを許してしまった。

これからはあの道を全速力で漕ぐことを心に誓った。


今日も記事を読んでいただきありがとうございます。

一寸の虫にも五分の魂があるんだなとしみじみしながらこの記事を書きました。

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