【エッセイ】夜の新幹線とその乗客

予約した新幹線の時刻に間に合うか間に合わないか程度に残業したこともあり、私は夕飯を食べ損ねた。現在22時23分。この時間になると食べるのも面倒になる。

この時間帯の新幹線指定席は必ず一人はキセルを見かける。今日も私が近づいただけで席を移動した女がいた。この時間帯の新幹線は本数が少ない分、自由席が混雑してしまい、早めに行かないと座れないこと必至だ。一方で指定席券を購入する人は少なく多くの席が空いている。

私の予約した席の隣には体格の良い初老が私の席に荷物を置き、思いっきり椅子を倒して一人晩酌を楽しんでいた。この時間帯の特権と言っても良い。

「君どっち?窓?真ん中?」

「真ん中です。」

初老は私の席から荷物をどかし、私は席に座った。隣からビールの匂いが鼻の奥を刺激した。この匂いも最早懐かしい。2年前から酒を絶って以来酒の匂いを嗅ぐと、昔よく遊んだ友人と会ったような感覚になる。

見廻の車掌さんが入ってきた。キセルの女は身を縮こませている。車掌さんが私に話しかけた。

「こちらに荷物を置かれてますか?」

私が特大荷物車両に置いているダイビングバッグを指差しながら聞いてきた。私が座っている席がB席にも関わらず、D席の後ろに置いてあるのが気になったようだ。B席の後ろは隣のビール男の荷物がA席とC席に跨って置かれている。

「はい、置けないので。」

何か問題でも?という態度が出るように私は語気を強めていった。

「あっ、でしたら大丈夫です。ありがとうございます。」

車掌さんはそのまま蜻蛉返りして車両を後にした。キセル女の背筋が少しばかり丸くなった。

私は車窓を眺めた。相変わらずこの時間帯はどこを走っているかわからない。隣の男は目を閉じて聞き分けの良い子供のように寝静まった。


記事を読んでいただきありがとうございます。

note書いてたらお腹すいてきました。

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