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日曜マーケットにて

この辺りの観光シーズンは冬季、10月下旬頃から4月中旬頃、寒い地域に暮らす人々が温暖な気候と一年中海水浴可能なビーチを求めてやってくる。この季節は毎週曜日ごとに各地でファーマーズ・マーケットが開催される。日曜日はLa Cruz de Huanacaxtle(ラ・クルス・デ・フアナカクスリ)という港町のマリーナ沿いに様々な業者がテントを張って商売を繰り広げる。

昨日は夫と久しぶりにこのラ・クルスのマーケットに行ってみた。最近日毎に車の量が増してどこに行くのも渋滞覚悟だが、日曜日しかもイースター・サンデーだった昨日は、比較的交通量が少なく、せっかちな夫もさほどイライラすることなく現地に到着した。

画家のヒロさんと初めて知り合ったのもこのマーケットでだった。一年ほど前のある日曜日、いつものようにマーケットの中をぶらぶら散策していると、「あれは日本人じゃないか?話かけてみろ。」と夫が言うので彼の目線の先を追ってみると肩まで伸びた白髪の小柄なアジア系男性がスツールに腰掛けていた。「日本人の方ですか?」と問いかけてみると、穏やかに「はい、そうです。」との答えが返ってきた。この地ではアジア系ましてや日本人に遭遇することは非常に珍しい。お互い簡単に自己紹介をして連絡先を交換した。ヒロさんはメキシコ在住23年の画家で、一年の半分をメキシコ南部のオアハカで、残り半分をこのメキシコ中部バンデラス湾近辺で過ごしている。自然の中での極めて質素な暮らしを守り、毎日カンバスに向かって思いを絵具に託して過ごしている。数回我が家に夕飯を食べに来てくれたこともあるし、ヒロさんの野性味溢れる野外アトリエで直火調理の焼き魚を振舞ってもらったこともある。食後に寛いでいると野生なのか家畜なのかわからないが山羊の群れが目の前をぞろぞろ横切って行った。昨日もヒロさんはいつものように自分の作品に囲まれてスツールに腰掛け我々を迎え入れてくれた。他愛もない会話を交わした後我々は「後でまた寄りますね。」と言い残しマーケットの奥に進んだ。

前回このマーケットに来た時にはカナダ人のマークとも再会した。マークは以前ヴァジャルタの街中でTornillo Suelto(トルニーヨ・スエルト:緩んだネジ)という便利屋を営んでいた。カナダで定年退職するまで機械工として働いていたマークは得意の機械修理サービスを提供して得た収入を年金の足しにして暮らしていた。こちらに移り住んできたばかりの頃、長年夫が愛用してきたラ・パヴォー二というイタリア製のエスプレッソメーカーの調子がおかしくなりマークのショップに駆け込んだ。それを機にその後も機械関係のトラブルに遭遇するたびマークに相談に行った。知り合ってしばらくして、店番にチャーミングなメキシコ人の女性が立つようになり、マークはその女性と恋仲になった。店の方は家賃に見合う収入が得られず、彼は知り合いのパン屋を手伝うようになり、結局便利屋は畳んで、パン職人に転向してしまった。前回このマーケットに来た時彼は例の彼女と共にパンの販売をしていた。昨日もマークと再会して彼の焼いたパンを購入することを期待して探したが、見当たらず。彼が働いていたパン屋は店を出しており、別の男性が販売に携わっていたので「マークは?」と尋ねたところ「マークはガールフレンドと何らかのいざこざがあってどこかに行ってしまった。」との答えが返ってきた。夫はその場でマークに電話をかけてみたが繋がらず。どこかで無事に暮らしていることを願う。いつかまた別の形で再会できることも。

昨日のマーケットではまたもや夫にけしかけられ、日本人らしい女性に声をかけた。彼女の名前はタカコさん。整体及びアーユルヴェーダをベースとしたセラピーを提供している。マーケットでは15分程度のお試し的な簡単なセッションを提供しており彼女のブースにはひっきりなしにトリートメントを希望するお客さんが詰めかけている。以前も彼女をマーケットで見かけてはいたもののいつも接客中だったため話しかけるタイミングを逃していた。昨日はたまたま彼女が一人のところに出くわし話しかけることができた。彼女は私或いは夫に何らかの不調があり彼女のトリートメントを希望して話かけたと勘違いしたらしく、私はただこの地で同胞に遭遇することが珍しいから声をかけたのだとは言いそびれ、何とも曖昧な表現でもって会話はぎこちない形に締め括られてしまった。こういう状況にて変に遠慮して却って失礼な対応をしてしまうのが私の悪い癖。さて、彼女とは更に交流を深めることになるのだろうか。

マーケットの一番奥には暖かい食べ物(クレープ、パエリヤ、タコス、ブリトー、ギリシャ風ピタパンのサンドイッチ、プルドポークサンド、等々)を提供する店が集中し、真ん中には簡単な椅子とテーブルが設置されちょっとしたフードコートをなしている。昨日は我々は新鮮な野菜がふんだんに挟まったヴィーガンサンドとフレッシュジュース、私はケール、夫はマンゴーで超健康的なランチを選択した。

自分たちが食べたのと同じ野菜サンドのハーフサイズをヒロさんに差し入れし、また近いうちに彼の事務所(彼はプンタ・デ・ミタという海辺の街のカフェにて毎朝コーヒーを飲み、ネット環境を利用し、絵を数点展示までして、事務所代りにしている)に顔を出すことを約束し、マーケットを後にした。


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