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カルロス・サンタナとの出会い

数年前から夫が開発を進めているゴルフ関連アプリはいよいよ完成間近となり、仕上げに表題のカルロスに助けを求めることとなった。言わずもがな、あのカルロス・サンタナとは同姓同名の別人。

カルロスとは昨年メキシコに来て間もない頃に知り合った。というよりも何事も自力で調べて解決する主義の夫がググって見つけたプエルト・ヴァヤルタ在住のサウンドエンジニア。件のアプリはゴルフスウィングのタイミングを調整するためのもので「音」が肝。よって、サウンドエンジニアの助けが欠かせない。

Sound engineer near meとググって出てきた電話番号に早速電話してみたが返答なし。メキシコでは良くあること。しかもスペイン語ができない我々はいきなりスペイン語で捲し立てられても困るので電話が繋がらない方がむしろ好都合。直接目の前で身振り手振り意思表示した方が話が早い場合が多い。というわけで、我々はカルロスのスタジオがあるはずの住所に出向いた。これもメキシコでは良くあることなのだが、ネット上で見つけた商業施設はめったに公表されている住所に存在することはない。グーグルマップでは目的地に到着と表示されていても目的の店名、表札、商号はどこにも見当たらず、近所の人に尋ねても首を傾げられるだけというケースが非常に多い。

カルロスのスタジオ所在地は住宅と商業施設が混在する下町的なエリアにある。ネットに公表されている住所に出向き、スタジオがあるはずの番地の近くに車を停めた。一見普通の住宅に見える建物の玄関から「Hola!(スペイン語でこんにちは)」と呼び掛けると奥から穏やかな表情の70歳代と思しき女性が出てきた。「Carlos Santana? ProSantana(スタジオ名)?」と問いかけると「Si, Si,なんちゃらかんちゃら」とスペイン語で答えながら鍵がかかっていた玄関の鉄格子を開けて中に通してくれた。入ってすぐの部屋は待合室として使われているようでソファが2台しつらえてあった。彼女はソファを指さし座って待つよう我々を促した。10分ほど待った時点で奥の部屋から女性一人と男性二人が登場し、その内の一人がクライアントの男女を見送るために出てきたカルロス本人だった。メキシコ人にしては珍しい185センチほどの長身に頑丈な体躯、人懐っこい表情の男性に「Are you Carlos Santana?」と問いかけてみると「Yes, I am Carlos.  My friends call me Charlie.  Please call me Charlie too(はい、私がカルロスです。友達は私をチャーリーと呼びます。あなたも私をチャーリーと呼んでください)」と笑みを浮かべた。彼が英語を話せることを確認できたので安心し、手短に我々の要望を彼に伝えた。彼は「今から子供を学校に迎えにいかなければならないのでここで30分ほど待っていてもらえますか?」と済まなそうに尋ねた。じっと座っているのが大嫌いな夫は「では、我々も一旦外にでて30分ほどしてから戻ってくる。」と言い我々もその場を離れた。我々は30分近所を散策した後カルロスの元に戻り、今回は待合室の奥にある個室に通された。夫はカルロスに依頼したい仕事の内容を説明し、カルロスは即座にコンセプトを理解して目の前にあるシンセサイザーを使って「こんな感じでしょうか?」とサンプルの音を奏でてくれた。夫はカルロスの勘の良さに大喜び。その日はお互い時間切れだったので、後日詳細な打ち合わせの時間を設けることにしてその日はカルロスの元を後にした。

それから電話やsmsで連絡を取り合いながら打ち合わせの日程の調整をしたが、お互い同意したはずの日時にスタジオを訪れてもカルロスにはすっぽかされるか或いは別のクライアントを優先されるかの扱いを受けた。直接問いただすと真摯に謝罪をして来週はどうだと別の日程を提案される始末。ようやく一回スタジオで数時間セッションを行うことができたかと思ったら次回からは元の木阿弥。挙句の果てには連絡してもなしのつぶてという状況に陥った。

カルロスは当てにならないと判断し、それからの1年なんとか別のサウンドエンジニアを見つけてプロジェクトを進めた。しかしここ数カ月、最終段階に入ってからどうしても夫の納得のいく音が確立できずに思い悩んでいた。

新居のための家具を注文するため訪れた家具職人の仕事場がたまたまカルロスのスタジオの近所だったので、気まぐれな夫は「せっかく近所に来たんだからカルロスに会ってみよう」と言い出した。その日は運よくほとんど待たされることなくカルロスと直接話をすることができた。カルロスは素直に一年前のことを詫び、当時の自分の困難な状況、父親の死や払いの悪いクライアントに振り回されて経済的苦境に立たされていたことなどを語った。更に、彼はそれらの状況を自分で招いていたことを認め、今は信頼できるクライアントからの仕事のみを引き受け、しっかり支払いを要求することも覚えたと語った。今なら精神的余裕が得られたので我々の仕事も引き受けられるとも。我々はその場で次回打ち合わせ日時を決めてその日は別れた。

1年を経て再チャレンジすることとなったカルロスとの共同作業の初日、約束の火曜日午前9時半に我々はスタジオの待合室に到着していた。カルロスのアシスタントは「カルロスは間もなく到着します。」と落ち着いた様子で我々に告げた。しかし、30分経過してもカルロスは現れず。夫は「やはり、同じことの繰り返しか?」と段々弱気になり、「あと5分待って来なかったら帰ろう。」と言い放った。運よく5分以内にカルロスは到着し、子供が前日から体調を崩してその面倒をみていて遅くなったのだと説明しながら我々をスタジオに通した。その日のセッションは順調に進み、1週間ほどした時点で再度詰めようということになった。

本日がその1週間後の詰めの日だった。午前10時の約束だったが、9時半頃にカルロスから「申し訳ないが20分ほど遅れる」とsmsが入った。我々は「了解。それでは我々は10時30分頃に行く」と返した。実際に10時31分に到着してみるとカルロスは既にスタジオ内で我々を待っていた。本日のセッションも順調に進み、再度来週最終打ち合わせをしようと言って今日のところは別れた。

とりあえず、1年後に再会したカルロスは以前よりも当てになりそうだ。
が、油断は禁物。

Es Mexico.  Hasta la proxima!


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