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老犬を抱いて本の墓場を行く

そんな不思議な夢を見た。まるでゴミ捨て場のゴミの山のように、見渡す限り色褪せた古本が堆く積み上げられている中をブルブル震える老犬を抱いて歩いていた。犬種はビーグル犬だったと思う。老犬は私の腕を逃れて本の墓場を自由に歩き回りたがったが、私は犬を逃すまいと一層強く抱きしめた。ただそれだけの夢。その夢の中にいる間も目覚めた直後も澱のような冷たい哀しみを腹の底に感じた。

私は滅多に夢を見ない。覚えていないと言った方が正しいのかもしれないが、覚えていたとしてもすごく現実的なつまらない内容の夢が多い。例えば、ただ通勤途中の電車に乗っている夢とか、会社で取引先の担当者にメールを打っている夢とか、なんで寝ている時にまでわざわざそんな夢を見るのだろうといった内容だ。

最近になってようやく見なくなったが、大学の試験期間直前になって何の準備もできておらず、このままでは卒業できないと焦っている悪夢は数えきれない程繰り返し見てきた。目覚めた時に自分が既に大学を卒業できている事を確認し、そっと胸を撫で下ろす。

世の中にはかなり奇想天外な夢を見る人たちもいるというのに私の夢はいつもなんて平凡なんだろう。そんな中、昨夜の夢はなんだか詩的だったので嬉しくなった。

わかっている。
人の夢の話なんぞ犬も食わない。
それを言うなら夫婦喧嘩か。


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