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スマホを持たない潔さ

昨日ある友人と5年ぶりに会った。

待ち合わせ時間や場所について事前のメールのやり取りの最後に彼女はこう書いてきた。

「私は未だ携帯電話を持っていないので当日何かありましたら自宅の番号に電話をお願いします。待ち合わせ時間の30分前までは自宅におります。」

実に彼女らしくて嬉しくなった。

彼女とは30年近く前に同じ職場で働いていたのをきっかけに友達になった。当時我々の職場は京王新線の初台駅近くにあった。2人とも住まいが新宿から中央線を下った街(私が荻窪で彼女が国立)だったので毎日のように一緒に新宿駅まで歩いた。一駅分だけ京王新線に乗って新宿で乗り換える煩わしさよりも、その距離を歩いてしまう方が我々の性に合っていたのだ。

お互い職場が変わってからも彼女は律儀に年賀状を寄越してくれ、それに対して私がメールで返信しがてら「久しぶりに食事でもどうですか?」といった具合に関係は細く長く続いてきた。

彼女は20代の頃から身の回りに無駄な人や物を溜め込まない断捨離不要な生き方をしている人だった。それでいて見た目は決して無味乾燥な訳ではなく、おしゃれで笑顔がチャーミングな秋田美人だ。

5年ぶりに再会した彼女は相変わらず優しげなオーラに包まれつつ凛とした姿で立川駅改札前に現れた。

ランチを食べながらお互いの近況を確かめ合った。彼女はつい先日飼い犬を亡くしたばかり。その犬は保護団体から譲り受けた犬だったので、団体関係者数人に報告する内容のメールを送ったところほとんど誰からも反応がなかった。不審に思っているとそのうちの1人からようやく返信があり、最近は人との連絡はすべてLINEで済ませるからメールはほとんど見ないと言われたそうだ。携帯電話を持たない彼女はLINEのアカウントも持たない。仕方なく関係者には彼女の夫のLINEアカウントから改めて愛犬死亡の報告をしたそうだ。
「スマホでもメールのチェックはできるのに、それすらしなくなってしまったんですね。」
と不思議がる彼女。

彼女は家で仕事をしているのでPCと電話機があれば充分なのだ。たまに外出して電車に乗る時は本を読む。

スマホを持たないという彼女の選択は彼女の生き方を説明する上でわかりやすい特徴のひとつに過ぎない。自分にとって必要な物だけを選び取り、不要な物には手を出さないという彼女の生き方。俗物の私にはなかなか真似はできないが共感する部分は多い。こうやってたまに会って話をすると爽やかな心待ちになる。彼女が私との関係を断捨離しないよう願うばかり。

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