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英語のリスニングの勉強にもなる、本好きにはたまらないpodcast

私は本が好きだ。読書ももちろん大好きだ。更に、本屋さんや図書館など物理的に本がたくさん置いてある場所に身を置くこと、本にまつわる話を聞くこと、本を書いた人が自分の書いた本について語るのを聞くこと、本が出版されるまでの経緯について知ることなど、本の周辺のあらゆる事柄に興味がある。

以前、そんな私の趣味嗜好にぴったり寄り添ってくれるOtherpplというポッドキャストを毎週欠かさず聴いていた。当時片道1時間弱の電車通勤をしていたのだが、1エピソードが60分前後でちょうど良い長さだった。しかし、5年前に夫と共に海外で暮らす事を決めてからは通勤の必要もなくなり、ポッドキャストというもの自体まったく聴かなくなってしまった。

そんな中、一週間ほど前にインスタのフィードに私の大好きなエッセイストElisa Gabbertが新作Any Person Is the Only SelfをひっさげてOtherpplにゲスト出演したというポストが流れてきた。夫が今週から出張で不在になる予定だったのでその時に聴くのにちょうど良いと楽しみにとっておき、一昨日の夜聴いた。

このエピソードはYouTubeでも聴く(観る)事ができたので我が家の大画面テレビで楽しんだ。以前はスマホのポッドキャストアプリで聴いていたのでオーディオのみの放送だったのだが、YouTubeだと会話をしている二人の表情とあわせて聴けるのが新鮮だった。特にホストのBrad Listiが相手の話を聞いている時の真摯な表情がいい。

そもそもこのElisa Gabbertという詩人/エッセイストを知ったのも6年前に彼女がThe Word Prettyというエッセイ集のプロモーションのためこのポッドキャストに登場したのがきっかけだった。その時の二人の会話も面白かったので放送を聞いた直後に彼女の本を購入した。

OtherpplはBrad ListiというアメリカLA在住の作家が2011年に始めたポッドキャスト。既に900以上のエピソードがあり、全て無料で聴く事ができる。有名どころではGeorge Saunders(2回)、Min Jin Lee、Bret Easton Ellis、Hanya Yanagihara、Elizabeth Stroutなどがゲストとして出演している。その他インティーズ系出版社(?)から本を出しているさほど有名でない作家も多くゲスト出演している。有名な作家の話ももちろん興味深いのだが、無名の(少なくとも私にとっては)作家をこの番組を通して発見するのも宝探しのようで面白い。

13年間、週に一本のペースで発信を続けてきたBrad Listiという人に脱帽。各エピソードは約1時間ずつなので、実際のインタビューはそれよりだいぶ長めに行うのだろうし、それを編集する作業にもかなり時間を費やすだろう。彼は小説家でもあり、生計を立てるために別の仕事も持っているから三足のわらじを履いている事になる。彼は自分の作家としてのキャリアについてはある程度見切りをつけており(既に幾つかの小説は出版されているのだが)、このポッドキャストを自分を代表するライフワークと見做しているようだ。今回のエピソードの中で作家としての野心というトピックになった時にこんな事を言っている:

Let me put it to you this way; if Herman Melville did a literary podcast 150 years ago and was talking to Nathaniel Hawthorne or something, I would listen to that.  So maybe there'll be somebody listening to this 200 years from now.
例えば、もしハーマン・メルヴィル(代表作:白鯨)が150年前にポッドキャストをやっていてゲストにナサニエル・ホーソーン(代表作:緋文字)を招いていたとしたら僕はそれを聴くと思うんだよね。そう考えたら、もしかして200年後にこのポッドキャストを誰かが聴いてくれているかもしれないじゃないか。

Brad Listi on the Otherppl Podcast Episode #933 

ハーマン・メルヴィルとナサニエル・ホーソーンの喩えがピンとこない方は例えば夏目漱石がポッドキャストをやっていてゲストに森鴎外を迎えていたらと想像してみて欲しい。誰もが知る明治の文豪二人がどんな風に物語の構想を練り、どんなプロセスを経て作品を書き上げたのか、どんな本をこのんで読んでいたのか、どんなきっかけで作家を志すようになったのか等々、本人の口から語られている録音があったなら是非聴いてみたいではないか。

ここに取り上げる内容をピックアップしようと再度このポッドキャストを最初から視聴した。抜粋して紹介したい部分があまりにも多くて困る。

Elisa Gabbertが書くエッセイの多くは自伝的要素と文芸評論的要素を絡み合わせてから成っているものが多いのだが、文芸評論というトピックについて彼らはこのように語っている:

Brad:  My favorite thing as a reader of criticism is when the critic implicates herself in the work on a personal level, like gets into a book or a collection of work or whatever it might be but it also becomes like an autobiographical thing … If you're going to take the time to take apart someone else's work, there should be a little of you in there too.  You've gotta risk something yourself.
僕が読者として最も好ましく思う評論は評者が個人的なレベルで評論の対象と自身の関わりを示しているもの、つまりある一冊の本であれ作品群であれ、その対象との関わりに踏み込んで、評者の自伝でもありうるようなもの…時間をかけて他者の作品を分析するのであれば、そこに自分自身もちょっと入れるべき。自分もリスクを負うべきだと思う。

Elisa: It's risk and….it's just showing where I'm coming from.  And to me, it feels like the most natural thing in the world to be like 'This is who I was when I came to this book.'  I do feel that whole context of everything you have read until that point, every thing you haven't read yet.  There's this whole library of books that only you read them in that order from birth until death and any book you're reading and talking about as a writer comes somewhere in that order and it's deeply affected by where it lands in that order.  I like providing that context.  I think it matters.  I think it's just interesting, the specificity of who you are when you come to the book.
それはリスクとも言えるけど、ただ自分の考えがどこから生じているのかを明らかにしているだけとも言える。私にとってはとても自然なことなの。『この本を読んだ時の私はこんなだった。』と説明することは。その時点で既に読んでいた本とその時点ではまだ読んでいなかった本という背景を感じるの。私が生涯を通じて読む本をすべて網羅するライブラリがあって、生まれた時から死ぬ時までの間に私特有の順番でそれらの本を読んでいく。作家として書いたり話したりする題材になる本はその順番のどこかに位置する。そして、その順番のどこに位置するかに深く影響を受ける。私はその背景を読者に明らかにすることを好むの。それは意味あると思うし、その本と遭遇した時にその人が何者であったかという特殊性は興味深い事だと思うの。

Brad Listi and Elisa Gabbert on The Otherppl Podcast  Episode #933

Bradの発言には彼の物事を判断する上でのバランス感覚の良さが感じられる。批評するのであれば、自分自身を棚にあげることなく自分も土俵に上がれという意見は至極真っ当だ。彼は更にリスクヘッジをする批評家についても文句を言っていた。最初の75%は良いことを書いておきながら、残り25%でいきなり「でもね、。。。」と幾つかの欠点も挙げるような批評を指して。まるで自分は「こういうところもちゃんと見逃してませんよ」と自分が頭悪いと思われないように保険をかけているとしか思えない。そうなると読み手の僕としてははどう思ったらいいのかわからなくなってしまうと。

それに対してElisaの発言には彼女のユニークな物の見方が垣間見える。自分が今までに読んだ本とこれから死ぬまでに読むであろう本を全て並べたライブラリを想像する。しかもそれらの本が読まれた順番に並べてあったらその人のどんな事が見えてくるのだろうか。自分の周りの人たちが皆そんな書庫を持っていたら、是非覗いてみたい。その人が読んでいるもの、特定の本を読んだ時期と順番も実に興味深い。

ElisaもBradも兼業作家として少ない時間の中からどうにか書く時間を捻出して書き続けている。そこまでして書き続ける一番のモチベーションは何かというと読者からの便りだと、二人とも口を揃えて言う。

Three nice emails.  That's all it takes
3通の好意的なメール。それだけで十分。

Elisa Gabbert from the Otherppl Podcast Episode #933

If you read a book and you like it, even if the author is a "name" author, they will still love to hear from you if you write an earnest note of your appreciation
もし、ある本を読んで気に入ったら、たとえその本の著者が有名な作家であってもあなたの感謝の気持ちを真面目に込めたあなたからの感想をもらって大いに喜ぶでしょう。

Brad Listi from the Otherppl Podcast Episode #933

以前一度番組宛にファンメールを出したことがあるが、番組内で読み上げてくれてすごく嬉しかった記憶がある。

久しぶりにこの番組を聴いてインスパイアされたので、またファンメールを出してみようかな。


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