Blur "Think Tank"再考最高!

 光浦と大久保じゃない方のOasis(オアシス)ってご存知ですか?大ヒットした2ndアルバムは全世界で2500万枚を売り上げたモンスターバンドで、手っ取り早く言うとイギリスのミスチル。UKロック界の浜辺美波。日本でもまぁまぁの知名度を誇り、映画やアニメの主題歌やCMソングに起用されたり、ベスト盤のリリース時には近年の洋楽ロックアーティストには珍しく力の入ったCMが作られたりの特別待遇。コネ入社した専務の息子か?「ミュージックステーション」と「笑っていいとも」の両方に出演歴があるのなんてUKロックではOasisくらいのものでしょう。確実にタモリに抱かれてる。

 彼らの全盛期は90年代で、その頃のイギリスでは「ブリットポップ」というバンドブームがあったんですね。雨後の筍のように新人バンドがポンポン出てくる中で筆頭に立ち、ブームを牽引していた2バンドがOasis...…そしてBlur(ブラー)だったのです。彼らはメディアに煽られてライバルに仕立てあげられ壮絶なdis合戦を繰り広げていました。構図的には完全にミッチーとサッチー、江守徹と中尾彬、きのこの山とたけのこの里のそれ。要するにイギリスでは対等に渡り合うくらい2バンドとも馬鹿売れしてたんですよね。90年代当時は確かに日本でもBlurはそこそこ人気があり、武道館ライブまでやっています。ボーカルのDamon Albarn(デーモン・アルバーン)はめちゃくちゃ端正な王子様的ルックスで、アイドル的な人気もあったんですね。しかし時は経ち現代日本。Oasisは上記のように未だメディアで名前が挙がることがあるものの、Blurは皆無。目標、完全に沈黙ですよ。Damonの髪が目に見えて薄くなったのがいけなかったのか……?

 Blur、非常に良いバンドなんですけどね。何が良いかと言うと、馬鹿売れする抜群のポップセンスを持っていることもそうなんですが、「変化し続けるバンド」だという点が挙げられます。1st期、2nd〜4th期、5th〜6th期、7th期、8th期で全然音楽性が変わってる。メガリザードンより進化し続けてる。というわけで今回はその中でも7th Albumである"Think Tank(シンク・タンク)"についてのお話です。前置きがピカソのフルネームくらい長すぎる。

 この"Think Tank"は他のアルバムと明らかな違いが一つあって、それはギタリストのGraham Coxon(グレアム・コクソン)が脱退していることなんですね。このアルバムの前の5th〜6thアルバムではGrahamが音楽的主導権をかなり握っていたこともあり、ここでスピンアックスのコーナリングばりに大きく方向転換をせざるを得なくなりました。Graham主導の際はイギリスのバンドでありながら、かなりアメリカに寄った音作りをしていました。ここでそのGrahamが抜け、音楽的にイギリスに回帰するのかと思いきや、いきなりアフリカ〜アラブ音楽に接近。コーナリングが鋭角すぎる。ヘアピンカーブどころかほぼ針。

 初期に見られた「ひねくれポップ」とよく形容されるような楽曲は消え失せ、リズム主体のひたすらトライバルなトラックが多数を占めます。しかし、いくらアフリカ音楽に接近したと言ってもアルバム一枚全てをそれで塗り潰してしまわないところにセンスを感じます。一部でパンクロック的エレキギターを激しくかき鳴らすトラックが挟まれたり、何よりアフリカ音楽的なトラックでありながらもその上に乗る西洋的なメロディが滅茶苦茶メロウなのが際立っていて耳に残る。これまで培ってきたブリティッシュポップセンスとアフリカ音楽の融合。両者の良いとこドリップゴールドブレンド。100%アフリカ音楽ならオリジナル聴いた方が良いに決まってますからね。この時期のBlur独自の絶妙なバランスが癖になる素晴らしい出来栄えだと思います。初期には「こいつ大丈夫か?」ってくらいアッパーなテンションで高めの声で歌っていたDamonが、地声の良さを活かして落ち着いた歌い方主体になったのも最高。

 また、結果的にこのような隙間の多い「引き算の美学」的サウンドが、「ギタリストの脱退」を経験したバンドの寂寥感と怖いくらい合ってるんですよね。ボーカルのDamonとギターのGrahamは中学校からの幼馴染で、10年以上音楽を一緒にやってきた上での脱退ですから、切なさがハンパないんですよ。Stand by me ブラえもん。Sweet Song聴いてブラ泣きしろ。

 この一つ前のアルバムに"Coffee and TV"という名曲があるんですが、この曲はGrahamが作詞してるんですよね。一部歌詞を抜粋すると、

So we can start over again
Oh, we could start over again...

そして僕らはもう一度やり直せる
僕らはやり直せるんだ……

 "Coffee and TV" より

 オッ、やり直せるのか?

You ain't coming back
You can be with me
If you want to be
You can be with me....

君は戻ってこない
僕と一緒にいても良いんだよ
君が望むなら
僕と一緒にいても良いんだよ

 "Battery in Your Leg" より

 やっぱりやり直せなかったよ……。この"Battery in Your Leg"という曲は"Think Tank"のクロージングトラックで、何故かこの曲にだけGrahamは参加しているんですよね。それがリバーブのかかりまくったギターの音と共に一層寂寥感をかき立てます。曲の終わり、ピアノの音が切れゆき、ノイズが混じり、吐息で終わるのがまたニクい。「エモい」の一例として広辞苑に載せろ。

 以上見てきたように音楽的には申し分なく最高。更にこの素晴らしいジャケットは、このアルバムから切られたシングルも含めて全てバンクシーが手がけているんですよね。今みたいにオークションで馬鹿みたいな値段が付いたり都知事がはしゃいだりするずっと前、バンクシーなんて日本じゃヴィレッジヴァンガードに足繁く通ういけすかないサブカルクソオタクの一部しか知らなかった頃ですから先見の明が凄いし、バンクシーは他アーティストのジャケットなんて一切手がけていないので付加価値も付いてレコードが軒並み値上がりしてる。4〜10万とかアホか。ちなみに当時私はヴィレヴァンに通いSonic Youthのポスター買ってました。

 まぁバンクシーのことは置いておくにしても、Damonが手がけたもう一つのプロジェクトGorillazが世界中で大ヒットを納めた今だからこそ、その萌芽を感じられる最高のアルバム"Think Tank"を今こそ再考する時だと思います。橋本環奈もOasisよりBlurを聴け。今日からお前は!!Blurファンだ!!


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