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モトーラ世理奈ちゃんの沈黙と吉澤嘉代子さんの雪

渋谷パルコで、30分後にモトーラ世理奈ちゃんと吉澤嘉代子さんが朗読をするらしい。これは、なんか、行っといたほうがいい!と思いたち、急いで自転車を走らせ滑り込んだ日曜日の話。

パルコの8階より上にいくと、奥行きのある人間になれる気がする。THE BANDの映画を観に来ていた人たちとはなにか同志感のようなものを勝手に感じていたし、わざわざ10階まで登ってComMunEのカレーを食べながら作業している自分はスタバマック勢の何十倍も拗らせているのでは?と心配になる。実際、SUPER DOMMUNEで取り上げるテーマを見て「わぁぁあ!!!!」とぶち上がれる回は極めて稀で、守備範囲の狭さ浅さは否めないところである。

そんな私だったから、これまた憧れ素敵ライフスタイルメディアのshe isが、渋谷パルコでイベントをやるとなったら行かないわけにいかなかったのだ。たとえ気づいたのが開始30分前だったとしても。

ComMunEには、she is の世界観が好きそうな、気取りきらないけどちょっと小物こだわってる、みたいな女の子たちがたくさん来ていて、みんなどこから来たのか、普段何をしているのか、いろいろ話を聞いてみたかったけれど、そんな勇気はなく我慢した。

お待ちかねのモトーラ世理奈ちゃんはあまりにも顔が小さく華奢でお洋服がはちゃめちゃに可愛くて最高に似合っていた。生粋のファン!なんてことではまったくないのに、尊すぎてちょっと目が潤んだ。れもんらいふを舞台にしたテレ東のドラマ『東京デザインが生まれる日』の1話が流れていて、あぁ、自分たちの意志を世に表す人たちはやっぱりキラキラして見えるなあと思った。対談ゲストの初回はくっきー‼︎だったしキャストにジャルジャル後藤いるし、楽しみがとまらない。

モトーラ世理奈ちゃんが読んだのは、川上未映子さんの『愛の夢とか』から「アイスクリーム熱」というお話。いつもアイスクリームを買いにくる、無口な男性との、つかの間のやりとり。会うはずがないのに、街を歩いているときにふとばったり会わないだろうか、とか奇跡みたいな偶然を願う気持ちが切なかった。ぽつりぽつりと言葉を紡ぐモトーラ世理奈ちゃんの声が、線の細い色鉛筆で描いたみたいな情景を浮かび上がらせて、儚くて淡い気持ちは報われないまま忘れ去られてしまって、でも私の記憶にはずっと残るお話だった。

イタリアンミルクとペパーミントスプラッシュって大人っぽいな。ストロベリーとクッキーアンドクリームを毎回買う人だったらこうはなってなかっただろうな。

吉澤嘉代子さんは、いしいしんじさんの短編集『その場小説』から「雪」を朗読。イベントで、いしいしんじさんが、参加者の声や空気を拾いながら即興で書き上げたらしい。

吉澤嘉代子さんを生で見たのは初めてで、わあ!かわいい!ゆるふわ!と思ったが。朗読に入る瞬間、彼女の空気がすっ…と入り、空間もそれに合わせて引き締まった。

物語は、ファンタスティックプラネットみたいに過去か未来かわからないところに存在しているどこか遠い星で、聖書に出てきそうなピュアさと背伸びしたい人間ぽさが共存した素敵な話だった。「雪、雪、雪、雪、ゆき、雪、ゆき、雪、ゆき、ゆき、ゆき、ゆき!」と見上げるラストは、吉澤嘉代子さんが放つあどけなさと艶っぽさが両立していて、歌と朗読のエッセンスが重なる瞬間だった。

THE F1RST TAKEしかり、ライブパフォーマンスはプロの技量を最も容赦なく可視化させる表現手段だと思う。というかパフォーマンスなのかもよくわからない。その人が今何を考えて、その口から何を発するのか、それはその人に完全に委ねられていて、誰も編集してくれない、人の頭に残した記憶を消すこともできない。だから緊張感があるし失敗もする。でもミスはライブの醍醐味で、それを凌駕するほどにその人らしさが伝わってくるから、私はライブが好きだ。服の擦れる音とか息遣いとか、間とか沈黙とか震えとか、トリミングで消されてしまうような部分にこそ、その人の逡巡や迷いや決心が詰まっているのだ。

サービスエリアの詞は、she isの野村さんが経験した恋愛をもとにしたらしい。自分の大事な思い出が曲として送られてきたら泣いちゃうなあ〜と羨ましさも感じつつ、司会である野村さんのパーソナリティや吉澤嘉代子さんとの個人的繋がりが垣間見えたのもよかった。問答無用に集中せざるをえない空間に人が集まって、その場でしか味わえない締まった空気を感じて共有して。人のエネルギーをいっぱいに感じれた良い日曜日だった。

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