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クリスマスイブの夜に飛び降り自殺しようとした話。

今回は手でシコるお話ではない。私がホスト狂いだった時代の話である。

私がこの仕事を始めたきっかけは、ホストにハマった事だった。
当時まだ人妻で専業主婦だった私は、夜だけ知り合いのスナックで暇つぶし程度にアルバイトをしていた。そこで一緒に働いていた女の子たちと仲良くなり、ある日頼まれてホストクラブに着いて行った時にまんまと一人のホストにハマってしまい、元夫の単身赴任が始まった事も相まって2年半で約1500万を貢いだ。
1500万貢いだ話は、またいつか書くことにしよう。

そんなホスト狂いだった私は、一度だけ本当に飛び降り自殺をしようと思った事がある。

ある日、貢いでいたホストと連絡が取れなくなった。その頃は毎日毎日長時間出勤して、寝る間を惜しんで金をかき集める生活だった。毎日イライラして、精神が不安定で、ホストとしょっちゅう喧嘩をしていた。
そのホストは1月が誕生日の為、バースデーイベントを行う。私はそのホストにとって『エース』と呼ばれる一番の太客だったので、12月はイベントを成功させる為に必死に働いた。とにかくホストの為にイベントを成功させなければいけない、まとまった金が必要だった。そのせいでちょっとした事で怒りが爆発し、メンヘラが発動、鬼電・鬼LINEを一晩中繰り返し、最終的にスマホの電源を切られ、その後1ヶ月近く音信不通になってしまった。

2年以上、私はその人の為に命を削って頑張っていた。最初は全く稼げなかった地味で冴えないアラサーのおばさんも、立派に稼げる人気嬢になった。しかし、そんなに頑張ってももう意味はない。ホストに送ったLINEには、一向に既読がつかない。あぁ、私は何の為に生きているんだろう。どうやって生きていけば良いんだろう。街はクリスマスシーズン、きらきらのイルミネーションを見つめる恋人たち。私もホストの隣でイルミネーションを見て笑っていたかったな。恋人になりたかった訳じゃない、ただ隣で笑いたかっただけなのに。

色々なことを考えて、涙が溢れそうになる。何も考えたくない。そんな時、知人に『出会い系アプリでも始めれば?』と言われた。男を忘れるには違う男を好きになることだよと知人は言った。確かに一理ある。
私は出会い系アプリにすぐ登録した。すると、びっくりするくらい沢山の男性からメッセージが来た。もうなんでもいいや。私は気になる男性数名にメッセージを返して、何人かとは実際に会って食事をした。しかし、寂しさが消えることはなかった。

クリスマスイブの夜。本当はホストと同伴してお店に行き、クリスマスイベントに参加するはずだった。でも連絡はつかない。寂しさを紛らわす為に、この日もアプリでやり取りした男性と会う約束をした。たまたま住んでいる所が近かった為、家に遊びに来なよと言われた。なんかどうでも良いや、そう思ったので簡単に家に上がり込んだ。
もちろん、家に上がり込んで何もされない訳はなく、すぐに相手はがっついて来たのだが、私はそいつの頬を平手打ちし、
『風俗嬢がタダでヤらせる訳ねーだろ!』
と怒鳴ってそそくさと家を出た。

車を運転し、夜の街を彷徨った。家はあるけど帰る場所がない。何やってるんだろう私。どうしてこうなったんだろう。結婚したのにホストにハマって、風俗嬢になって、でもホストにも捨てられちゃって、知らない男の家にホイホイと上がり込んで、襲われそうになって、クズじゃん。自分が嫌になって、涙がポロポロと溢れてくる。

私は24時間営業のゲームセンターに車を停めた。そこは5階建てのビルになっている。ここから飛び降りたら死ねるかな。私が死んだらホストは悲しんでくれるかな。良い金ヅルがいなくなっちゃったって思うだけかな。もうどうでもいいや。私はここで死のうと決めた。

その前に、私は何故か一人の人物に電話を掛けていた。サブ担だ。
サブ担と言うのは、本命のホストではなく、二番手のホストの事だ。そこまで沢山お金を使う訳ではなく、本命のホストの事を相談したり、ただ友達のように楽しくお酒を飲んだりする存在で、私にもサブ担がいた。源氏名だから名前書いちゃうか。レオさんという、本命のホストと同じ年のオラオラ系のホストだ。ちなみに本命のホストも源氏名だから書いちゃうけど、ヒカルくんという。

呼び出し音が鳴る。すぐにレオさんは応答した。

『おうミキ、珍しいじゃん!』
『…レオさん。』
『???』
『…どした?ヒカルくんとなんかあった?』

私の声色で、ヒカルくんと何かあったんだとすぐに察したレオさん。私はその優しい声を聞き、涙が止まらなくなった。

『ヒカルくんとケンカして…連絡取れなくなっちゃって…なんかもう何の為に生きてるのか分かんなくなっちゃって…だから今からゲーセンの屋上から飛び降りて死にます…』
私は嗚咽混じりにレオさんに言った。静かに聞いているレオさん。そして私が話終わると、レオさんは優しく言った。

『あのね、ミキ。落ち着いて聞いてね?』
『そこのゲーセンね、飛び降り自殺する人がすごく多くてさ。』
『だからね、屋上に行くエレベーターのボタン押せないようになってるの。そこじゃ死ねないんだよ。』

え。

そう、そのゲーセンの屋上は既に閉鎖されており、飛び降り自殺は出来なくなっていたのだった。私は電話を持ちながら黙り込んだ。するとレオさんはまた静かに喋り出した。

『ミキはさ、ヒカルくんの事もっと相談出来る相手がいれば良かったのかもね。そうすればこんなに溜め込んでケンカする事もなかったでしょ。俺にもっと話せば良かったんだよ。ミキは俺にすら気遣ってあんまり愚痴とか言わなかったじゃん。』

『もっと感情出して良いんだよ。ミキはヒカルくんより年上だから、いいお姉さんでいなきゃ、しっかりしなきゃっていつも思ってるでしょ。もっと甘えて良かったと思うよ。それくらいする権利あるよ。こんなに頑張ってるんだからさ。』

『これからはもっと自分のためにお金使って良いんだよ。でもさ、ヒカルくんの為に頑張って稼いだお金だもんな。ヒカルくんの為に使わなきゃ気持ち晴れないよな。』

レオさん、何でそんなに私のこと分かるの…?
私は今まで抱えていた重たいものを全て見抜かれた気がして、我慢していたものがポロポロと崩れていった。少しだけ、ほんの少しだけど、心が軽くなった。

そして、次の日にまんまとレオさんのお店に行き、まんまと70万くらい金使った。バカである。ただホストの営業に引っかかっただけであった。

そして、結局本命のヒカルくんとも仲直りし、1月に200万のシャンパンタワーをやった。本当にバカである。

ホスト狂いだった2年半。信じられない金額を使ったが、意外と後悔はない。普通に生きていたら体験出来ないような刺激的な事を経験したからだ。幸い借金もなく、稼いだ分だけで無理なく貢いでいた為、むしろ貯金まで出来た。
毎年この時期になると、胸がヒリヒリとするようなこの出来事を思い出す。今でも仕事の送迎待ちの時、ラブホテルの前で冬の冷たい空気を頬に受けると、心がキュッと締め付けられる。
学生時代家がとても厳しく、あまり遊んでこなかった私にとって、ホスト狂いだった2年半は青春だった。本気で笑って本気で怒って本気で泣いて、本気で生きていた。すごくすごく楽しかった。

でも、レオさんに言われた『もっと自分の感情出していい』という助言、今でもうまく出来ていない。恋愛すると、恋人に気を使いすぎてしまい、自分の感情を殺してしまい、そしてある日爆発してしまう。レオさん、私やっぱりサブ担っていう好きな人の悩み相談が出来る相手が必要みたいだ。
もうホストにハマる事はないし行かないと思う。あんなに情熱を持って大金を稼ぐ程の気力と体力が私にはもうない。これからの人生は自分の感情をちゃんと出して爆発しないように、理解ある恋人と悩み相談が出来るホストではなく友人を作ろうと思う。

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