【透明文芸部】 亀山真一さん作 『この恋に未来はない』 【意見求む】への回答です。
#透明文芸部員レス希望 をいただきましたので、部員のひとりとして回答のエントリーを行いたいと思います。
正直、亀山さんの希望に添えているか疑問ですし、とても失礼な改変にあたるのではないかと心配もしているのですが、自分なりに考えたものを投稿します。
亀山さんの作品はこちらです。
そして、意見を求めるエントリーはこちら。
そこで皆さんに「デート中にこういうエピソードがあれば二人の関係や距離感に動きが出てくるのでは?」という意見を募集いたします。
この記事にコメントを頂くのでも、お問い合わせからこっそり送り付けて頂くのでも、いっそあなたの note にそのシーンを書いて頂くのでも構いません。
上記の引用文に則る形で、わたしなりの回答を書き上げました。
まずは、その文面を掲載します。そのあと、解説を書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。
途中のシーンから始まっています。
美月「先輩って……足、使えますよね」
陽翔「ああ、うん。俺は使える」
美月「どうして車椅子なんですか」
陽翔「(困った顔して)うーん」
美月「すいません。ちょっと聞いてみただけで――」
陽翔「ドクターに、死にたくなければ歩くなと言われたから」
美月「え?」
陽翔「簡単に言うと他人よりケガしやすい身体でさ。最初は車椅子なんてやってられるかって思ったけど、何度か病的骨折を起こして……懲りた」
美月「へえ」
陽翔「逆に言えば、いざとなったら俺は車椅子を降りられるんだ」
美月「いざって?」
陽翔「美月さんを危険から守って助ける」
美月「そんなシチュエーション、ありませんよ」
陽翔「あと、――」
陽翔「美月さんにキスすること」
陽翔、美月にぐっと顔を近づける。
美月「させませんよ、そんなこと」
陽翔、すぐに体を引き、笑いながら言う。
陽翔「命懸けだけどね。ここで突き飛ばされたりしたら、全身の骨が砕け散ったかも」
美月「……」
陽翔「美月さん?」
突然、美月が立ち上がる。
美月「私に命を懸ける価値なんかありませんよ」
陽翔「え、ちょっと待って」
美月は空になったカップを手に取って。
美月「捨ててくるだけです」
陽翔は、歩き出せぬままベンチから車椅子へと座り込む。
陽翔「何やってんだか」
一方、ゴミ箱まで歩いてきた美月はカップを捨ててつぶやく。
美月「守るって、なんだよ」
ふう、と息を吐き、回れ右をすると同時に笑顔を作り直し、陽翔の前に戻ってくる。
美月「陽翔先輩。せっかくなので一つだけ、おねだりしようと思います」
陽翔「え?」
美月、鞄からパスケースを取り出して、
美月「これ、チェーンが切れたのを思い出しました」
陽翔が笑って頷く。
○同・雑貨屋
美月「このパスケースがいいかな、あ……」
美月、ガラスのショーケースの前で立ち止まる。
美月「先輩、二万までならおごるって言いましたね」
陽翔、いぶかしげにうなずく。
美月「じゃあ、これにします」
美月が選んだのは、ガラスでできた白鳥の置物。
○同・雑貨屋~通路
レジで精算を終えて、店員から丁寧に梱包され、ラッピングされたガラスの白鳥を受け取る陽翔。
店員「ありがとうございました」
陽翔は店の入り口近くで待っていた美月に袋を渡す。
陽翔「はい」
美月「(受け取って)ありがとうございます」
しばらく沈黙するふたり。
美月は受け取った袋をじっと見ている。
陽翔「帰ろうか」
美月「あの、ありがとうございます。とっても高価なものを買わせてしまった。ごめんなさい」
陽翔「どうして謝るの?」
美月、しばらく沈黙したのちに、顔をあげ答える。
美月「私は、陽翔先輩が車椅子だからデートをOKしたんです」
陽翔、不意を突かれ、美月を見上げる。
美月「先輩のこと、完全に見くびっていました。なんていうか安パイとしか見ていなかった」
陽翔「いやまあ実際安パイよ」
美月「でも、先輩は当たり前だけれど、ポーズで車椅子に乗っているわけではなくて、それなのにちっとも卑屈じゃない」
陽翔「……」
美月「このガラスの白鳥を見て、思ったんです。先輩みたいだなって。壊れやすくて、繊細で、そのうえ、とっても乙女」
陽翔「いや、俺が女の子扱いされるのはさすがに困るんだけど」
美月、しゃがみこんで陽翔の瞳を見つめる。
美月「先輩が女の子だったらよかった。そうしたら、きっとあんなこと言わなかった」
陽翔「あんなことって?」
美月「先輩のことが好きじゃないって」
陽翔「でもそのおかげで俺は告白できたよ。こうしてデートもできたし」
美月「先輩はずるい。私は、先輩に向き合っているのに、先輩はまだ、私をまっすぐに見ていない」
陽翔「それってどういう……」
美月は立ち上がり、陽翔の車椅子を押し始める。
美月「先輩は先輩。男とか女とかそういうんじゃなくて、先輩は先輩なんだなって、気づいたんです。助けられたっていいじゃないですか。先輩は、私を守るって、助けるって言いましたよね」
陽翔「もちろん」
美月「じゃあ、私も助けます。先輩も私も、いろんな線を引きすぎているんです。男らしくとか女らしくとか、こんな言い方はあれだけれど、病人らしくとか」
陽翔「そう、かな」
美月「それらは個性や特性です。配慮は必要だけれど、人間であることに違いはない。だったらもっと自由に振舞っていい」
陽翔「わ、ちょっとスピード速くない?」
美月は車椅子を押すスピードを緩める。
美月「まだ、私、適切なスピードが分からない。でも、少しずつ知りたいと思う」
陽翔「え、それって」
美月「分からないことだらけなんです。だから、未来を決めつけなくてもいいのかなって」
美月、車椅子を止め、陽翔の隣に立つ。そのまま歩き始める。
陽翔もまた車椅子をこぎ始める。
ここまで。
シーンに新たに盛り込んだのはふたつの要素です。
ひとつは
陽翔「美月さんを危険から守って助ける」
と言うセリフ。もうひとつは
美月「じゃあ、これにします」
美月が選んだのは、ガラスでできた白鳥の置物。
ひとつ目のセリフで、少し美月の心が動きます。本来助けられる側である車椅子の先輩から「守る」と言う言葉をもらい動揺します。「いざ」という時に自分が含まれることへの淡い喜びのようなものが生まれます。
そのあとに、命を懸けるという言葉に本当にそういうことが含まれることに気づき、動揺が深まります。
その気持ちをごまかすために、茶化すように
「陽翔先輩。せっかくなので一つだけ、おねだりしようと思います」
というセリフを導きます。
そして実際に雑貨店に向かいます。
美月「先輩、二万までならおごるって言いましたね」
陽翔、いぶかしげにうなずく。
美月「じゃあ、これにします」
美月が選んだのは、ガラスでできた白鳥の置物。
雑貨店で思わぬものを目にします。ここの部分がわたしの完全な創作になるのですが、ドラマを仕立てる小道具を用意しました。
ここで肝になるのは、実は「二万までおごる」と言っていた陽翔のセリフになります(本編に実際にあります)。美月は、悪ふざけの気持ちと、先輩の姿にあまりに合致した置物に目を奪われてしまい、ついリクエストしてしまいます。
陽翔「はい」
美月「(受け取って)ありがとうございます」
しばらく沈黙するふたり。
美月は受け取った袋をじっと見ている。
この描写は、ふたりの気持ちに変化が現れたことを表現しています。ガラスの白鳥の意味にお互い気づいていて、ふたりの距離が変わったことを認識しています。
その後、美月の気持ちが大きく変化します。
美月「先輩はずるい。私は、先輩に向き合っているのに、先輩はまだ、私をまっすぐに見ていない」
ここの描写が個人的には、すこぶる少女漫画的だと思っています。男子からすると、おい、勝手だろ、と思うところなんですが、変わってしまったら、もう変わってしまうのが女子的思考だと思うんです。
ただ、その考え方に関しては、美月自身が釘を刺します。
美月「先輩は先輩。男とか女とかそういうんじゃなくて、先輩は先輩なんだなって、気づいたんです。助けられたっていいじゃないですか。先輩は、私を助けるって言いましたよね」
陽翔「もちろん」
美月「じゃあ、私も助けます。先輩も私も、いろんな線を引きすぎているんです。男らしくとか女らしくとか、こんな言い方はあれだけれど、病人らしくとか」
ここが、ジェンダーに対するわたしなりの回答部分であり、多様性の表現となります。
もちろん、美月に百合の属性があって、男性と付き合えないからエンドロールへというのはアリだと思うんです。でも、その志向を揺るがすドラマ、というのが必要じゃないかと考えるんです。
このあと、ふたりが付き合えるのかは分かりません。あっさり離れてしまうかもしれません。でも、いっとき心が通うこと、それがドラマなんじゃないかと思います。
最後が尻切れとんぼのように終わっているのは、タイトルにそぐわないラストに向かっているからですね。
ですので、タイトルからエンドまで改変が必要なのは、大変問題があると思うのですが、「ドラマ」を考えた時、わたしが導いたのはこの形でした。
以上で、回答を終えます。
とっても心配なまま眠りに就きますが、いい加減な気持ちで書いたのではないことを理解していただければ幸いです。
すっごく魅力的な主人公たちです。そこに電流のような心の交歓が生まれたら、もっともっと魅力が増すのじゃないかな、と思っています。
ここからのコミカライズや小説化をとても楽しみにしています。
石川葉 拝
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