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【小説?】メタな話【ついなちゃん二次創作】

「あー、疲れた」

自称・よろず創作家の男、TechpanCreateテクパン・クリエイトは自宅のドアノブに手をかけて溜息をついた。

病を得て足が不自由になって、休職してから半年余り、その後職を辞してから2ヶ月。
現在TechpanCreateは療養の合間を縫い、歩行のリハビリと、傷病手当の受給期間満了を見越した在宅稼業に向けた準備に奔走する日々を送っていた。昼間は地域共生センターのフリースペースを借りて作品造りに勤しみ、夜は地域共生センターへの往復(勿論徒歩である)で草臥れて早々に横になる。
そんな日々がそろそろひと月にはなろうか。

ぴんぽーん

チャイムが鳴る。
「誰だ?こんな時間に」
晩御飯を済ませ、打たれた綿のようにぐったりと横たわっていたTechpanCreateは、起き上がってドアを開ける。

ドアの向こうには、ひとりの少女が立っていた。

銀色の長髪をシニヨンにし、余った髪を後ろになびかせた目も覚めるような美少女だ。着ている服は和洋折衷の随分と煽情的な露出の高い服で、胸元やら二の腕やら太腿やらは素肌が剥き出しになっている。そして、驚いた事には…。

少女の頭には2本のツノが生えていた。片方は象牙のように白く、片方は黒檀の材のように黒い。

「…どちら様で?」
TechpanCreateが問うと、鬼と思しき少女は涙ながらに訴えた。
「テクノパンダさん!一体いつになったら私とじょうこちゃんの物語の続きを書いてくれるんですか!」
「えっ!?」
因みに【テクノパンダ】とはTechpanCreateの古いハンドルネームである。このハンドルネームを知っているのは、TechpanCreateの知り合いでも余程の古い御贔屓筋かその関係者位のものだ。それを淀み無くスラスラと口に出来ると言う事は、この少女は少なくとも自分の事を深く承知している、或いはそうした人物との接点があると言う事に他ならない。

TechpanCreateの目が丸くなった。

「まさか、あなたは」
「そのまさかです!昨年末についなちゃんファミリーの仲間入りを果たした、蓮鬼はすきねむですっ!」

蓮鬼ねむ。
2023年末、数奇な巡り合わせの末に【鬼っ子ハンターついなちゃん】プロジェクトの仲間入りを果たした鬼の少女である。

ねむの怒りには原因がある。
実はTechpanCreate、蓮鬼ねむのついなちゃんファミリー入りを寿ぐと称して、ねむが登場するついなちゃん二次創作のスピンオフを執筆すると宣言したのである。その宣言自体は破棄される事無く物語は執筆着手に至ったが、当の執筆者がプライベートで多忙を極め執筆活動に集中出来なくなり、現在物語の途中で更新が止まっているのだ。

「執筆活動を途中で放り出すなんて酷いじゃないですか!あんなに楽しみにしてたのに!」
「…まさか、ねむさん御自身が抗議に来られるとは、予想外でしたな」
「それで、一体いつになったら執筆を再開してくれるんですか!?」
憤怒の様相で詰め寄るねむを、後ろから抱きかかえる者がある。
「!?」
「ねむちゃん此処に居たの?ほら、おうちに帰るよ」
ねむを羽交い締めで抱きかかえたのは、二十歳過ぎ位のメイド姿の淑女だった。青銀色の髪を肩まで切り揃えた清楚な外見の淑女だ。
…その額を縫って生える、先端が赤いツノを除けば。

「じょうこちゃん!」
ねむが狼狽えた。ねむを捕捉したのは、ねむと共についなちゃんファミリーに仲間入りを果たした鬼の淑女、夢酔むすいじょうこだった。
「合成音声化の祝賀パーティーから急に居なくなったから心配したよ。さぁ、他所様の玄関先でクダ巻いてないで、おうちに帰ろうね」
「やだぁ!離して!私はテクノパンダさんにまだまだいっぱい抗議しなきゃならないの!」
「あ〜あ、こんなに酔っ払って。私の事言えないじゃないの。…嗚呼、テクノパンダさん。お騒がせしました。聞けば療養中との事、先ずは体を治す事を優先させて下さいね。…ほら、ねむちゃん暴れないの!」
「離して〜!」
「テクノパンダさんにはテクノパンダさんの事情があるの。ワガママ言わないでおとなしく待ちましょうね。…普段はこんなに悪酔いダル絡みしないのに、どうして今日に限ってこんなになっちゃったのかしら」
じょうこは尚も暴れるねむを引き摺るようにして玄関先から離れ、唖然として言葉を失い棒立ちのまま硬直しているTechpanCreateに向かい「失礼しました」と一礼して帰っていった。

暫し、遠ざかるねむとじょうこの姿を無言で見送っていたTechpanCreateは、遠ざかるねむとじょうこに向かって無言のまま深々と頭を下げて詫びた。そしてドアを閉めると、ほうとひと息ついた。

(ねむさんの期待を裏切らぬ為にも、先ずは体調を整えて執筆活動の完全再開を目指さねば)

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過日、ついなちゃんファミリーに仲間入りを果たした蓮鬼ねむさんのA.I.Voice2が販売になりました。おめでとうございます。

因みに、この小話に記された旨はだいたい事実です。ねむさん、スピンオフ執筆が停滞しており申し訳ありません。

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