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【小説】深窓の令嬢【ついなちゃん二次創作】

時空を跨ぎ次元を跨ぎ、悪しき魑魅魍魎を払う若き辟邪の神格、方相氏・追儺ほうそうし ついなはその日、妖怪退治の合間を縫ってとある並行世界に来ていた。

「この世界の"ウチ"は何処に居るのかいな」

空の一角から、追儺はあちこちを小手を翳して見回す。

その時、追儺の視界にあるものが写った。それは、イギリスとかオーストリア辺りにありそうな大きな豪邸だった。
(ほう、この世界の日本には随分景気の良い家柄があるもんやな)
そんな事を思いつつ、追儺が見るともなしにその豪邸を見ていると、豪邸の玄関を開けてひとりの老人が姿を見せた。
禿頭で、分厚いレンズの眼鏡をかけ、辛子色のスーツを着ている。
追儺はその老人の面影に、甚だしい既視感デジャヴを感じた。

(あのお年寄り…ウチが人間だった頃、面倒見てくれていたおじーちゃんにソックリや)

そう、この老人こそは追儺がまだ人間だった頃の母方の祖父・如月宝庵きさらぎ ほうあんの多次元同位体なのであった。然し身なりと言い、住んでいる邸宅と言い、何もかもが追儺の居る次元軸とは大違いである。
雰囲気からするとこの世界の宝庵老は、化学者か何かの職に就いているらしい。

(並行世界によっては、こんなに境遇が違う事もあんねやなぁ。…それやったら、この世界のウチは一体どんな感じなんやろ)

そんな事を追儺が考えている内に、邸宅前に1台のリムジンが止まった。同時に、古風なロングスカートのメイド服を着た20代前半位の女性が邸宅内から出てきた。肩まで伸ばしたコーヒーブラウンの髪が美しい。宝庵老はメイド服の女性を振り返る。

「儂は鳥取県で開催される学会に参加する為、暫く留守にしなければならない。儂が居ない間、孫娘の事は任せたぞ」
「かしこまりました」
「…孫娘はこの数年に立て続けに起きた出来事が原因で心を閉ざしている。出来る事ならば、孫娘にその閉ざした心を再び開いて欲しいのだ。君なら適任だろう。…宜しく頼む」
メイド姿の女性が恭しく一礼すると、宝庵老はリムジンに乗り、邸宅を離れた。

その少し後。
邸宅の扉を恐る恐る開く、ドレス姿の可憐な少女があった。
雪のように白い肌に真珠色の髪、琥珀色の瞳を持つ華奢な少女である。髪型は腰まで届くストレート。その顔は些かの幼さはあるものの、追儺に瓜二つだった。

「…おじーちゃんは?」
少女…追儺の同位体、この並行世界における如月きさらぎついな…以下、便宜的に【ついな嬢】と呼称する…はおずおずとメイド服の女性に問う。女性は優しく柔らかな声で答えた。
「おじい様は、学会に登壇する為暫く留守にするそうです。おじい様が戻るまでは私…明日夢志穂あすむ しほがついなお嬢様の世話をさせて頂きます。何なりとお申しつけ下さいませ」
メイド服の女性…明日夢志穂はそう言って穏やかに一礼し、たおやかに微笑んだ。

一連の様子を眺めていた追儺は、空の上で自分の多次元同位体を見て顎に手をやった。
(この世界のウチ、どうやら普通の人間みたいやな。しかも、体が弱そうや)

夕刻。
追儺は相変わらずついな嬢の様子を見ていた。
ついな嬢は、どうやら入浴の支度をしているらしい。今時あまり見かけないクラシカルなデザインのバスタブに、静かにお湯を貯めている。そこへ志穂がやって来た。
「お湯づくりなら、私が致しましたのに…」
「でも…何か悪いから」
「気兼ねは要らないのですよ。全て私にお任せ下さいませ。…先ずは入浴前に足を洗いましょう。こちらの桶に片足づつ入れて下さい」
志穂は大きな桶を用意し、湯を張り、上等な石鹸をその手に取って泡立てる。そして、バスルームの一角にある腰掛け場に腰を下ろしたついな嬢の白く細い足を丁寧に洗い始めた。

バスタオル一枚のついな嬢の姿は、吹けば飛ぶように儚げである。そんなついな嬢の事をいたわるように、志穂は甲斐甲斐しくついな嬢の面倒を見ている。
ついな嬢の両足を洗い終え、マッサージまで施した志穂は、ついな嬢の足に残った石鹸の泡を柔らかそうなバスタオルで優しく拭き、それからバスタブの中に入るよう促した。

チャプ…

ついな嬢の華奢な体が湯船に沈む。
志穂は薫りの良い入浴剤を用意したり、アロマキャンドルを灯したり、ローズヒップのシロップをウィルキンソンの炭酸で割ったドリンクを用意したりして、尚も甲斐甲斐しくついな嬢の世話を続けた。

「…ごめんね」
言葉少なについな嬢様は志穂に礼を言う。志穂は飽くまでまったりとした笑顔を崩さず、不安げな顔をするついな嬢の手を取った。

「この度こちらのお屋敷にご奉公が決まった際、おじい様から色々とお伺いしました。聞けばお嬢様は、嘗てお母様とはお嬢様が生まれた時に死別、お父様は飛行機事故で帰らぬ人になったとか。寂しかったでしょう。…宜しかったら、これからは私を姉と思って下さいませ。私はお嬢様を妹のように、宝物のように慈しませて頂きます」

ついな嬢は無言のままその言葉を聞いていたが、やがてほんの少しだけ笑顔になった。それから、ポツリとこう漏らした。
「…ウチ、おじーちゃんに引き取られて、意図せず深窓の令嬢と言う立場になってしもたんやけど、深窓の令嬢が関西訛りの言葉を使うのはおかしないかな、変じゃないかな」
「かわいらしくて私は好きですよ」
志穂がウインクする。

「さあ、髪の毛と首周り、デコルテを洗いましょう。特別な石鹸とシャンプーを用意しましたよ」

志穂の手際が良い洗髪と頭皮マッサージを受けながら、とろんとした目をしているついな嬢の姿を見て、追儺は何処か満足気に踵を返した。そして口には出さず、こう呟いた。

(…幸せに生きるんやで、この並行世界のウチ)

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ワタクシは寝る時に必ずASMR音源の世話になります。(ワタクシとASMR音源の関係については以下の記事を御覧下さい)

此処暫くは、【深窓の令嬢の入浴を手伝うメイドのロールプレイ】(淫靡な内容じゃありませんよ、念の為)のASMR動画を聴きながら寝るのですが、これが実に良く入眠出来るのです。
勿論ワタクシは【お嬢様】ではありませんから、何処かの深窓の令嬢の追体験、と言うよりはその動画の優しく品のある語り口調を純粋に楽しんでいるのですが、ふと【この"お嬢様"がついなちゃんだったらどんな感じだろうな】と思ったらするするとストーリーが思い浮かび、ほぼ一気呵成に書き上げてしまいました。
パラレルワールドにも程がありますが、ついなちゃんクラスタの皆様の宥恕を乞うばかりです。

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