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#2 文章の流れをよくするknown-to-Newの原則 その1

はじめに

自分の書き上げた論文の草稿がなんだか読みにくい、生き生きとした英語にならない、つまるところ、文章の流れがよくないということがありませんか?

文章の流れは英語でFlowもしくはCohesionといい、これがよくないと論文は読みにくくなります。この原因は様々ですが、1)文の順序が適切ではない、2)文中での単語の順序が適切ではない、といった文や単語の順番に起因ことが多くあります。これらの順番を最適化する方法はいくつかあり、今日は特に強力な”known-to-newの原則”を紹介します。

Known-to-newの原則

Known-to-newの原則(*)は、「既知(known)の情報を未知(new)の情報 よりも先に書きましょう」というシンプルなものです。

この原則は我々の心理に基づくと思います。一般的に、知っている情報は頭にすっと入りやすい一方で、例えば会話でいきなり知らない事を言われると「えっ、なに?」と混乱しやすいです。未知の情報は学術論文にあふれているのが普通ですから(論文の性質上そうあるべきです)、書き手はこの原則を適切に使い情報の整理を読者のためにする必要があります(例外についてはいずれ後述します)。

また、既知と未知の情報の境界はあいまいです。読者の知識によりますし、未知の情報も書かれた段階で既知の情報に変わります。また、論文の対象となるテーマの新しさにもよるでしょう。境界を決めるのには書き手の判断が必要になります。

Known-to-newの原則を使って文をならびかえる

それでは、この原則を参考にバージョン1と2ではどちらの方が文が適切に並んでいるか考えてみましょう。

バージョン1(**)

1) In 2020, the COVID-19 pandemic rapidly accelerated the development of mRNA vaccines.
2) Over the past several decades, mRNA vaccines have progressed from a scepticism-inducing idea to clinical reality. 
3) Additional research is required to optimize mRNA design, intracellular delivery and applications beyond SARS-CoV-2 prophylaxis, although it is now clear that mRNA vaccines can rapidly and safely protect patients from infectious disease.

1) 2020年、mRNAワクチンの開発は新型コロナウイルスの世界的流行によって急加速した。
2) 過去数十年にわたり、mRNAワクチンは懐疑的なアイディアから臨床へ向け開発が進んでいた。
3) mRNAデザインの最適化、細胞内送達ならびに新型コロナウイルス以外への適用に向けた研究は今後も必要だが、今ではmRNAワクチンは素早く安全に患者を伝染病から守る有効性は明白である。


バージョン2(**)

1) Over the past several decades, mRNA vaccines have progressed from a scepticism-inducing idea to clinical reality. 
2) In 2020, the COVID-19 pandemic rapidly accelerated the development of mRNA vaccines. 
3) Additional research is required to optimize mRNA design, intracellular delivery and applications beyond SARS-CoV-2 prophylaxis, although it is now clear that mRNA vaccines can rapidly and safely protect patients from infectious disease.

バージョン1は、1文目に2020年のこと、2文目に過去数十年のことを述べています。バージョン2は1文目と2文目が逆です。通常、過去数十年に起こった出来事の方が2020年の出来事よりも既知の情報(Known)である可能性が高いです。したがって、バージョン2がKnown-to-newの原則に即しています。原文もバージョン2の順番です。

「2020年のmRNAの開発の方がmRNAの歴史よりもよく知ってるよ」という方も多いと思います(僕もそう)。しかし、この文章は学術誌に掲載されていますから、読者はmRNAについてもよく知っているでしょう。したがって、時系列に文を並べる方が自然と言えるでしょう。

まとめ

Known-to-newの原則を使うと文の並び替えは比較的簡単にできると思います。次回は、同原則をもちいて一つの文内での単語の並び替えについて考えようと思います。これに役立つテクニックも紹介します。

(*) 他にもgiven-before-newの原則、Given-Newの原則、Information flowの原則などと呼ばれるようですが、ここでは僕の師匠であるReichard博士に倣って、Known-to-newの原則と呼びます。

(**) 原文はNature Reviews Drug Discoveriesよりhttps://www.nature.com/articles/s41573-021-00283-5

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