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あの頃はエンゼルクリームがいたし、何だったら今もいる。

 もし今「ミスタードーナツで一番好きなドーナツって何?」と聞かれたら、私は絶対に「エンゼルクリーム」と答えるだろう。何だったら、「ドーナツ」の「ド」ぐらいで。
 私が高校3年生の夏休み、私の家の最寄り駅の中にあったミスドが閉店した。今思えば、あのミスドが私にとっては、母が作ってくれるもの以外の「甘いもの」の始まりだった。
 4歳から始めた水泳教室からの帰り道、母に6個入りの小さなドーナツを買ってもらったとき、いつも最後まで楽しみに取っておくのは、ホイップクリームが入ったふわふわのドーナツだった。
 そこから私が少し成長して、大きなドーナツを食べられるようになっても、「ふわふわのドーナツ」、要するにエンゼルクリームは常に私の「一番」として君臨し続けた。あれからもう、20年以上が経つ。
 小学生の頃、親に内緒で校区外のショッピングセンターに行き、友達とおやつを食べたときも、中学生の頃、部活が休みの日に、あのバンドの名前の由来はコーヒーのシロップなんだよ、と音楽の話をしていたときも、高校生の頃、カフェオレをおかわりしながら定期試験や大学入試の勉強をしていたときも、エンゼルクリームはそこにいたのである。
 地元からミスドが無くなって7年が経ち、自宅から最寄りのミスドまでの距離は3倍になった。それでも、相変わらず私は一番好きなドーナツを聞かれたら、食い気味に「エンゼルクリーム」と答えるし、ミスドに入れば、大量に並んでいるドーナツの中から、あの白くて丸いふわふわのドーナツを探してしまう。
 手土産にドーナツを買うときなど、絶対にひとつはエンゼルクリームを買って、「ごめんなさい」と思いながらも、別の袋に入れてもらう。大好きな食べ物を前にすると、私の性格の悪さが露骨に表れる。何と言われても、私は譲らない。
 エンゼルクリームは「そこにいた」のではない。今も、私の「一番」として「いる」存在なのだ。つづく。

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