【安部公房の『なわ』】雑記.20240115

・安部公房の短編集『無関係な死・時の崖』の中の『なわ』という短編を読んだ。

・安部公房という作家については、サカナクションの山口一郎などの自分の好きなクリエイターの方々が言及しているのを見かけていたので興味を持ってはいたが、今まで手を出せていなかった。というか最近読書自体から少し距離を置いてしまっていたのもある。

・この作品については唯一知っていた。コジマプロダクションのゲーム作品『デスストランディング』の冒頭にて引用されていたためだ。

「なわ」は、「棒」とならんで、もっとも古い人間の「道具」の一つだった。「棒」は、悪い空間を遠ざけるために、「なわ」は、善い空間を引きよせるために、人類が発明した、最初の友達だった。「なわ」と「棒」は、人間のいるところならば、どこにでもいた。

安部公房『なわ』

・ゲームを始めると、丁度このような形で画面に表示される。初めてプレイした時、率直に「こういう時に日本の文章なの珍しいな」と思ったのを覚えている。

・この内容はゲーム本編にかなり沿ったものだと言える。小島監督自身も「今までの戦うゲームが『棒』のゲームなら、本作は『なわ』のゲームだ」と語っていたことが(たしか)あったし、実際に本作の通信に関係したシステムは「繋がり」を意識したものと言える。加えて、物語にも「なわ」にまつわるキーワードがこれでもかというぐらい出てくる。
タイトルにあるストランドには「より糸」という意味があるし、通信を繋ぐキーアイテムQpidも糸に繋がれているし、他にもノット(結び目)の名を冠した街や、主人公が持つ糸を結んで作るお守り「ドリームキャッチャー」など挙げ出すとキリがない。
それでも全体に共通しているのは、その「なわ」というのは基本的に「繋がり」を象徴しているということである。世界の分断を目論む敵勢力と、アメリカ大陸の全てをネットワークで繋げようとする主人公たちとの対立が本作の中心となっていることからも明らかだ。

・しかし、『なわ』を読んでみると、驚くことに「なわ」はそんな使われ方はしない。それどころか、幼い姉妹による、他者に対する攻撃の道具として用いられていた(惨い内容な上、正確な紹介ができる自信がないので詳細は省かせていただく)。
ある意味、その暴力は姉妹にとっての「善い空間を引きよせる」ことに作用していたとも取れるのだが、引用箇所から受ける印象(あるいは『デスストランディング』との符合)とはかけ離れた物語で、なかなか衝撃的だった。

・物語としては、その不条理さとメタファー的な側面が特に印象的だった。これは、自分がここ最近アニメやゲームの物語にばかり触れていたことによるカルチャーショックのような部分が大きいのかも知れない。12話に区切られた脚本や、遊びと並行するゲームシナリオとは大きく違っていたように思う。
結末は「なわ」に関する内容だが、その前には「スクラップ置き場の罐の中に海がみえる」という突拍子も無いとも言えるような内容が挟まる。他にも、最後に語られるのは姉妹の話なのに、彼女らが登場するのはかなり後半の方なのも少し特異に感じた。全てが無作為のようにも思えるし、逆にその全部が一様に意味を持っているようにも思えて、これは一般的なアニメやゲームには無いような表現だなと感じた。

・残りの短編も読みます。

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