コント「都市閉鎖」

コント
都市閉鎖

男二人がリビングでお茶をすすっている。
ほのぼのとした朝。
若杉  はじまりましたねぇ。
齋藤  ええ、始まりましたね。
若杉  どうしますか?
齋藤  如何しますかと聞かれたところでどうしますかね?

二人お茶を飲む

若杉  変なタイミングでなっちゃったなぁ。
齋藤  まぁ、どのタイミングでなってもそう思う人はいっぱいいますよ。
若杉  まぁねぇ。でもさ、このタイミングで都市閉鎖はさぁ…
齋藤  もう、あなた次第だ。私の未来はあなた次第だよ。
若杉  なんで、40過ぎの私が、同じく40過ぎのあなたの人生背負わなきゃいけないんだ。
齋藤  私もそれは思う。なんていうのかなぁ。とっとと見過ごしてくれればこんな不思議な関係にはならなかったのになと。
若杉  はははははは、面白いこと言いますよね。仕事終わって家に帰ったら見ず知らずのあなたが私の家の中でタンスをあさっていた。
齋藤  大したものなかったですねぇ。通帳のあれは何ですか?記入していないだけですか?預金残高一桁の40過ぎいますか?
若杉  そう言う所僕は嫌いだなぁ。今の世の中ね、幾つになってもぎりぎりの人はいますよ。
齋藤  ギリギリって言ってもさぁ。もうこの年なんだから貯蓄の一つや二つねぇ…
若杉  う~ん。もう一度立場をしっかりさせようか。おい、空き巣。
齋藤  はい、空き巣。
若杉  失敗した空き巣。
齋藤  あ~、来ますね。その言葉は来ますね。でもそう、あてくしは失敗した空き巣です。
若杉  そう言うのずるいよね。なんかすぐ認めるの。怒る気がなくなるんだよなぁ。
齋藤  そう言う所の優しさは本当にありがたい。
若杉  空き巣が一般人に説教垂れていいのか?
齋藤  職業差別ですか?
若杉  空き巣という職業はありません。空き巣は犯罪です。
齋藤  でも、それで食べているんです。立派な職業だとあてくしは思うのでやんす。
若杉  やんすキャラだと…
齋藤  あなたに見つかって早二日、お世話になっております。
若杉  だって今、家から出ちゃだめだし、県跨いでの移動なんか世の中的にできないからね。
齋藤  なんでこのタイミングで始まりますかね?緊急事態宣言&都市閉鎖。
若杉  あんた空き巣むいてないんじゃない?
齋藤  そうかなぁ。
若杉  貯金もない家に入り込むは、家主に見つかるはその上、説教中に緊急事態宣言とロックダウン始まって動けなくなるわ。
齋藤  踏んだり蹴ったりですよ。むいてないのかなぁ…むいててぇ・・・なんで…この私をかくまってくださったのですか?
若杉  私に見つかって、部屋の中走り回って、外出ようとしたところで、町内のスピーカーからロックダウン開始の合図。それを聞いて、あたふたしているあなたが、昔飼っていた猫のちいちゃんの拾ってきたばかりの頃を思い出してしまったんです。
齋藤  だからか・・・・あなたが最初にあてくしにかけてくださった言葉は
二人  大丈夫怖くない。
齋藤  だったのは。
若杉  はい。
齋藤  とっさに私は「ワン」と犬の鳴きまねをしてしまいました。
若杉  飼っていたのは猫でしたので、惜しいなとおもいました。
齋藤  そうですか。
若杉  ロックダウン解除まであとひと月弱はあると思います。
齋藤  はい。
若杉  共に過ごしますか?
齋藤  許されるのでしたら帰りたいです。
若杉  県跨ぎの移動は厳禁です。これは私が決めているのではなく、国が決めているのです。
齋藤  それでも・・・・私は家に帰りたい。
若杉  危険すぎます。見つかれば捕まります。昨年、海外の映像で見ました。ロックダウンを無視した若者たちが、警察官によって、道端で腕立て伏せをさせられたり、罰金を取られたり・・・・あなたのその体で、腕立てなんかしたら・・・・体は持ちません。
齋藤  空き巣に有るまじきこの体格。ですが腕立てならば多少は・・・・
若杉  無茶だ。
齋藤  ・・・・家主殿、私を警察に引き渡しなさい。
若杉  ちいちゃん・・・何を言って・・・
齋藤  私はちいちゃんではない。それ怖いから辞めて。
若杉  一緒に暮らそう。
齋藤  うん、あ~・・・・目が・・・・マジですね。
若杉  ロックダウン
齋藤  緊急事態宣言
若杉  人々は家から出ることを禁じられ
齋藤  町を渡ることすら制される。
若杉  モフモフしていいですか?
齋藤  私はただの中年の空き巣です。
若杉  ちいちゃん。
齋藤  そのまじめな目線をやめてください。恐怖です。猫の生まれ変わりとかじゃないですから。
若杉  さぁ、カリカリを
齋藤  さっき一緒にコーヒー飲んでたでしょう?おかしいでしょ。
若杉  ちいちゃん!
齋藤  あ、ああ・・・猫じゃらしはやめてぇぇ。あご、顎を撫でるなぁぁぁぁ

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