今日テココント  バレンタイン


チャイムが鳴る
校舎裏に呼び出され大谷が向かうと、
知らないおじさん北村が立っている。
二人に面識はない。

北村  「 いいねぇ。こう言うの!実にいい!青春だね。」
大谷   「はぁ・・・」
北村   「なんだよ!もっとこうさ、ワクワクして行こうよ。」
大谷   「・・・・う~・・・ん・・・」
北村  「 こういう甘酸っぱい思い出ってのはね、中々ないものなんだよ。今の内に満喫しとかないとねぇ。」
大谷   「あの…」
北村   「大人になってからでは味わえないんだよ。あ、これはおじさんがモテなかったからとかではなくてね、会社の裏に呼び出されるってあると思うかい?ないんだよね。」
大谷   「あの…」
北村   「この前ね、綺麗な女上司に会議室に呼び出されたのさ。居るんだよぉ。ウチの課長は、やり手のエリートでね、歳なんか私の十以上も離れているのに、私の上司だ。見た目もきれいだし、仕事もできるしね。私もちょっとドキドキしながら会議室に行ったのさ。」
大谷   「はぁ…」
北村   「会議室のドアを開けるとその綺麗な上司と二人っきり。ドキドキしたねぇ。そしたら、彼女が私を対面に座らせて、言いにくそうに口を開くんだ。北村さん、女子社員からセクハラで訴えられています。ってね。」
大谷   「…」
北村   「まぁ、訴えるといってもいきなり、裁判所にはならずに会社の方でまずは、という形らしいんだけどね。」
大谷  「 …してたんですか?…その…セクハラ…?」
北村   「セクハラねぇ…してたみたいだねぇ。冗談かと思ってたら本当に嫌だったみたいだねぇ。すごいんだ。わが社は社員が七十五名、ウチ半数近い三十名が女子社員なんだが、そのうちの20名を超える女子社員からの連盟起訴らしいんだよね。」
大谷   「大事…ですよね。」
北村   「そりゃ大事だよぉ。その後、社長に重役、人事などなど、沢山のお偉いさんが会議室に来てね、ガラガラだった会議室が満席になってしまったよ。」
大谷   「そうですか、大変でしたね。」
北村   「なに?そっけないねぇ?どうしたの?」
大谷   「・・・そりゃそうですよ。」

北村   「どうした?おじさんでよければ話聞くぞ?こうして、学校の校舎裏で出会えた仲じゃないか。」
大谷  「 はい、では、思いきって言わせていただきたいです。」
北村   「どうぞ!良いね!学生の思い切り!良いね!」
大谷   「あなたはどこの誰ですか?なんで学校にいるんですか?そして、僕は今から恐らく女子からチョコレイトをもらいます。なぜなら、女子に呼びだされたから!」
北村   「おお!素敵だ!おいちゃんの勘当たったね!やっぱりそうだ!なんかね、君からソワソワしたオーラ出てたんだよぉ。」
大谷   「帰ってよ!」
北村   「あ、保護者同伴ドッキリやる?」
大谷   「やりません!なんで知らないおじさんと好きな子にドッキリかけなきゃいけないんですか?」
北村   「君の父です!とか言っちゃうの。」
大谷   「名前も知らないでしょ!」
北村   「あらぁぁ!えっ?なに?その子の事好きなの?嘘ぉぉぉ!勝ち組じゃん!これ両想いじゃん!素敵!あぁぁぁあまずっぺぇ~。」
大谷   「先生に知らせますよ!」
北村   「大丈夫だよ。もうすぐ皆来るから。あ、どこの誰かも、おいちゃんの上着の右ポケットに財布と免許証と社員証入ってるから後でみてね。」
大谷   「は?」
北村   「いやぁねぇ。悪いとは思ってたんだ。」
大谷   「セクハラの件ですか?」
北村  「 違う違う!あ、違うってのはまた違うか?ん?違う違うばっかりで何が違うかわからなくなっちゃってるよね?ん?違うか?」
大谷   「…お酒飲まれてますか?」
北村   「昨日飲んだねぇ。風にあたりながら我が人生を振り返っておりました。」
大谷   「じゃぁ、そのまま振り返って帰宅してください。」
北村   「出来なくなっちゃったのぉ。帰宅。」
大谷   「ああ、もうすぐここに来ちゃうんですよ!早く消えてください!」
北村   「ああ、そうか・・消えることはできるか?」
大谷   「は?」
北村   「本当に堪忍なぁ。こんな所に飛び降りてしまって。」

北村の姿が霧のように消える

大谷   「ああ…そう言う事か…あ、ごめん、告白の前に先生呼んできてもらえる?あそこで人が倒れてるんだけど‥‥多分死んでるから」


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