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夕暮れの農道

Wさんの短いお話

会社帰りのWさん。
気まぐれで少し遠回りな農道を通る事にした。
19時過ぎの薄暗い、擦れ違う対向車も人影も滅多にない農道だ。

とあるアンダーパス(高架下道路)へと曲がり、潜り抜けた先にソレは有ったという。
ヘッドライトに照らされて一瞬浮かび上がったソレは、畑などの端に積み上げてあるゴミ(大抵は土混じりの雑草や農業用マルチシート)の山だと思ったそうだ。

だが即座に違うと感じたのは、その山に光線を緑色に反射するビー玉の様なモノが幾つもあった為である。
そしてそれらが動物の目のように二つづつ縦に横に斜めに並んで光っており、その持ち主が皆性別も定かではない老人の顔で、彼らの胴体は泥まみれのカッパやモンペと共に絡み合い、それが山を成していたという。
緑に光る目玉達はヘッドライトに照らされた瞬間、一斉に光源の方へ、つまりWさんの方へギョロリと視線を向けた。

緑色の視線を集めてしまったWさんは「胸がギュッとして息が止まった」という。
ショックで視界も白くチカチカして、兎に角その場から逃げ出したくなった。
しかし今ここで事故るのは絶対にダメだと何とか自身に言い聞かせ、出来得る限り冷静に且つ迅速に車を操作し、その場から離れたという。

暫らく混乱したまま農道を走り続け、民家の明かりが灯る集落まで来てようやく車を停める事ができた。
途端に冷や汗が噴き出し、ハアハアと息をしながら、涙が零れるのを感じたそうだ。

何故それが見えたのか?は未だにWさんにもわからないらしい。
別に初めて走る道でもなかったし、Wさんの記憶の限りそこは昔から田んぼや畑のある農地だった筈だ。
ただそれ以前の事はわからない。

暫らくはその道を避けたが、2ヵ月もすると恐怖も薄れ、確認の意味で何回か件の農道を走ってみたらしい。
ゴミの山はとうの昔に片付けられており、緑色の目玉を見掛ける事も無かったそうだ。

ただ来年の同じ時期にまたそこを走るまでは安心はできない、とWさんは言っていた。
止めておけばいいのにと思う反面、もう一度遭遇してみて欲しいとこっそり思っている事は、Wさんには内緒にしておいて欲しい。

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